谷崎潤一郎版源氏物語

まず驚くのは、読みやすさですね。ひたすらに読みやすい。ドナルド・キーンが、日本の作家(当時の純文学の書き手)で一等読みやすいのはたれかと問われ、谷崎潤一郎と答えたそうですが、欧文脈の、くだいていえば、英文の翻訳に近いもので、ために我々現代を生きるものにとっても読みやすいわけですね。
それは谷崎潤一郎のコンプレックスというのか、妻となるひとの指摘もあり、それゆえ春琴抄などの技巧へとなり、源氏物語訳にもなるのでしょうが。
指摘するまでもありませんが、本作は谷崎潤一郎版源氏物語なんでしょうね。谷崎潤一郎は光源氏をけしからんと言っていたそうですが、紫の上を素材として、谷崎潤一郎であればこう料理する、谷崎潤一郎にとっての、けしからんものではない、あらまほしものはこれだ、というものを成した作品なのでしょう。
肉体的マゾヒスト、と河野多恵子は論じていますが、ずいぶん精神的なものがつよい、と私は思いますが。
ともかく、読みやすい文章のお手本にもなると思いますし、みなさま読まれてはいかがでしょうか。