41.神殿の回復師様は訳ありだったらしい。


神殿はいつでも開いているという事だけど、商店が開き始める8時頃から行動開始と言う事で昨日ハク君と約束した。


待たせちゃ悪いと7時40分くらいに着いたのだけど、神殿には既に2つの行列が出来ていた。そういえばニコちゃんが風と光と闇の日は沢山人が来るって言っていたけど、ちょっと多くない?この時間帯だけだろうか?


様子を遠巻きに見てると、どうやら参拝者と、併設されている診療所目的の列らしい。

気になるのは診療所目的の列。一見健康そうに見える人と、一目で具合悪そうにしている人、手を怪我なのか布でくくってる人等、ごっちゃになって並んでいるのだが、これ優先順位とかないわけ。順番は順番?


そう思ってると、看護助手なのか白いエプロンに白い三角巾をつけたそばかすが可愛い赤毛の女性が現れた。ちょっと眼孔鋭い気がするけど。



「はい、おはようございますー。優先順位決めますねー。貴女はこちら、貴方はこちら、貴方もこちら、貴女はーーーー」



おお、トリアージし始めた。

緊急度合いの振り分けだね。

なんか安心した。

ハク君まだこないけど、元気そうな人達の後ろに並ぶ。


診察自体は回復魔法があるから大した時間はかからないのか、順調に進んで俺の並ぶ元気そうな人達枠の列も進む。やはり朝が1番混むのか俺の後からは余り並ばなかった。


この列はあれかな、おばちゃん世代が多いから定期検診的なお話しだけして帰る田舎の月曜日の診療所的な感じかなぁ。なんかワイワイ隣とお話ししてる。肩が痛くてー、腰が痛くてー、と聞こえてくるし。

トリアージにも文句つけてなかったし、後回し上等だべりに来てます、みたいな?

さっきからチラチラこっち見て頬染めてヒソヒソ話してるおばちゃん達もいるんだが気にしない。



「アキ君、おはよう!ごめん、待った?」

「おはよ。どうせ待たなきゃな列だからだいじょぶー。ハク君、今の恋人待たせた時みたいな声のかけ方だね。」

「へ!?ーーや、そんな!」



ちょっと揶揄からかうと、真面目に捉えるからハク君は可愛い。うん、そのまま育ってくれたまえよ。


暫く待ってると、順番が来た。

診療所の医師?回復師様かな?は穏やかそうな優男だった。



「初めましてかな?僕は回復師のクラルといいます。今日はどうしましたか?」

「冒険者と錬金術師のアキです。こっちは冒険者のハク。ーー今日は診察じゃないんです。聞きたい事があって来ました。」

「おや、なんでしょう?」

「魔力過多症という病気はご存知ですか?」

「ーーーーーえぇ、それが?」

「治療法はどんなのですか。」

「治療.....という事になるかは微妙ですが、状態回復を使える回復師による魔法を定期的に、大人になるまで使う事ですかね.....。僕は状態回復は出来ません。」

「日常的に魔力を放出若しくは吸収できる魔道具なんかはないのでしょうか。」

「ーーーーないです。少なくともエメラルド王国では近年発表されていません。」

「研究はされていない?」

「いえ、されています。貴族の方は総じて魔力が多い傾向にありますから、いつ身内に魔力過多症の方が現れてもおかしくないですからね。研究費も寄付も充分だと言われています。現状は莫大な費用をかけて王都の回復師に頼んでいるらしいですが.....。」

「うへぇ....これは難しいかな。その研究って魔道具士と一緒になさっているのでしょうか?」

「ーーーあなたの身内か誰かに、魔力過多症の方がいるのですか?」



なんだろう、この回復師、辛そうに話すなぁ。言いづらい事あって、言おうか迷ってる感じ?



「身内じゃないですが知り合いに。既に状態回復は済ませています。ただ、安心して過ごして貰うために、魔道具を作りたくて。既存のものがないか、なければ何の文献が参考になるか知れたらなと、こちらに来ました。診察を常にされている回復師様ならご存知ないかと。」

「状態異常回復をできる回復師ーー!お、王都から呼ばれたのですか?」

「ーーーそこは秘密で。」

「ーーーあぁ、依頼ですか?依頼であれば守秘義務がありますよね......。.....こちらも秘密にしてほしいのですが、僕はその、王都で研究員をしていまして......。」

「ーーへぇ。お詳しいんですか?」

「大昔にあったようなんです。魔力過多用の魔道具。ダンジョンから時々出たり、古代遺跡から発掘された数々の書物があって、古代語の解析が重要視されてきました。ーーーーあの研究室は駄目です。研究費や寄付金を上のものが使い込んだり、権力者が研究対象を曲げたりして......末端は言いなりです。研究員は真面目な奴が多いですから、様々な薬や魔道具は出来ましたが、最重要視されている魔力過多症のほうは全然進んでいなくて。ーーー寄付金が1番集まる項目です。完成させると寄付金が集まらなくなると.......あそこは腐ってる。だから僕は見切りをつけてこの街に来て回復師になりました......。」

「.......なんとまぁ.....お話しして下さって、ありがとうございます。その古代語の書物はその研究室でないと見れないのですか?」

「いえ、現存の古代語の書物は全ての図書館でレプリカがあります。歴史的書物はラピス内において平等に知る権利があるのです。重要なものなので、鍵付きの部屋があると思いますが、受付に言うと身分証確認で開けて貰える筈です。」

「成る程、助かりました。この後評判のいい魔道具工房に行き、その後図書館に行く予定なのです。早速と見てみますね。」

「古代語を初見で読むのは難しいですよ?」

「ーーーーその点については、おそらく私のスキルが役立ちます。」

「スキル?ーーーどういったーーーいえ、手の内を聞くのは非常識ですね。健闘を祈ります。ーーーーもし、もしその魔道具が出来たら、神殿にも売って頂く事は可能でしょうか。」

「勿論です。出来たら寄付しますよ。重要なお話しをして下さって、ありがとうございました。」



そう言って診療の邪魔をした事を詫びて、席をたった。

神殿を出て橋を抜けて目的地の魔道具工房を目指していると、ハク君がため息を溢していた。



「どったのハク君。」

「いや.....真面目な人もちゃんといるのに、悪い権力者ってそんな事まで捻じ曲げちゃうんだなって。」

「ハク君を轢いたなんとか男爵もそういうたぐいだよね。」

「あぁ!そうだその男爵!領主様の騎士様と違う、なんか目に眩しい胸当てした護衛みたいな人と騒ぎを聞きつけて後から来たよ。どんな奴が奇跡のポーションをくれたんだってせまってきたから、知らない知ってても教えないって答えたんだー。」

「おぉ強気に出たね。」

「だって悪魔と天使様だよ!誰が悪魔なんかに!」

「うぉ、例えが飛躍ひやくしすぎだー。」

「アキ君はやっぱり天使だと思う。」

「ハク君や.....やめておくれ。昨日しかも笑ったよね?お仕置きぎったよ?」

「だってやっぱり天使様を連想するんだなって。あれだけ嫌がってて目の前で言われてるんだもん笑っちゃうでしょ。僕悪くない。

それに、病気とか怪我とか、目の当たりにするとほっとけないんでしょ?面倒になるの分かってて、僕にもあのポーション使ってくれて、兄さんに強張こわばられるまでは料金もとらないでさ。領主様は最初から顔バレしてるし、報酬約束されたものだし、本当は神殿の回復師様が言っていたように定期的に状態異常回復の魔法かければいいのに、この先も問題ないように魔道具作ろうとして、今日だって面倒言いながら神殿行って、これから魔道具工房行って、図書館で古代語解析するつもりなんだ。」

「おぉう。ハク君が言うと俺ってばいい奴じゃん。」

「うん、天使だよ。」

「それはやめて?」



どうしてそこに行き着くんだ。

だって鑑定には魔道具でって書いてたんだ。既存であるか、調べたら該当品が必ず作れると思ったんだよ。ちょっと面倒な事になったなとは思ってるけど、小さい子が苦しんでるもんやるっきゃないよね。

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