裏切り者は細めた目尻に泪をためて。

音佐りんご。

裏切り者は。

 ◆◆◇◇


  玉座の間。

  魔王の亡骸の側に立つロイドと向かい合う四人。


ロイド:――ふふふふふふふ。

ロザリア:何のつもりだロイド・ロレンス!

ヴィオラ:ロイド殿……!

セレスティア:あぁ、ロロ様……。

オーレル:何笑ってやがる、ロイド!。

ロイド:ふふふ、僕はこの時を待っていたんですよ。

ロザリア:待っていた?

ロイド:えぇ、皆さんと共に魔王を打ち倒すこの喜ばしき瞬間をね。

ヴィオラ:喜ばしいのは確かですが、なんだか喜び方が尋常では無い気がするのですが……。

ロイド:もちろん、尋常では無いほど嬉しいからですよ。

ヴィオラ:なるほど。

オーレル:なるほど。

セレスティア:なるほど。

ロザリア:なるほどじゃない! そいつから離れろヴィオラ! オーレル! セレスティア!

ロイド:ふふふふふ。

ロザリア:もう一度聞くぞロイド・ロレンス! 何のつもりだ! お前はそこで何をしている!

ロイド:見て分かりませんかロザリアさん? 僕は戦利品を回収しているのですよ。

オーレル:戦利品だぁ?

ロイド:ふふふ、いやぁ皆さん今まで大変ご苦労様でした。本当に、心よりお礼申し上げます。皆さんとの長い長い旅は、僕の一生の思い出ですよ。ありがとうございます。

オーレル:なんだよ急に……照れるじゃねぇか!

ロザリア:照れてる場合か、オーレル! やつから眼を逸らすな。何を企んでいるか分からんぞ!

ロイド:いやだなぁ、いつものことですが、企んでるなんて人聞きが悪い。僕はこれでも皆さんに感謝してるんですよ?

ヴィオラ:ほんとですか?

ロイド:ええ。そしてこの輝かしき勝利と力は唯一最高の贈り物です。感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。

ヴィオラ:えへへ……。

ロザリア:だからあの糸目に絆されるなって!

ロイド:糸目……。はぁ。


  ロイドが魔王の亡骸に触れる。


オーレル:ロイド! お前何を!

ロイド:ふふふ、ただのショウタイムですよ。

ヴィオラ:ショウタイム……?

ロイド:我は深淵を臨む者。芳醇なる彼の者の殻に牙を突き立て、其の命を喰らい同化を願う禁忌の蕾。混濁せし揺籃の果てに新たな理を刻め! ケイオス・オブ・インテグレーション!

セレスティア:あ! み、みなさん、見て下さい! 魔王が!


  亡骸が次第に消え、ロイドに吸い込まれていく。


オーレル:な……! 魔王の死体が消えていく!?

ロザリア:いや、違う!

セレスティア:まさか、魔王を取り込んで……?

ロザリア:マズい!

ヴィオラ:えぇ、不味そうですよね……。

ロザリア:味の話では無くて!

ロイド:ふふふふふふふふ! あぁ、なんて素晴らしい! ついに、ついに、ついに! 彼の者、魔王の力が我が物となりました!

ロザリア:何だと!?

オーレル:そんな馬鹿な!

セレスティア:それはほんとなんですの? ロロ様。

ロイド:ええ、もちろん。皆さんも感じるでしょう? この僕の力の高まりを。

ヴィオラ:確かに、この嫌な気配、魔王と同じ……?

ロイド:あぁ力が溢れてくる!! 素晴らしい、素晴らしいですよ!!

ヴィオラ:ロイド殿! どういうことなんですか!?

オーレル:説明しやがれロイド!

ロザリア:貴様……!

ロイド:ふふふふふ、あぁ……。良い顔ですねぇ、みなさん。

オーレル:何だとロイド! 俺の顔が……良いだって!?

ロイド:言ってませんよ馬鹿。鏡見ろ。お前の分身でも出してやろうか?

セレスティア:そんなものいりませんわ! どうしてしまったの、ロロ様!

オーレル:今、そんなものって言ったセレス?!

ヴィオラ:今はそんなことどうでもいいでしょう、オーレル殿!

オーレル:俺にとっては結構大事な……。

ヴィオラ:ロイド殿! そんな力を手に入れてどうしようというのですか!?

ロザリア:そんなの決まっているだろう! ヴィオラ! あいつはついに私達を裏切ったんだ!

セレスティア:う、そんな……!! ロロ様!

ヴィオラ:嘘だと言って下さい! 裏切りなんて!

オーレル:俺はお前のこと親友だって信じてたのに! どういうことなんだよロイドぉ……!!

ロイド:やれやれ。だから、人聞きが悪いですってば、ねぇみなさん?

ロザリア:人聞きが悪いだって? 事実だろう裏切り者!

ロイド:ロザリアさん。僕は決して裏切ってなどいませんよ?

ロザリア:じゃあ、これは一体何の真似なんだ? 魔王の真似事だとでも? 冗談では済まされんぞ!

ロイド:ふふふ、真似事ではありませんよ、正真正銘僕はもう魔王なのですからね。それに、冗談で済まされないのはお互い様では? これはあなたの招いたことでもあるのですよロザリア・リードさん。もちろん、あなた方全員のね。

ロザリア:何のことだ! ロイド・ロレンス!

ロイド:おや、心当たりありませんか?

ロザリア:あるわけが無いだろう!

ロイド:やはりあなたは僕の話など聞いてはくれないようですね。悲しい限りだ。

セレスティア:悲しいのは私たちもですわ……!

ロイド:へぇそうなんですか? 驚きですねぇ。

セレスティア:どうしてロロ様はこのようなことをされたんですの……? 私達は互いを支え合う仲間だったのに……!

ロイド:仲間、ですか。

オーレル:セレスの言うとおりだぜ! 俺達はお前のことをかけがえのない仲間だと、いつも笑ってて仲間思いの良いやつだって信じてた、それが! こんな形で裏切られるなんて! 裏切られるなんて! くそぉぉぉ!

ヴィオラ:オーレル殿……。

ロイド:…………仲間思い、ねぇ。

ヴィオラ:ロイド殿、あなたはどうして我々を裏切ったりなどなされたのですか? あなたはそんな方では無かったはず! あなたがたとえ本当に魔王になったのだとしても、我々はまだ、わかり合えるのでは無いでしょうか?

セレスティア:ビビ様……。

ヴィオラ:どうか、お聞かせ下さい。ロイド殿、あなたはこのようなことをする御方では無かった、どうしてですか……!

ロイド:どうして、だと?

ヴィオラ:ロイド殿……?

ロイド:そんなことするやつでは無かった? ふ、ふふふ、ふふふふふふふふ。

オーレル:何がおかしいんだよ! ロイド!

ロイド:何が? いえ、全てですよ。

ロザリア:全てだと?

ロイド:そう、全てがちゃんちゃらおかしい。あなた方の言っていることは全て笑うしか無い茶番ですよ。嘲笑に値しますねぇ。さては皆さん、勝ち目が無いからって僕を笑い殺そうとしています?

オーレル:笑えねぇよ! こんなの悪い冗談じゃねぇか!

ロイド:悪い冗談……ですか。そうでないのなら、僕を憤死させる腹づもりなのでしょうかねぇ。

ロザリア:憤死だと? 今、怒りを抱いているのは私達だ。信じていた仲間にこんな卑劣な裏切りをされるなんて!

ロイド:信じていた?

ロザリア:ああ、お前のことは頼りになるやつだと思っていたよ。それなのに、魔王になるだなどという醜悪な野望に利用されたことことが悔しい!

ヴィオラ:ロザリア殿……。

ロザリア:しかし何より、お前の腹の底で渦巻くものに気付くことの出来なかった己の未熟さに腹が立つ! もしそのことに気付いてやれたら、こんなことにはならなかっただろうに。私はリーダー失格だ……。

セレスティア:ううん、リア様は良くやっておられましたわ。

ロザリア:セレスティア……。

オーレル:そうだぜロザリア。お前が責任感じることねぇ! あいつがあんなんなっちまったのは、親友である……俺の責任だ!

ロザリア:オーレル……。すまない、ありがとう二人とも。私が頼りないばかりに。

ロイド:あー。そういうのいいですから。よそでやってくれませんかねぇ、背中がむず痒くって仕方ありません。

ヴィオラ:ロイド殿は、何か気に入らないことがあったのでは無いですか!?

ロイド:気に入らないこと? さぁ、どうでしょうねぇ?

ヴィオラ:かつて私の祖国を滅ぼした内通者のように、なにかどうしても裏切らなければならないような何かが!

セレスティア:ビビ様……。

ヴィオラ:ロイド殿。どうか私達にその胸の裡を話してはくれませんか?

ロイド:胸の裡ですか。それを知りたければ、まず、あなた方があなた方自身の胸に手を当ててよく考えてみたら良いのではありませんかねぇ?

ヴィオラ:胸に……?

オーレル:胸だと? この俺のハートは悲しみで今熱く燃えてるぞ! ロイドぉ!

ロイド:燃え尽きれば良いのでは?

ロザリア:ロイド・ロレンス。私には貴様が何故裏切ったのかなど理解できない。どうしてこんな愚かなことをした?

ロイド:分からないクセに随分偉そうですねぇ、ロザリアさん。

セレスティア:ロロ様。わたくし、ロロ様のことを信じておりました。でも、ごめんなさい、皆目見当がつきませんわ……!

ヴィオラ:私も分かりません……。

ロイド:えぇ、そうでしょうね。どうせ、あなた方は僕のことなど理解しようともしないのですから。

ロザリア:その言い方! まるで私達が悪いような言い方だな。

ロイド:さっき、責任がどうとか言ってたでしょうが。

ロザリア:話をすり替えるな! 何が言いたいんだ裏切り者め!

ロイド:……はぁ。

ロイド:では、聞きますが。僕と初めて出会ったときにあなたたち何て言いました?

ロザリア:初めて会ったとき? 確かアルムガンド大陸だった気はするが……憶えているかヴィオラ?

ヴィオラ:いえ、私はちょっと……。あ、でもアルムガンドの西の方、城塞都市リストだった気が……。セレスティア殿は?

セレスティア:ええ? うーん、わたくしが合流した時にはロロ様は既に居ましたので分かりませんわ……。

ヴィオラ:そういえばそうでしたね。

セレスティア:あ、でもオール様が前に運命の出会いだったという話をされていたような……どうですか、オール様?

オーレル:もちろん憶えてるぜ!

ロザリア:おお! 流石だオーレル!

ヴィオラ:素晴らしい記憶力ですオーレル殿!

セレスティア:素敵ですわオール様!

オーレル:へへへ。照れるじゃねぇか。もっと褒めてくれ!

ロイド:…………はぁ。

ロザリア:それで、なんと?


オーレル:(咳払い)……おお、友よ! これは正しく神の導いた運命の出会いだ! ロイド・ロレンス! 俺達と手を取り合って、共に世界を救おう! さぁ!


セレスティア:まぁ素敵……!

ヴィオラ:たぶん大体そんな感じだったような。

ロザリア:うむ、思い出した。合ってるな。

ロイド:いや、微塵も合ってませんよ。イカレてるんですかあなた方。

セレスティア:違うんですの?

オーレル:おいおいおいおい! 合ってるだろ親友! まさか俺達の感動的な出会いを忘れちまったなんて言わないだろうな?!

ロイド:僕にはそんな記憶ありませんね。捏造しないで頂きたい。

オーレル:おいおい、これはまさか……魔王の力の副作用なのか!?

ロイド:は?

ロザリア:何?

セレスティア:そうなんですの?

オーレル:きっとそうだ! 闇の力の影響で俺達との思い出をすっかり忘れちまったんだ。いや、ということはそもそも、ロイドは俺達を裏切ったんじゃ無くて……。

ヴィオラ:魔王に操られていた……!?

ロイド:は?

セレスティア:確かにその可能性は否めませんわ。

ロザリア:そうか、そういうことだったのか!

オーレル:くそう! 魔王めぇぇ! 俺達から親友の心を奪い、剰え俺達との対立を企てるなんて! くそう! 友情を穢しやがって! 俺は絶対にお前を許さねぇぞ魔王! けど俺は魔王と同化した親友であるお前に剣を向けなければならない! あぁ! なんて辛いんだ! そして俺は葛藤の果てに友を殺した悲劇を背負って……真の英雄に! うふ、うふふ、うふふふふふふ……! っぁあ、ロイド! 今俺が解き放ってやるからな! 待っていろよロイドぉぉぉ!

ロイド:いや、ちょっとなに一人で盛り上がってんですかねぇ、こいつ。あの、セレスティアさん、こいつの頭治して下さいよ。

セレスティア:うーん、持病なので無理ですわ。諦めて殺し合って下さい……! 蘇生はしますから! わたくし応援してますわ!

ロザリア:するな! ヴィオラ、オーレルを止めてくれ! あいつ一人じゃ勝てない!

ヴィオラ:えー……分かりましたよ……。オーレルさん! ちょっと待って下さいよ!

オーレル:止めてくれるなヴィオラ! 俺はこの手で親友を殺さないとならないんだ! 英雄になるために死んでくれ! ロイドぉぉぉ!

ロイド:オーレルさんの歪んだ英雄像って一体何なんですかね。

ロザリア:知らん、

オーレル:ぬおおおぉぉ! ロイドぉぉぉぉ!

ヴィオラ:力つよ!? 止まらない! 助けて下さいロイド殿!?

ロイド:敵である僕に助けを求めないで下さい。はぁ……。彼のものを鎮めよ。トランキュイライズ。


  ロイド、鎮静化の魔法を発動する。


オーレル:ほえー……。

ヴィオラ:ナイスアシストっす、ロイド殿!

セレスティア:あら。静かになってしまいましたわ。残念。

ロイド:魔王になって初の魔法がこれですか……まったく、いやになりますねこいつら。

ロザリア:……私もたまに思う。

ロイド:……そうですか、僕には関係ありませんがね。

ロザリア:それで、ロイド・ロレンス。私達はお前に何と言ったというのだ?

ロイド:ああ、聞くんですか? 全く、少しは自分の頭で考えてほしいものですね。

ロザリア:考えて分からなかったから聞いている。お前は何故裏切った?

ロイド:……いいですか? あなた方は、アルムガンド西方、城塞都市リストで僕と出会った。すべてはここから始まった。そしてギルドで、盗賊団討伐の依頼で案内役としてアジトまで同行することになった僕にこう言ったんですよ。


ロイド:「こいつ糸目だから裏切りそうじゃね?」


ロザリア:…………。

ヴィオラ:…………。

オーレル:…………。

セレスティア:草。

ロイド:草も生えませんよ! こちとら生まれつきなんですが?! どうしろと?

セレスティア:それはまぁ……どんまいですわ! うふふ、それにしても皆様ったら、初対面の人にそんなひどいことを言われたんですの?

ロザリア:まぁ、その、あまりにも風体が怪しかったのでな。盗賊の手引きをしていそうだなと。

ロイド:いや、だとしても面と向かって言うなよ! 抱いた印象をそのまま言葉にしないでください!

オーレル:そういえばこいつ最初丸眼鏡かけてたんだぜ? めっちゃ胡散臭かった!

ヴィオラ:それに常にニヤニヤしてました! 私憶えています!

ロイド:おい、なんでそういうのだけはしっかり憶えてるんですか。

セレスティア:あら、ニヤニヤしてたんですの……。それは疑われても仕方ありませんわね。

ロイド:いや、それを言うなら、セレスティアさんも常に笑ってるじゃないですか? 今だって。

セレスティア:うふふふふ。

ロザリア:セレスティアがなんだと?

ロイド:……というか、この状況でずっと笑ってるのおかしくないですかね?

オーレル:おい、言いがかりはよせロイド! それの何がおかしい? セレスは俺達がどんな苦境にあっても、辛いときでも笑みを絶やさなかったんだぜ? みんなが怪我しても笑顔で治してくれるし、俺の腕がぶっ飛んだときも笑って励ましてくれたんだからな!

ロイド:いや、やべぇよ何それ!?

オーレル:ああ、ヤバかった。危うく惚れるところだった。

ロイド:あなたの頭もやべぇ!

ロザリア:でも、セレスティアのは微笑だろ。

ヴィオラ:天使の微笑み、みたいな。

セレスティア:天使だなんて、うふふ。

オーレル:な、ほら、癒やしだろ?

セレスティア:うふふふふふ。

ロイド:……知らない方が良かったこともあるんですね。

ロザリア:それに引き換え貴様のは悪魔の北叟笑みって感じだ。

オーレル:それな! なんか企んでそう! いやらしい!

ヴィオラ:癒やしの天使の微笑みと、いやらしい悪魔の北叟笑み。

ロイド:並べるんじゃない!

セレスティア:まぁ……! わたくし達、案外似たもの同士なのかも知れませんわね? ロロ様。うふふふふふふ。

ロイド:…………。

ヴィオラ:これは、何かが、芽生える予感ですか?

オーレル:これだからモテるやつは……。

ロイド:あなた方に対してはもう怒りと呆れ以外何も芽生えませんよ。

セレスティア:それは残念ですわ。

ロイド:ああ、他にも、しゃべり方がずっと敬語だから怪しいとか、微妙にモテるのがムカつくとか言ってましたよね?

ヴィオラ:でも、確かに私、ロイド殿の言葉遣いには距離感を感じるのです。

オーレル:それな!

ロイド:いや、ヴィオラさん。あなたも敬語でしょうが。

ヴィオラ:これは元騎士的な個性を出すためのそういうキャラですので……。

ロイド:どういう線引きですか! それを言えば僕だって元貴族の嗜みですよ!

ロザリア:没落してるけどな。

ロイド:ほっといて下さい。

オーレル:しかも三男。

セレスティア:まぁ……! それは裏切りそうですわね。

ヴィオラ:このようにロロ殿は生い立ちから顔から言動まで胡散臭かったのです。

オーレル:だよな!

ロザリア:分かる!

ロイド:うるさいですよ!

オーレル:あと、そのくせ微妙にモテるのがムカつく。

ロイド:それは完全にヒガミじゃないですか!

セレスティア:うふふふふふ。敵になったはずなのに、なんだか仲良しですわね。素敵です……!

オーレル:おうよ! 俺達は親友だからな!

ロイド:あなたは親友じゃありませんよ、変態野郎。

オーレル:ロイド! そんなこと言うなよ俺だって傷つくんだからな?!

ロイド:傷つくですって? そんなものたかが知れてるでしょう? これまで皆さんが僕に言ってきた「あいつっていつ裏切るんだろう?」という陰口に僕が傷つかないとでも? 親友とか言うクセに、人を平気で裏切り者呼ばわりとか、あなたの友情の概念どうなってるんですか?

オーレル:それは、その……、冗談だ!

ロイド:冗談で済んだら魔王になりませんよ。

セレスティア:うふふ、確かにシャレになってませんわね。


ロイド:あと、僕知ってますからね? 皆さんが僕に隠れてこそこそとやってたことについて。

ロザリア:こそこそと? 心当たりが無いな。みんな、あるか?

ヴィオラ:さぁ? どうでしょう……?

セレスティア:うーん、分かりませんわ。

オーレル:何を言ってるんだ、ロイド、お前の勘違いじゃ――

ロイド:いや、賭けてたでしょ。あんたら。

ロザリア:…………。

ヴィオラ:…………。

セレスティア:…………。

オーレル:…………。

ロイド:僕が何章で裏切るかとか……やってたでしょ。


  間。


ロイド:何とか言えよ。

ロザリア:…………あ、いや、か、賭け……? 知らないな、私は真面目な剣士だぞ? そんなことしませんよ。ねぇ?

ヴィオラ:そうですね、ちょっと、何を言ってるのか分かりませんね、私も元ですが騎士ですし。か、賭け事だなんて、そんな、あははは。

セレスティア:……うふふふ、わたくしは、賭けていませんわ。

オーレル:……いやぁ。……へへへ、いやぁ。知らないな。

ロイド:とぼけても無駄ですよ。

ロイド:5章で僕達、牢獄にぶち込まれましたよね?

ロザリア:あ、あーね。

ヴィオラ:大変でしたよね~!

ロイド:あのとき、僕が密告したって最後まで疑ってましたよね?

ロザリア:それは……。

ロイド:僕が情報収集で別行動してた時に捕まって、裏切りだなんだって罵ってましたよね? 皆さん、僕のことなんて言いましたか? 胸に手を当てて思い出して下さい。

オーレル:……嘲笑う悪魔。

ロザリア:……叛逆の糸目。

ヴィオラ:……腹黒三男坊。

セレスティア:ノーコメントですわ。

ロイド:それ結局濡れ衣でしたよね? というか、僕が地道に情報収集してたおかげで無事脱出できたんですよね? そういえばあの時の詫び、まだ聞いてないんですけど。

ロザリア:それは、その……すまなかった。

ヴィオラ:すみませんでした!

セレスティア:うふふ、ごめんなさいね。

オーレル:はは、悪かったな。でも、それはもう誤解が解けたからチャラっていってたじゃねぇか? な?

ロイド:ええ、釈然としませんが、許しましたよ。僕も、ええ。多少は怪しかったですしね。

オーレル:なら、問題ねぇじゃん。はい! 終わり。この話終わり!

ロイド:それは許しましたけど、だから、言いましたよね? 知ってますよ? 僕。

ロザリア:な、何を……?

ロイド:賭け。

ロザリア:か、賭け?

ロイド:あの時めっちゃベットしましたよね?

ロザリア:うっ……。

ヴィオラ:うっ……。

オーレル:うっ……。

セレスティア:ロロ様、賭けていませんわ、わたくし。

ロイド:黙れ胴元。一人勝ちで掛け金全部持ってったでしょうが。

セレスティア:……あら、何のことだかさっぱりですわ?

ロイド:というかセレスティアさんは僕が裏切っていないこと、知ってましたよね? 僕はあなたにそう伝言を頼んだはずなのですが。

ロザリア:そ、そうなのか!?

セレスティア:いいえ、大変な誤解ですわ。わたくしはただ、あなた様がそのようなことしないと信じていたのですわ。

ヴィオラ:いや、同室でしたがセレスティア殿、そんなこと一言も言ってませんでしたし、賭けようって言ったのそもそもセレスティア殿――

セレスティア:そう、ロイド様にわたくし達の命運を賭けよう! そう言ったのです。わたくしは信じておりましたわ。きっとロロ様が救い出してくれると!


  間。


ロイド:……あっそ、まぁどっちでも良いんですけどね。それで、今回はいくら賭けたんですか? セレスティアさん。

セレスティア:……ノーコメントですわ。

ロザリア:一千万だ。

ロイド:うわぁ……。

セレスティア:ちょっとリア様!?

オーレル:うっそ、セレスそんな賭けてたのか?

ヴィオラ:さすがセレスティア殿……。

セレスティア:誤解! 誤解ですわ! これは、最終決戦ですから、そう、ロイド様は絶対裏切ったりしない! だから、わざと負けて皆様に今までの稼ぎを還元しようとしてですね……!

ロザリア:嘘つけセレスティア。

セレスティア:う、嘘? 何がですの?

ロザリア:思い出したぞ、お前が言ってたこと。

セレスティア:ろ、ロイド様のこと信じておりますって言ったことですの? そうなのです、ロイド様のことずっと信頼しておりますのわたくし。

ロザリア:いや。

ロザリア:「うーん、わたくし、魔王を倒した直後に魔王の力奪って裏切るに全賭けですわ☆」

オーレル:そう言ってたな。

セレスティア:いやぁぁぁぁぁ! 言ってないぃぃぃ!

ヴィオラ:どんぴしゃですね。

ロイド:へぇ。

ロザリア:で、そんな裏切り方ある? って私が聞いたら、

セレスティア:やめて、リア様言わないで!

ロイド:ほう、続けて下さい。

ロザリア:「うふふふふふ、わたくし、ロイド様のことずっと信頼しておりますの。だからきっとこの賭け、今回も勝ちますわ」

ロザリア:だって。

オーレル:……うわぁ。

ヴィオラ:……うわぁ。

ロイド:……想像以上にひどいですね。

セレスティア:い、いえ、これはその、私たちは魔王なんかに負けない的な!

ヴィオラ:言い訳は見苦しいですよ、セレスティア殿。

セレスティア:……うう、その、ごめんなさい、ロロ様……!

ロイド:もう良いんです、過ぎたことです。

セレスティア:わたくしを許してくれるんですの……?

ロイド:ええ、もう良いんです。そんなことはどうでも。

セレスティア:え……?

ロイド:今の僕はあなた方にとって裏切り者かも知れませんが、あなた方は今まで僕を裏切っていたんですから。

ロザリア:どういうことだ?

ロイド:ここまでお話ししたんですから、冥土の土産に教えてあげますよ。僕にはねぇ、あなた方の裏切りに対して一つだけどうしても許せないことがあるんですよ。今までの件も相当のものでしたがね。

ヴィオラ:どうしても許せないことですか……?

ロイド:おや? 分かりませんか? 僕にえげつない仕打ちをずっと続けてたじゃないですか。ほら、僕の手を見て下さい。

オーレル:……? 何も無い、綺麗な手じゃないか親友?

ロイド:親友じゃねぇよクズ。でも、そう。見ての通り僕の手には何も無いんですよ。

ヴィオラ:何も無い?

オーレル:だからどうした? 手は汚してないってか?

ヴィオラ:…………っあ! アクセサリー!

セレスティア:アクセサリー? っあ。

ロザリア:……そうか!

オーレル:え?

ロイド:気付きましたね。そうです。

オーレル:いや、分からん。

ヴィオラ:ロイド殿はアクセサリー系のアイテムを持ってないんですよ。

オーレル:いや、それがどうしたんだよ?

ロザリア:あの時のことか、6章の毒沼……!

オーレル:毒沼? ……あ。

ヴィオラ:本来ならみんなで毒無効の指輪をつけて歩くべき毒の沼を、ロイド殿は……。

ロイド:ええ、僕はあの時のことを忘れません。体力1で徘徊させられた毒の痛みとあの屈辱を、僕は一生……!!

ヴィオラ:アレですか……、大変そうでしたよね、よく耐えたなって……。

セレスティア:ええ、毒と惨めさに耐えながら、ふらふらと歩き、襲い来るモンスターの攻撃を必死の形相で躱す姿……ああ、今思い出しても、素敵でしたわ。

ヴィオラ:え?

オーレル:え?

ロザリア:え?

ロイド:え?

セレスティア:え? あ、いや、気丈に振る舞い毒に耐える健気な姿がですわ! 苦しんでる姿がじゃなくって!

ロイド:いや、どっちも悪趣味ですが。……後ろからじっと見つめてたのはそういうことだったんですね。

セレスティア:いやぁ何のことでしょうね……。

オーレル:でも、アレってよ、指輪の数が……。

ロザリア:足りていたんだ。

オーレル:え?

ロイド:そう、指輪の数は足りていました。そもそも、そんな貴重なアイテムじゃありませんからね。店で買えます。多少値は張りますが、僕にしてた下らない賭け事の金額よりは安いでしょう。

セレスティア:えへへへ。

ロイド:そして、なにより僕は例の指輪以外も、アイテムを管理しているロザリアさんから持たせてもらったことはありません。

ヴィオラ:……そんな! どうしてですか! ロザリア殿?!

ロザリア:…………。

ロイド:決まっています、なくしてしまうかも知れないからですよ。

オーレル:なくすだって? おいおい、お前はそんなにドジなのか?

ロイド:いいえ、ロザリアさんがドジを踏みたくなかったんです。もし僕が――

ロザリア:すまなかった、ロイド。

ロイド:……もし僕が裏切ったら、僕の持っているアイテムは失われてしまう。永遠にね。

ヴィオラ:…………!

セレスティア:…………!

オーレル:…………!

ロイド:だから僕にアイテムを預けてくれなかったんですよね?

ロザリア:私はお前を最後まで信じることが出来なかった。

ロイド:もう、良いんですよそんな話は。ねぇ、分かるでしょう? 皆さん。だからこれは裏切りじゃあ無い。この僕の正当な復讐なんです。

ロザリア:……なぁ、ロイド・ロレンス。

ロイド:何でしょう? ロザリア・リード。

ロザリア:もう一度。もう一度、やり直さないか?

ヴィオラ:ロザリア殿……。

ロイド:はぁ、今更何ですか?

ロザリア:私は、貴様と初めて会ったときから「裏切りそうなやつ」としてお前を疑い続け、その本質に気が付くことの出来なかった愚かなリーダー、いや、ただのクズだ。

ロザリア:けれど、どうしてだろうな? それでもまだ、貴様のことを仲間だと思っているんだ。

ロイド:それ、本気で言ってるんですか? 僕は魔王になったんですよ? どうしてあなたたちと共に歩むことなどできましょう? あなたたちは選択を誤ったのです。最初から最後まで誤り続けた。それを今更やり直す? むしが良すぎますね。笑わせないで下さいよ!

ロザリア:だとしても! まだ間に合う!

ヴィオラ:ロザリア殿……。

セレスティア:リア様……。

オーレル:ロザリア……。

ロザリア:ロイド! 私の身勝手な願いなのは承知だ。それでも、頼む。私の手を取ってくれ!

ロイド:ロザリアさん……。


  間。


ロイド:その手を下ろして下さい。

ロイド:もう、手遅れです。

ロザリア:……あ。

ロイド:僕はもう二度とあなたの手を取らない。さぁ、代わりに剣を取って下さい。

ロイド:未来を切り開くあなたの剣を。赤の剣士ロザリア・リード。

ロザリア:ロイド……。

ロイド:僕らの旅路に決着をつけましょう。紫の騎士ヴィオラ・ヴィンセント。

ヴィオラ:ロイド殿……。

ロイド:この魔王を打ち倒し世界を平和に導くのです。青の癒やし手セレスティア・シネラリア。

セレスティア:ロロ様……。

ロイド:そして英雄にでも何でもなるがいい。金の狂戦士オーレル・アドニス。

オーレル:ロイドぉぉ!


ロイド:ただし、この僕に勝てたらですがね。ふふふふふふふ。

ロイド:いいですか、皆さん?

ロイド:糸目が裏切るんじゃない! お前らが僕を裏切らせたんだ! お前らが、お前らの不信が魔王を生み出した! お前らは勇者でも英雄でも何でも無い! 今はただ人間のクズだ! だからこの僕が、灰の魔法使い改め、灰の魔王ロイド・ロレンスが! お前らを消し去って浄化してやる!

ロイド:さぁ、この僕の真の力に刮目せよ!

ロイド:うおおおおおぉぉぉぉぉっ!


  ロイドの魔王の力が開眼する。


ロザリア:あ。

ヴィオラ:あ。

セレスティア:あ。

オーレル:あ。


  間。


ロイド:……おい。

ロイド:正直に手を上げろ貴様ら。

ロイド:今「あ、覚醒したら目開いたぜこいつ」とか思ったやつ手を挙げろ!


ロザリア:…………。

ヴィオラ:…………。

セレスティア:…………。

オーレル:…………。


  一同、手を上げる。


ロイド:全員じゃねぇか! クソが!

ロイド:最後の最後まで、糸目を馬鹿にしやがって! 許しません! 許しませんよぉ!! この魔王が! この世の全ての糸目キャラの怒りを教えてやる……! この僕の全身全霊を以てして!

ロイド:……それで、もしお前らが勝ったなら、まぁ話くらいは聞いてやる……。

ロザリア:…………!

ロイド:さぁ、覚悟は良いか! ゴミ屑共!

ロザリア:……ああ! 行くぞみんな! 未来を切り開くんだ!

ヴィオラ:今度こそ私は守り抜く! 大切なものを失わないために。

セレスティア:なんだか柄にもなく燃えてきましたわ! いきましょう! みなさん!

オーレル:英雄としてじゃ無い! これは親友として、負けられない戦いってやつだ!


ロイド:行くぞ! 我らの運命に終止符を! ふ、ふふふふふ、クフフフフフフ、ハハハハハハハハハッ!


 ◇◇幕◆◆

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裏切り者は細めた目尻に泪をためて。 音佐りんご。 @ringo_otosa

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