39.魔力過多症の対策

「ーーあれぇ?お胸が苦しくないよ?」



ノアちゃんが、身体が熱くないのに気づいたのか、ムクリと起き上がる。おでこに乗せていたタオルがポロリと落ちた。


それを見た領主夫妻は、驚きで目を見開き、涙を瞳いっぱいに浮かべてノアちゃんにかけよる。


ハク君が更に下がって部屋の隅にいったので、俺も下がって親子の感動シーンを眺める。



「ーーー俺帰ってもいいかな。」

「えっ、報酬は?」

「なんか患者があれだけ子供だとどうでもよくなっちゃって。恩だけ売って逃げたらよくない?」

「いやそれはどうかと......。」

「あぁ、でも説明はしないとなぁ。完全に治ったわけじゃないから。」

「え。そうなの?」

「うん。ーーーーあの、ちょっと宜しいですか?」



抱きついて泣いて、ナデナデして抱きついて、ニコニコして会話をしている親子の所に仕方なく近づく。



「あ、天使様!天使様がノアの事治してくれたんでしょう?」

「ーーー俺はアキって言うんだよ。回復魔法も使える冒険者で錬金術師なんだ。天使様じゃないから、アキって呼んでくれる?」

「天使様じゃないの?だってすっごい綺麗な顔してるよ!」

「うん、ありがとう。でも、本物の天使様が怒っちゃうかもしれないから、アキって呼んで?」

「わかった!アキ君!治してくれてありがとう!お胸ずっと熱くて苦しくて、ご飯もあんまり食べれないし、お外でも遊べなくて、お父さまとお母さまも悲しい顔してたから、ノア凄く嬉しい!」



良い子で眩しい。目を細めて、これから説明するのに苦慮する。

しゃがんで、目線を合わせる。何を話すのかと、領主夫妻もこちらを見ている。



「ーーあのね、ノアちゃん。その熱くて胸が苦しかったのはね、ノアちゃんが凄く多い魔力を持ってるからなんだ。」

「魔力?魔力はみんな持ってるよね?ノア魔法使いたいんだけど、貴族の女の子は魔法使わなくてもいいってみんな言うよ?」

「そうなんだ。でもね、ノアちゃんの魔力はね、普通の人より凄く多くて、魔力がどこに行っていいかわからなくなって、胸が熱くなって苦しくなるんだ。今はお兄ちゃんが魔法をかけたから楽になったけど、ほっとけばまた熱が出ちゃうんだよ。」

「そーなの!?」



領主夫妻の顔が青ざめる。治ったと思ってたらこうだもんね。

ニコリと笑いかけ安心させようとしたけど、意図が伝わらなかったのか怪訝な顔をされた。



「うん、だからね、ノアちゃんには魔法を使ってほしいんだ。魔力を使うと、身体から魔力が抜けるでしょう?そうすると、熱も一緒に逃げちゃうよ。ーーでも、寝てる時とか、使えない時もあるよね。使えない時に魔力が少しずつ溜まって、魔法を使っても追いつかなくなっちゃうから、ずっと魔力を外に逃がすアクセサリー、お兄ちゃんが作ってあげるから、それが出来るまで、少しでも魔法のお勉強してくれる?」

「ーーーえっと、ノア、魔法使ってもいいって事?」

「うん。身体が充分大きくなって、大人になったら、魔法使わなくてもよくなるけど、大きくなるまでは、魔法は使うほうがいいからね。あぁ、一度に使いすぎもよくないから、程々にするんだよ?ーーーーいいですよね?」



確認の為に領主夫妻に顔を向けると納得したのかコクリと頷き、ノアちゃんの手を握った。



「直ぐに魔法の先生を探すよ。ノア、頑張れるかい?」

「ーーわぁ!ノアお城の魔法使いになりたいの!頑張る!」

「う、うーーん。それは大人になってから決めようか。お嫁に行くのが先かもしれないじゃないかーーーそれも嫌だけど。」

「あなたったら。ーーまぁ跡取りは学校に行ってるヨハンがいますから、ノアは好きにすればいいわ。」



クスクスと奥さんが笑う。おぉ、お兄ちゃんがいるんだね。領主様の年齢の割に幼い長女だなぁとは思ってたけど遅くに産まれた子か。そりゃ可愛くて仕方がないだろう。

コホン、と領主様が咳払いをして、「では報酬の事だが」と話始めたので、ストップをかける。



「ーーそういうわけで、本当の完治は大人になるまでできません。この病気は『魔力過多症』と言います。今日回復魔法をかけたので、暫くは大丈夫でしょうが、なるべく早く魔道具を作って参ります。報酬はその時でも。ーーー因みに魔力を外に逃がす、もしくは吸収する魔道具等に心当たりはありますか?」

「ーーーうぅむ。罪人用の魔力封じしか知らないなぁ。それにあれは確か外に魔力を出さないようにするものだから、逆効果だろう。」

「そうですか。わかりました。魔道具店や神殿、図書館等で調べて作りますね。」

「待て。それなら図書館にいつでも無料で入れるように取り計らう。要人用にそういうカードが作れるのだ。今図書館の受付に向けて手紙を書くから、応接間で待っていてくれ。」

「ーーーなんですかその素敵なカードは。もうそれ報酬でいいです。ハク君のと2枚用意してくれますか。」

「安い報酬だな。何だね本が好きなのか?」

「えぇ。あぁ私速読と瞬間記憶のスキルもあるので必要な本があれば該当するものも見つけやすいと思います。」

「ーーーポロッととんでもない事を言わないでくれるかな。高レベルの回復魔法も使えるのも希少なんだが......後どのくらい驚かせる気かね。」

「この件に関係ある事かと。いつ完成するか不明だと不安でしょう?」

「そうだね.....わかった、冒険者アキとハク、両名にカードが渡るように取り計らおう。勿論こんな安い報酬では私が納得しない。相応の報酬は用意しよう。」

「金銭より珍しい魔道具とかだと嬉しいです。」



ちゃっかり報酬の要望を言ってみた。そりゃね、貰えるもんは貰うよ?



応接間で待って、領主様印のお手紙を貰い、街中までまた馬車で送ってもらった。今度は豪奢な領主館の馬車で、揺れも少なかった。スプリング効いてるのかな?いいとこにはいい物があるねぇ。


街中について、腕時計を見ると16時過ぎ。図書館は明日の午前中かなぁ。昼過ぎに商人ギルドと忙しいな。



「ま、とりあえず餅は餅屋かな。」

「何それ?」

「魔道具の事は魔道具店にまずは聞きましょう、て事」

「成る程?」

「ハク君着いて来てよかったでしょ。図書館の無料カード、棚からぼた餅じゃん。」

「えーと、ラッキーって意味?さっきからそれ、ヤマト大国の言葉?」

「思いがけない良い事がおこるって事かな。俺の故郷のことわざだよ。こっちでさ、精霊の世界に行くって言葉あるでしょ?」

「うん?」

「あれは俺の故郷じゃ思考の海に沈むとか泳ぐとか言うんだよね。あと悪戯精霊に連れられて来たってのも、神隠しって言うし。」

「へーー。面白い。でも何となく通じるものあるね。」

「ねー。時々戸惑うんだけど、これから疑問な言葉があったら皆んなに聞こうと思うから、宜しく。」

「あ、そこに行き着くわけだね。うん、わかった。」

「図書館は時間ないから、明日の午前中ね。ハク君も時間あけといて?」

「はーい。」



そんなこんなで魔道具屋についた。

冷蔵庫みたいな魔道具買ったのを覚えていたのかニコニコして店員さんが来た。

魔力を放出するか吸収する魔道具がないか聞いたら、他の店員さんや店長にまで聞いてくれて、そうゆう魔道具は扱った事ないと言われた。ガックシ。

魔道具工房に聞いた方が詳しいかもと、画期的な魔道具を作るという工房の場所を教えてくれた。

明日行ってみます、ありがとうございました。とお礼にクッキーを異空間から出して渡すと思ったより喜ばれた。因みに異空間は冷蔵庫買った時に使ってるので驚きはない。



「ちぇー。明日忙しいなぁ。宿屋からの道順で行けば、神殿、魔道具工房、図書館だね。昼からは商人ギルドだしぃー。」

「商人ギルドからまた図書館に戻っても無料カードあるなら勿体無くないね。」

「ーーおぉそうだね!なんか気持ち浮上した!」

「図書館では飲食禁止だから、途中でご飯に出れるのは嬉しい。1日いっぱい使うのはお金の無駄遣いみたいな気がして飲まず食わずでいた事あるけど、やっぱり喉乾いちゃうしお腹も減って集中できなかったし。」

「うんうん、それは大事だね。でも図書館内に飲食スペースでも作ればいいのにねぇ。」



そうやって2人であれこれ話しながら枕の誘惑亭に向かった。

これから夕ご飯食べながらのヤンファットさんとの顔合わせだ。

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