42.魔道具工房・ヴェルクツォイク

昨日の魔道具店で紹介された評判の魔道具工房ヴェルクツォイクについた。


貴族街だけあって外観が優美だ。看板もオシャレで入り口はガラス張り、魔道具の相談をする為なのか面談をするようなブースがいくつかあり、受付があるのが外からでも見えた。


今日は冒険者業は行わないのがわかっていたので、ハク君も胸当て等の防具はつけていない。綺麗めの白シャツと臙脂えんじ色のベスト、ズボンに、靴はいつもの黒のコンバットブーツだ。腰には一応短剣を指している。ハク君の戦闘手段は強化魔法の部分利用の剣だからね。帯剣してないと落ち着かないのだろう。


俺の格好は紺色の着物生地のスタンドカラーシャツに、スラックスにウィングチップのカントリーブーツ。全体的にゆったりサイズにして今日は綺麗めだけど楽チンスタイルだ。


オシャレ工房に踏み入るのに問題はない。

そう納得して、店内に入って受付で魔力を吸収するか放出する魔道具が欲しいと言ってみると、首を捻られ、店長に聞いてみます、と受付のお姉ちゃんは奥に引っ込んだ。


しばらく待っていると、受付のお姉さんの後を背の高い眼鏡の、髪をボサボサにしたお兄さんが付いてきた。



「お待たせしました。店長のヴェルクツォイクです。」

「あーー......宜しく。」

「わざわざ店長みずからご足労すみません。冒険者と錬金術師のアキです。」

「ぼ、冒険者のハクです!」

「ん.......聞いたところによると、魔力を吸収か放出する魔道具が欲しいんだって?何で?」

「........知り合いの魔力過多症の子のすこやかな成長の為に。」

「やっぱりそれか。ーーうん、前にも知り合いの貴族に相談された事あってね、僕も調べてるんだけど..........結論から言うと、出来るか保証できないけど、いいとこまで行ってると思うんだよね......君たち、古代語本って読んだ事ある?」

「「ないです。」」

「ーーー魔法陣の方は?」

「それなら俺は読んで、実行してます。」

「ぼ、僕は魔力があまりないので.......。」

「ふーん.....君、錬金術師でもあるんだよね。研究肌かな。若そうなのに銀バッチつけてるし........なんか役に立つかも........。悪いけど、資料が自室にあるから、着いてきてくれる?」



言うが早いか、きびすを返す店長さん。彼こそ研究肌なんだろう。役に立つかもとかそんな理由で自室にあげちゃうんだ。

着いてくけども。


受付の奥に続く廊下の端に何やら魔法陣が描かれた扉があった。取手部分がなく、そのかわりに魔水晶ーーいや、魔石かな?ーーがめ込まれてる。そこに手をかざすと魔石と魔法陣が光り、自動でスライドした。



「ーーおお。自動扉。ーーいや、微妙に手動.....?鍵付きなのかな......あ、魔石にも魔法陣.....これが鍵の役目なのかな......」



好奇心でブツブツ呟いてると、ヴェルクツォイクさんがこちらを見てニヤリとしているのに気づいた。



「ふ。ーー君、いいね。アキ君だっけ?君の言う通り、この魔石が鍵の役目。普段取り外しあんまりしないけど、僕が留守にする時は入らないでほしいから魔石抜いてくんだ。開け閉めするのに魔力流さなきゃだから微妙に不便になっちゃってるけど。」

「中にいる時に外されると閉じ込められません?」

「反対側にもついてるから大丈夫。あと、スペアもあるよ。」

「それなら安心ですね。」

「ーー魔力登録とかじゃ、駄目なのかな。」



扉の鍵について話してると、ハク君がぽそりとつぶやいた。ヴェルクツォイクさんと2人、ハク君を見てから、顔を見合わせる。



「ハク君、魔力登録って?魔石使わないでって事?」

「うぇっ!?あ、僕声に出してた!?や、あの、な、なんて事ないんだけど!ギルドカードとか魔石使わないでも魔力登録して預金引き出しとかしてるから......あと魔剣!魔剣も魔力登録あるのがあるって聞いたことあるから.......」

「成る程.......鍵の役目を魔石ではなく、登録している魔力にすると言う事だな.....。魔石にも魔力を通すから、魔石分が省略できるわけだ......。」

「ーーーできるんですか?」

「む.........構想はいいと思うけど、ギルドカードの仕組みも、魔剣の仕組みも、ギルド及び鍛冶屋しくは付与士の秘匿ひとく事項だろうね.........もしかしたら元は同じ古代語を使っているのかもしれない。」

「ーー古代語?......魔法陣って、古代語なんですか?」

「ーーーん?知らなかったのか?魔法陣の本を読んで、魔道具も作ったと言わなかったか?」

「魔法陣は形が決まってる図みたいなものかと。配置覚えて、同じように組み立てただけなんで。」

「ーーーあぁ、図........まぁ、似たようなものか。確定されている魔法陣を元に組み立て次第で色々変えてるのが魔道具だ。ーーーあれらは全て古代語だよ。古代語を理解できれば、もっと自由にできるんだけど.......まだ全てが解明されていないからね。実用化されてない機能をつけようと思えば、やっぱり古代語の研究に戻るんだよね。途中途切れてたりして解明されてない魔法陣もあるし。」



古代語....じゃあ魔法陣の形は関係ないって事....?ただのかっこつけ?

そう言われて改めて扉を見る。

ーーーあーー、要するにあれだ。プログラミングに似てるかもしれない。一筆書きで形にも意味があるのかと思ってたけど、こうしたらこうなる、てただの命令文なんだ。

プログラマーではなかったのでちょっと難しいかもしれないけど、意味はわかるしなぁ。スキルの「言語理解」が仕事してるんだな、うん。みんな意味まで理解してるのかと思ってたよ。

古代語の単語と接続詞を抜き出さなきゃいけない事になるが、意味が理解できる分、他の人よりは早く見つけられるんじゃないかな。



「脱線したね。君、ハク君。君もなかなかいいよ。遠慮せずこういう事ができないのか、と言うのは発言してくれ。よし、着いてきて。」



歩みを止めてたのを再開して、扉から離れて奥に続く。

いくつか扉を横目にして1番奥、他と比べると重そうな扉を開けて店長さんに中に通された。



「ーーーおぅ、雑多だなぁ......」

「悪いね、ソファの周りは物少ないから、そっちにかけて。」



防音防火の為か、コンクリートのような厚そうな壁の広々とした部屋だ。一面が本棚だが入り切らないのか床にも本が積み重なって、机の上や床にも紙やら魔石やら鉄板やら雑多に散乱している。片付け苦手な研究者の部屋って感じ。


言われた通りソファにハク君と並んで座ると、店長さんは机の上をゴソゴソ、「ん?ないな、どこだっけ....」と言いながら本棚前の本の群れをゴソゴソ、とウロウロして、「あったあった」と1つの本を持ってきた。



「これはある古代語で書かれた書類のレプリカの写本だけど、ここ見て。これが魔力吸収の役にたたないかと思って。」

「拝見します。」



ポンと開いて渡されたページを見る。

古代語文字として意識してさらう。



「ーーーん、これは魔法陣の形の考察みたいです。

ここ、ここが空白の意味の○○で、でも、○○を吸収する、であってると思います。下の方に「掃除機にいいんじゃないか」って書いてますよ。」

「掃除機!ーーー待って、書いてある?君、古代語本読んだ事ないって言わなかった?読めるの!?」

「俺、スキルに「言語理解」てのがあるんです。魔法陣の本は一筆描きなんだと思ってて。意味はわかります。」



パカっと口を開けて、店長さんは固まった。

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ラピスの空から〜チートな神見習いのやりたい放題ライフ〜 海昊-ウミゾラ- @umizora

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