40.ラピスの地図


枕の誘惑亭に戻ってくると、女将さんに呼び止められた。



「お仲間の人たち、明日の1日だけ利用したいって予約していったわよ。明後日にはヤンファットさんの護衛依頼ですってね?グリーンベリル経由のボルダーまで行くって聞いたわ。最低4週間はこの街から離れるのね。寂しくなるわぁ。」

「それってヤンファットさんに聞いたの?俺地名言われてもわかんないんだけどそのくらいかかるんだね。じゃあ、4週間後くらいでまたここに戻ってくるから、部屋みんなの分とっといてね?」



キュるん、と上目遣いと小首傾げておねだりしとく。

女将さんはクスクス笑って、そんなおねだり顔しなくても、とっとくわよー、と言ってくれた。これで一安心。

しかし明後日出発だもんな。明日中に魔道具作りたいなぁ。駄目なら4週間の間に作っておくから魔法頑張ってと領主様に言わなきゃだなぁ。




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「あ、きたきた。ハク!アキ君!こっちこっち!」



食堂に入ると、サルビアさんが声を張り上げて呼んでくれた。既にヤンファットさんと共に席についてた。



「あ、もう顔合わせすんでるんだね。こんばんはー、ヤンファットさん。」

「こんばんは。いやー、皆さん優しくて安心しました。皆さんにもお話ししましたが、大まかにはグリーンベリルを経由しての、オパール王国のボルダーが終点で、途中の村々に寄って、というのを予定しています。」

「俺この辺りの地名知らないんだけど、地図って持ってます?」

「あぁ、書き込んでしまっているけど、ありますよ?」



そう言って傍に置いていた鞄からゴソゴソと大きな地図をテーブルに出してくれた。

まだ料理は運ばれていなかったので、皆んなそれぞれお茶を自分の手元に避けてくれた。

大人数用のテーブルだったので良かった。


見せてくれた地図は、ラピスの全体像の地図。

陸続きにはなっている部分はあるが、いびつなハートがくだけたような大陸だ。大陸が東西南北1つずつ、東の端に小さな島国があり、おお、ここがヤマト大国。形は丸くて1つだけど。

中央にも粉々になったような陸地が点々とあるけど、その中心部に例の太陽神のサンストーン神殿があって、その上の方の陸地にアメシスト神殿がある。サンストーン神殿とアメシスト神殿のある陸地以外の中央全てでアクアマリン国とある。あ、でもエメラルド王国領って書いてるから属国扱いなんだね。


東大陸はダイヤモンド帝国、ペリドット王国、トパーズ公国、サファイア王国、オニキス王国の5つの国があり1番大きな大陸だ。

西大陸はエメラルド王国とオパール王国の2つの国がある2番目に大きな大陸。

北大陸は西側にルビー公国が1つと、北の大山脈が国境線として、魔族領がある。

南大陸はガーネット王国が1つで北大陸と大きさは同じくらい。


西大陸と南大陸が陸続きで、アメシスト神殿のある陸地を介して西北東大陸が繋がっている。

南大陸からアクアマリン国側、東大陸側に船のマークがあるから船着き場があって大陸間の行き来は容易なんだろう。


各国の都市村名までは書かれていないのか、ヤンファットさんの手書きで西大陸を中心に所々埋められている。

瞬間記憶があるので脳裏に焼き付け、今度地図買って同じ内容は埋めとこう。自分の足で行って他を埋めるのも楽しそうだ。


今回護衛をするのはここヘリオドールから北に向かって所々ある村に寄り、グリーンベリルという都で数日販売と買い付けを行い、そこから西に向かってオパール王国へ入り、最西端のボルダーという都市でまた数日販売と買い付けを行い、南下してヘリオドールに戻ってくる予定だ。

ヤンファットさんの住まいはエメラルド王国王都だけど、ヘリオドールと王都間は3日とかからないし往来が結構あって、盗賊もまずいないし魔物も少ないとかで、護衛はそこまで重要じゃないそうだから、王都までは着いて行かなくてもいいらしい。



「依頼報酬は1人大銀貨5枚の予定ですが、いかがですか?」

「妥当かな。」

「そうねぇ。」

「いいんじゃないか!」

「僕そんな貰ってもいいのかな。Cランクだよ?」

「基準がわかんないからなんでもいいー。」

「「「「「アキ(君)(さん)、それは知ってた方がいい。」」」」」

「うひゃ?」



1人50万なら4週間として日割計算1万8千円くらいでしょ。

護衛としてなら戦いもあるだろうけど、ずっと戦ってるわけじゃなし後は移動時間拘束時間だろ。

基準をどう考えていいかわかんないよ。

地球なら一般平均男性の年収からいけば月40万から50万でしょ。そっから手取りがとかは知らんが、4週間分で平均になってるからいいのでは。


その後夜ご飯を色々頼んでシェアしながら、ランク別平均護衛料金を教えて貰った。

Cランクで1日1万、Bランクで2万、Aランクで3万、Sランクは5万くらい。

俺みたいな回復魔法が使える奴でそれを見込まれての依頼なら追加で5千円くらい上がるらしい。収納スキルは収納量にもよるがそれも5千円〜1万が追加で。



「ふーん。じゃあやっぱり妥当なんだね。俺Cランクで回復魔法と収納スキル持ちだからちょうどBランクに追いつく。」

「今回はそうだけどよ、その追加分ケチる依頼主もいるからよ。あとハクみたいにパーティでBランクだけど個人のランクが下がると1人下げられるとか。」

「正当な判断ではあると思うけどな。ヤンファットさん、本当に僕も同じ報酬額でいいんですか?」

「パーティランクに準ずるのが普通ですよ?個人のランクがとか言う商人は名前が上がりません。」

「「「あぁ、それはある。」」」

「ヤンファットさん男だねぇ〜。王都じゃ結構な商会なんじゃないの?」

「いえいえ小さな商会ですよ。僕は次男で家の商会の副会長なんて肩書きがありますが、その場その場に行っての人との関わりも好きですし、各地域の特産品や掘り出し物なんかを見つけるのが好きで。今は僕が西大陸中心で、他の地域は弟だったり雇ってる商会員が僕と同じように買い付けを兼ねた行商人をしています。何れ僕も各国を周りたいですね。商会名は皆さん知ってるかな?『エアフォルク商会』です。家名としても使っています。」

「エアフォルク商会。聞いた事あるようなないような......。」

「支店があるわけではない小さな商会ですから皆さんが知らなくても仕方ありません。」

「因みに商人ギルドのランクっていくつ?」

「え?Bですけど....,。」

「純利益大金貨1枚なら結構じゃない?給料とかこうゆう護衛とかの人件費諸々経費ひいての純利益でだもんね?凄いじゃん。」

「詳しいですね......?」

「俺も登録したって言うかさせられたから。一通りの説明受けたよ。最低のEランクスタートだけど。ほらほら。ここに商【E】って書いてるでしょ?」



すちゃっとギルドカードを出してみせるとマジマジと見られた。やめて。ギルドカードの顔の念写って運転免許証みたいで恥ずかしいんだよね。



「アキさん、薬師ギルドも登録してるじゃないですか!しかも銀ランク!魔法使えるんです、錬金術師でしょう?当商会にもポーション類卸してくれないですか?錬金術師の方の作るポーションは人気でなかなか手に入らないんですよね!」

「えぇ?お風呂で商人ギルドに瓶頼んでるって言ったじゃん。錬金術師って知らなかった?」

「ポーション用の瓶だとは思わなくて!成る程!オリジナルの瓶なんですね!それはいい!ブランドで売れます!」

「まだ無名だけど。」

「商会で卸すようになればブランド力もつきますよ!いかがです!卸してくれますか?」

「高め設定なるかもよ。味付きポーションになりそうだから。」

「味付き!?微効果のですか....?」

「んにゃ良品か普通の。今商人ギルドと薬師ギルドで価格決定するって味見中な筈。」

「味付きポーション確立してるじゃないですか!魔法陣といい、なんですか!錬金術でも優秀ですね!万能ですか!」

「ヤンファットさん、こいつ、剣の腕もいいよ。あと、魔道具もさらっと新しいの作っちゃう奴だ。俺達今日冒険者ギルドの机で暇潰しに小型コンロを作るこいつを見た。」

「シグナルさん、言い方。」

「事実だろ?」

「そうだけど、常識ないみたいに言わないでくれる?」

「「「いや、ないだろ(でしょ)。」」」

「うわしんがーい。」



そんなバカな。

.......いや待てよ。確かにここに来てからトラブルに対応してきたし、作りたいもの作ってなんか驚かれているばかりな気がする。

でもチートのせいだ。うんうん、俺は悪くない。

やりたい事やれないのは嫌なので、自重はしない。

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