あんまりですわ!
羽間慧
あなたが書き手なら、私の思いを分かってくださるはずですわ!
そちらのアカウントの運営は別に悩みませんの。私が称賛を求めるのは、小説投稿サイトのアカウントの方ですわ。杏南財閥も、眞璃咲の名前も、お嬢様らしさも封印しているのですよ。この私が! 文章力だけで真剣勝負しているのです!
もともと、小説家になりたいという夢は持っていましたわ。オルコットの『若草物語』やモンゴメリの『赤毛のアン』は、私に光をもたらしてくれましたの。私もあんな風に、一緒にお話ししたくなるような登場人物を生み出してみたいと思ったのです。初めて書いた短編小説をお母様に読んでいただくのは気が引けて、小説投稿サイトに載せることに決めましたわ。
初めて読んでくださったのは、お優しい方でしたわ。
「話のテンポが遅く、削った方がいいと感じた部分は多々ありました。けれども、ご自分の世界観はきちんと持たれているため、小説の書き方を学ばれたらすぐに上達されるのではないでしょうか。これからラピスさんの小説がたくさん読めることを祈っています」
応援コメントなるものをいただき、私は初めて他者にひれ伏したくなりました。いろいろな方の小説を読み、ドキドキしながらレビューを書き、自分なりの研鑽を続けていきました。私の周りに集まる方は、前向きにさせてくださる言葉しかおっしゃいませんの。初めて応募したコンテストが中間選考に落選したときも、温かく励ましてくださいました。ご自分の体験談を語りながら、創作活動を続けていってほしいと祈る方もいましたのよ。聖人君子しかいない世界なのかしらと、ありがたみを噛みしめましたわ。
地道に活動を続けて六年、ついに私の堪忍袋の緒が切れました。諸悪の根源はこれですわ!
「ラピスさんの文章うまいですね。面白かったです。私も異世界ものを書いているので、親近感が湧きました。でも、なかなか読まれなくて、コメントも少ないので、どこをどう直したらいいか分からないんです。私の作品を読んで、批評をもらえませんか?」
常識的に考えて、この文章は応援コメントではありませんよね。厚かましいにも程がありますわ!
美辞麗句を無理やり引き出したもらったところで、何の役に立つというのでしょう? はっきり言いますが、時間の無駄以外の何物でもありませんわ。物書きである以上は、自分の言葉に責任を持つべきですわ。コメントが少ないのは、読者も遠慮しているんですの! どこをどう直せばいいのか、反応に困っているのじゃなくて? 一応目を通してあげましたから、無視したことは大目に見なさい。リラックスに効果のあるアロマオイルを至急用意させるほど、忙しかったのですから。
それから、許されざる所業がもう一つ。コンテストに応募している私の作品を、侮辱したのですわ。応援ボタンを押さずして評価のお星様を落とすのは、人としてどうかと思いません?
応援ボタンはあくまでも任意ですけど。任意ですけども! あのボタンは「楽しく読ませていただきました。続きも大切に読んでいきたいです」という意思表示ではありませんの? お星様は最大で三つ差し上げることができますが、何も読まずに一つ二つしか押さないのは喧嘩を売るおつもりなのでしょうか? もちろん、三つもあげたから許してという言い分は聞きませんわ! そういう人間だったのですねと、エーミールのように淡々と言ってあげるだけです!
一番許せなかったのは、無言評価をした輩があんまりのファンだと公言していることでした。この世で一番いらない応援の仕方ですわ! ファンなら、私の格言をご存じですよね? 下々を酷使するからには、それだけ礼を尽くしなさいと!
あんまりですわ! 羽間慧 @hazamakei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます