37.男の甲斐性の見せどころ

「ーーーこれ、綺麗だね。」



雫みたいな形にカットされた青色のネックレスが目についた。サルビアさんの色だ。



「サファイアね。綺麗な青よねぇ。カットの仕方か知らないけど、反射でキラキラして形も可愛いし身惚れちゃう。」

「ーーーお客様、こちら付けてみますか?実はこちらのサファイア、魔水晶でもありまして、台座に細かな結界の魔方陣をしたためておりますので、起動に僅かな魔力を流すだけで結界が作動するようになっております。1回きりの魔石のアクセサリーと違い、魔水晶ですから、回数もそれなりに使えますよ。」

「うぇ!?や、いいわよそんな高いの買うつもりはないから!」



サルビアさんと並んで見てたからか、恋人と間違われた模様。

説明はサルビアさんと俺のどちらにもしている目線だ。


でも、面白い。魔法陣の台座ね。

魔水晶って地球でいうとこの鉱石でもあるけど、魔力だまりとかじゃないと魔水晶にならないって事だもんね。逆言えば魔水晶に分類される宝石があって当然か。


宝石としての価値だけじゃなく魔水晶の価値もあって大銀貨3枚と小銀貨5枚....35万か。ーーん?魔水晶って小粒で25万だったけど.....小粒より小さいか。半分くらいとして13万、プラス22万。うん、なかなかするけど宝石って実はもっと高いもんだと思ってた。有名ブランドとかないとこんなものなのかな?



「サルビアさんの色って感じだよね。ん、ください。」



物静かな男性店員に大銀貨4枚渡す。お釣りを何だかカッコいいトレイにのせて渡された。おお、さすが高級店って感じ。

ネックレスは専用のケースに入れられて、開けたまま渡された。

ーーーここで彼女につけなさい、と?

あのね、買っといてなんだけど、彼女じゃないからね?



「サルビアさん、ちょっと失礼?」



俺が買うとは思わなかったのか、ボケっとして成り行きを見ていて、

え?とこちらを見上げたサルビアさんにニコリと微笑み、首筋にスルッとネックレスの鎖を滑り込ませ、留め具を止める。ポニテールでよかった。髪絡んでない。セーフ。



「なっ.....んなぁぁぁぁ....」



正気を取り戻したサルビアさんにシッとすかさず黙ってアピールに口に人差し指をたてる。

ここで騒いだら場違いだからね。

口をつぐんだサルビアさんの手をエスコートするように繋ぎ、店を出る。



少し歩いて.......。




「いや!おっ前!ないわー!」

「ぼ、僕ナチュラルすぎてビックリした!」

「スマートだったな!手慣れている!」

「本当に18歳!?というかこれ!何で買ったのよ!は!あんた私を狙ってるの!?いいわよ!」

「「「いいんだ!?」」」

「仲間うちで狙わないよー。だってあそこって男の甲斐性試されてる雰囲気だったでしょ?のらんと。」

「のる必要ないだろ。ーーったく、無駄遣いすんなよなぁー。」

「でも興味あったんだ。それはあげるから、あとで魔法陣見せてよサルビアさん。」

「あぁ魔法陣ね.....。あんまりスマートに買うから口説かれたかと錯覚しそうだったわ。駄目よアキ君、あんな事したらアキ君くらいカッコいいとコロッとみんな落ちちゃうわ。」

「簡単だね?」

「簡単に落ちちゃう子でいいのかって話よ。」

「んー。時と場合によるかな?」

「「「場合によるんだ!?」」」

「よるでしょ。」

「アキ君って.....女性経験豊富?」

「ん?まぁーー......そこそこ?」

「ぼ、僕と1歳しか違わないのに.....」

「大丈夫だハク、俺らも変わらん。知ってるだろ。あいつはな、顔があれで性格があれだからな、そういう事なんだよ」

「どういう事だ、シグナル!」



なんか男どもがコソコソ話してるけど丸聞こえ。そしてシグナルさんの説明はなーーんにも説明できてないけど言わんとしてる事はわかる。ブラウンさんはわかってないけど。意外とハク君はわかってる様子。

サルビアさんはそんな男どもと俺を見比べて、やれやれ、みたいな仕草をしてため息をついた。


あとは服屋ね!とサルビアさんも気持ちを切り替えて颯爽と歩き出したのだけれど.....



「失礼。君、先日馬車に撥ねられて奇跡的なポーションで助かった、ハク君という冒険者じゃないか。」

「へ。ーーーあ。前にも会った事ある人ですね。どうしました?」



ぬぅ、とあの怪しい紋章つきの胸あてをしたでかい人と、そのほか数名が行く手を塞いだ。やべ。今日マーキング探索込みの索敵魔法してなかった。



「この前話を聞かせてもらった時天使様とやらは自分も探していると言っていたな。そこのーーーむ、前にも会ったな。やはり君の事ではないのか?天使様とやらは。」

「天使様なんて名前じゃないし。ーーまぁでも、ポーション使ったのは俺だよ。面倒ごとは御免だがら知らないふりしたけど。あのポーションならもうないよ?」



ハク君に接触してるのに知らんぷりも出来ず渋々応えたが、噂の男爵なら会うの断固拒否だ。



「入手方法等もあるだろう。とにかく私たちの主が貴殿と面会を望んでいるのだ。来てほしい。」

「そんな事言ってもこの後用事あるし。明日は商人ギルドに頼んでる物受け取りあるし。明後日からは護衛依頼があるし。俺忙しいのよ。」

「そこを何とか。早ければ早いほど良いのだ。発見したら直ぐにでもと、我が主は必死なのだ。それ相応の報酬も支払うと仰せだ。」

「そんなに必死な主さん、名前も明かせないの?今まで1度も聞いてないんだけど。」

「ーーーー言ってなかったか?」

「うん。ハク君聞いてた?」

「え!ーーーと、聞いてない、かな?」

「この街の領主様だ。」



ーーーー何と。

噂の男爵じゃなかった。



「権力者じゃん。余計ヤダなー。」

「アキ、そこは行っとけ?」

「えー。着いて来てくれる?」

「いやそれは遠慮したい。」

「シグナルさんの薄情ものー。ブラウンさんは!?着いて来て?」

「可愛くお願いされても駄目だな!俺は作法がわからん!」

「ちぇ。サルビアさんは?」

「私も嫌よ。」

「ーーーーハク君、君に決めた!」

「うぇっ!?ぼ、僕も無理だよ!」

「これはね、ハク君のせいでもあると思うんだ!」

「そ、それを言われちゃぁ.....」

「そーだな!ハクが一緒でバレたようなものだからな!」

「うぅ兄さんまで......」



夕方には帰りたいから少しね、と念押しして領主様の騎士達には言って、枕の誘惑亭で夕方ご飯食べながら合流という形で別れた。

ハク君は勿論同行で。

領主館は街の1番奥なので少し遠いからと、馬車が用意された。

馬車屋が貴族の住む住宅街らしき所の端っこにあった。ここにも国の騎士がいる。こっちの胸当ては覚えた。

領主様のとは違うのね。


国の騎士が俺とハク君に怪訝な顔を向けたけど、領主様の騎士達が客人だと言うと首を傾げながらも了解しましたと下がった。


国の騎士と領主様の騎士って派閥争い的なのないのかな。気になる。

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