38.回復師にはならんけど。

用意してくれた馬車にハク君と乗り込むと、馬車は程なくして動き出した。騎士方は元々馬を預けていたようで別だ。



ーーーあ、馬車、お尻痛い。クッションないの辛い。



異空間から低反発クッションを出して、ハク君にも渡してあげる。

ハク君は受け取って、感触を不思議がりながら座ると、ビックリした顔をした。



「え。何このクッション。衝撃がそんなにこないんだけど!」

「いーでしょ。仲間内だけの秘密だよ。」

「えぇ、秘密なの?どこの商品?」

「故郷産。」

「え、ヤマト大国?凄いね、ヤマト大国....」



いや地球だけど。

返事はしないどく。



ガタコトとしばらく揺られていると、最後にガタン、と大きく揺れて止まった。

外側から扉を開けられ、着いた事がわかった。

降りた先にあった屋敷は流石の豪邸。屋敷の前庭もあり、奥は見えないように生垣が高い。


連れて来られた騎士が門にいる騎士に何やら話し、身長の高い顔にも傷がある騎士だけが残り、他の騎士は馬を率いて生垣の外に回った。騎士用の裏口があるのかね。


こちらだ、と言われ屋敷の玄関に向かうのだろう騎士に着いて行く。

玄関を開けると老執事と若い執事が2人出迎えてくれて、騎士とバトンタッチ。

玄関も広ければ廊下も広い、所々に品のいい花瓶やら絵画やら甲冑やらが飾ってあるのを横目に見つつ、執事に応接間に通された。

通されてすぐに紅茶とクッキーを出されて、少々お待ち下さい、とハク君と2人応接間に取り残された。



「ハク君、豪邸だね。」

「そうだね.....緊張する。」

「え、なんで?」

「いやアキ君こそなんで緊張しないの!?」

「冒険者って権力の外の存在でしょ?」

「いや、表向きはそうだけど....僕たちは平民で相手は貴族様だし。」

「失礼な言葉吐かなきゃまぁ大丈夫じゃないのぉー。」

「アキ君て心臓に毛が生えてるね........?」

「何かあったら逃げりゃいーんだよ。永住するもしないもこっちの勝手でしょ?犯罪犯すわけじゃなし。冒険者って依頼毎で税金も払ってるってギルドの入会説明書には書いてたよ。一般の平民より税金沢山払ってるって事だよ。依頼受ける冒険者が少なくなればそれだけその土地の領主様の取り分が少なくなるって事なんだから、高額納税者って事で堂々としていればいいんだよ。」

「はっはっは!その通りだね!」

「ーーーーうわっ!?」



話している途中に誰かが入って来た事には気づいていたが、ハク君は突然後ろから声がして大層ビックリしたようだ。



「やぁやぁ、待たせたね。私が領主のシルバー・ド・ロードだ。わざわざご足労すまないね。」



いきなり声をかけて来た領主様はそう言いながら俺たちの向かいにやって来て座る。

銀髪の若い優しげな面立ちの領主だ。40後半という所かな。

一応挨拶は大事かな。すっくと立ち、一礼。



「初めましてこんにちは。Cランク冒険者で銀ランク錬金術師のアキです。」

「は、初めまして!Cランク冒険者のハクです!」

「はい、こんにちは。畏まらずかけてくれ。アキ君の言う通り高額納税者の冒険者達だからね。冒険者は権力の外にいる。嫌われたくはないしね。」

「では遠慮なく。」

「し、失礼します......。」



話のわかる領主様だな。ひとまず安心。



「時間もないと聞くし、早速で悪いが本題だ。アキ君、君だよね?凄く訊きのいいポーションを使ったと言う巷で話題の『天使様』は。」

「そう言われてるらしいですけど、使ったのはこちらのハクにで、後日きっちりポーション代金は頂きました。ハクに使用したポーションはもうありません。あと、天使様呼びは遠慮願いたいです。」

「そうか、それは残念だ。入手経路は聞かせてくれるだろうか。」

「ここまで来たのですから、他言無用は前提として頂いても?」

「勿論だ。」

「ーーあれは私が偶然作ったものです。今後できるかは不明です。」

「ーーー成る程。因みに材料は?」

「普通のポーションの材料と変わりません。魔力は物凄く使った覚えはあります。」

「成る程......アキ君は錬金術師だ、魔法使いでもあるよね。回復魔法は使えたりするのだろうか。」

「使えますけど?」

「その.....魔法使いの方に使える魔法を聞くのはルール違反な事は承知しているが......どれくらいの回復魔法を使えるのだろうか.....」

「ーーー領主様。お身内の方で何か病気を治したい方でもいらっしゃるのですか?」

「ーーーーやはりわかるかね?」

「まぁ、奇跡のポーションと聞いただけで私を探すくらいですからね。この街の回復師様だと治せない病なのですね?」

「そうだね....王都の回復師でも難しいかもしれない。いや、あそこの回復師は部位欠損も治せるらしいから、もしかしたら可能かもしれないが、派閥がね......私は中立派だが、あちらは貴族派とでも言おうか。権力者に中央神殿の回復師は囲われているんだ。頼んでも受けてくれるかわからない所に、こちらの弱みを握られるのは厳しいのだよ.....。他の腕のいい回復師の情報はあまり聞こえてこない。他の大陸にはまだいるのかもしれないが、国を跨ぐとまた問題がね......。」

「.......貴族って面倒なんですね。」

「はは。正直だな君は。」

「ーー失礼でしたね。すみません。内情までお話し頂きましたし、こちらも他言をしない事をお約束します。そちらも同じくこちらの事は他言無用で。ーーー回復向きのスキルや魔法として、私は分析・解析スキル、鑑定スキルがあります。何れもレベル最高値です。回復魔法も一通り。部位欠損回復も可能です。状態異常回復も。」



ハク君と領主様の息を呑む声が聞こえた。やっぱり珍しいんだね高レベル回復師。



「私は面倒ごとはごめんです。聖人君主でもありません。回復師としてだけ生きるつもりもありません。見返りも求めます。無理難題は申しませんが。それでもいいですか?」

「も、勿論だ!報酬は何がいいかね?」

「まずは診察を。治るかどうかは見てからでないと。ご病気のお身内の方はこちらにいらっしゃるのですか?」

「ーー娘だ。部屋にいる。着いて来てくれ。」



はやる気持ちを抑えているのだろう、ソワソワしているのが丸わかりの領主様に続く。ハク君が「アキ君そんな丁寧な言葉遣いもできるんだね.....僕っているの?」と横に並んでコソコソ聞いて来た。

「いるいる。ハク君俺の癒し担当だから。宿屋のニコちゃんの次に。」

「誰それ......。あと癒し担当って何。」

「いるだけで癒されるって事。あとさ、俺の出来る事、仲間内で共有しといて欲しいから、見といて。」

「な、成る程?」



コソコソ話してるうちに、2階の奥の部屋の前で領主様が立ち止まって、ノックをした。



「ーーーあなた?」



カチャリとドアが開いて、中から顔を覗かせたのはブロンドの豪奢な腰まである髪を靡かせた儚げ美人。



「あぁセレネ。ノアの診察をしてくれる回復師様を連れて来たよ。入ってもいいかい?」

「ーーーっノアを治してくれる回復師様なの?」

「それは見てからでないとわからないけど......きっと、きっと。」

「あぁっーーーー回復師様っ私はノアのっ、エレノアの母のセレスティーネですっ。どうかっ、ノアを.........っお願いしますっ。」

「私はアキです。失礼しますね。こちらは私の仲間のハクです。同行をお許し下さい。」

「え、えぇ......。」



看病疲れだろう。目には少し隈が出来てる。こちらがニコリと微笑むとボケた顔を向けられた。

儚げ美人が勿体無い。奥さんの顔の前に手をかざし、疲れもとれ肌も回復させるように魔法を発動してやる。ポッと温かな光に包まれて、光が収まると顔色がよくなった奥さんが目をパチクリした。



「奥の部屋ですか?失礼しますね。」



通されたのは小さなリビングのような所。寝室は奥か。まだ何が起きたか分かってない奥さんを置き去りに足を向ける。

奥の扉を開けると、ベッドに横たわる小さな身体が目に入った。


6歳くらいだろうか。領主様に似た銀髪と小さな顔、今は目をつぶっていて目は見えないがお人形のような綺麗な子だ。まだ丸みのある小さな手。熱があるのだろう、赤くなった頬、おでこにタオルを乗せられていて、傍には水差しと桶と氷水、代わりのタオル。


見返り云々うんぬん吐いたがどうでも良くなった。こんな小さな子が苦しんでるのは頂けない。

さっさと治そうそうしよう。

ベッドの傍らに立ち、手をかざす。



「分析・解析」



言わなくても発動はするが、何をしているか分かった方が安心だろう。寝室の入り口に領主様と奥さんが、俺の後方にハク君が立っている。


光の円が幾つも波紋の様に広がる。

頭から足先まで、足先からまた頭まで見ていく。血液や臓器は正常。ーーーモヤみたいなものが心臓の辺りに溜まっている。これは.....



「鑑定」



心臓上にスコープのような丸い照準が当たる。



【エレノア・ド・ロード】

シルバーとセレスティーネの長女。

8歳。

魔力過多症を発症中。

【補足:魔力過多症】

魔力を上手く放出できず、内に熱が溜まる病気。身体の成長と共に大きくなる魔力が大きすぎる為に稀になる病気。魔力が大きすぎる為に熱が溜まる→身体がなかなか成長できない→魔力に見合う身体が必要なのに悪循環。

状態異常回復で一時的に治るが、半年としない内に熱が溜まる。

魔法等で魔力を放出する事でも進行を遅らせる事ができるが、魔道具等で身体が成長しきるまで魔力吸収し続けるのが最上。



「状態異常回復」



緑の光と水の膜がノアちゃんを覆う。

水と光が収まると、赤かった頬が正常な顔色に、苦しそうに寄っていた眉が穏やかに、ふるり、と目を瞬かせて、目が開いたーーーあぁ、綺麗な藍色の瞳だ。目はお母さん似なんだね。ゆるりと顔をこちらに向けてーーーー



「ーーーてんし、さま?」



ブハッと後ろから吹き出す音が。ハク君、後でお仕置き。

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