第5話 小さな来客

 誰かから声をかけられた。見ると、そこには小さなキツネがいる。

「こんにちは。キミはだれだい?」

「ボクはコッカーです、ちょっと雨宿りさせてくれませんか?」

「ああ、いいよ」

 ボクがそういうと、コッカーは尻尾を立てながらお礼を言いつつ、洞窟の中に入ってきた。

「へえー、ここなら涼しくていいなぁ」

 そう言うのだった。

 しばらく静かに過ごしていたが、コッカーがチラチラとボクのことを見ているのに気づいた。

「どうかした?」

「あ、その……、凄い筋肉ですね」

 そう言われ、ボクは少し照れくさくなった。

「まあ確かにムキムキだけどさ、でもこれは本当の姿じゃないんだ」

「本当の姿じゃない?」

 ボクはTFを解いて、元の小さいトカゲの姿に戻った。

「あぁ、TF持ちだったんですね」

「そうそう。こうしてみると、コッカーと目線が合って話しやすい気がするよ」

 小さな姿と大きな姿、それぞれ異なった景色が見える。それはそれでいいことだと思っていた。

 すると、コッカーが声をあげた。

「そうだ!前にTF持ちの大きいトラに会いましたよ!あのトラも凄い筋肉でしたよ」

「へぇ、TF持ちのトラかぁ。ボクも会ってみたいなぁ」

「そうですね……。実はあの後どこに行ったのか分からないですけど、会えると良いですね」

 その夜、いまだに雨が止まないので、コッカーはボクの家に泊まることになった。

「あの、お願いがあるんですけど」

 コッカーが訪ねてきた。

「ん、何だい?」

「えっと……、TFしたトールさんの上で寝てみたいです」

「ああ、いいよ」

 やれやれ、仕方ないなぁ、ボクは身体に力を籠めてTFを始める。ムキムキッという音をたててボクは大きなマッチョトカゲへと姿を変えた。

 TFを終えたあた。コッカーはボクの胸に飛びついて来た。

「おっと」

 仰向けになってコッカーを抱きかかえる。コッカーはボクの胸筋の間に顔をうずめて幸せそうな顔をしている。

(不思議な子だなぁ……。まるで子犬のようにじゃれてきてくれる)

 こんなことをされる相手は初めてだったが、何故かとても心地良く感じていた。その晩は、いつにも増してぐっすり眠ることができた。

 次の日の朝、雨はすっかり止んでいて、太陽が顔を出している。コッカーが洞窟から出て、ボクも後に続く。寝ている間にTFを解除してしまったようで、今は小さな姿だ。

「昨日はありがとうございました。また遊びに来ますね」

 コッカーがお礼を言った。

「ボクも話せて良かったよ」

「……あの、寝起きで悪いんですけど、もう一度TFが見たいです」

 コッカーが照れくさそうに言った。その仕草が妙に可愛いらしくて、つい笑ってしまってしまう。

「ああ、いいよ。嬉しいからちょっとサービスね」

 そういうと、ボクはまた力を籠める。

 ムキッ!メキメキ……

 筋肉トカゲ獣人の姿になると、コッカーがまたボクに抱きついてきた。そして胸に顔を埋めたままこう言うのだ。

「あの、もうちょっとこのままで……」

 そんなこと言われたら断れないじゃないか。ボクは黙ってコッカーを抱きしめてあげた。コッカーは嬉しそうに目を細め、頬擦りしてくる。なんだか幸せな気分になり、ボクはそのままコッカーと戯れることにした。

「さて、そろそろ行かなくては……」

 コッカーが寂しそうに言う。

「あぁ、そうか。キミは旅の途中だったんだね」

「はい、トールさんのことは忘れられなくなりそうです」

「えへへ、ありがとね。またいつでもおいでよ」

「はい、絶対来ます!」

 そう言うと、コッカーは森の中に入っていった。

 コッカーが去った後、ボクはしばらく洞窟の中で考え事をしていた。さっきのやりとりを思い出しながら、少し恥ずかしくなる。

 やっぱり、ムキムキマッチョの身体にみんな憧れているのだろうか?そう思うと嬉しくなってきた。

「よし、もっと鍛えて、さらにムキムキになるんだ」

 ボクはそう決意するのだった。

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TFトカゲのトール ちゃむ @BulkieCharge

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