かくれんぼバトルロイヤルのインチキ

ちびまるフォイ

途中参加の1人

制限時間はゲーム開始から3日。

それまで誰にも見つかってはいけない。


ゲーム開始するや、まず真っ先に押し入れに入った。


かくれんぼバトルロイヤルが始まると、

ゲーム地点の区域ではすべての民家へ自由に出入りできる。


もう3回も優勝経験のある俺からすれば

最初に外へ出歩くのは素人そのもの。


参加者どおし見つかった場合に、発見報告することができる。

参加者がまだ多く残っている序盤は報告ラッシュ。

下手に出歩かないのがポイント。


「絶対に優勝して〇〇ちゃんへプレゼントを……!」


今回は絶対に負けられなかった。


職場で気になっている女の子にアピールするため、

自分にできることはといえば、昔ながらのプレゼント作戦。


高級でセンスいいものを送れば、

まちがいなく自分の方へ視線を向けてくれるに違いない。


「負けられない……!」


固い決意のもと、押し入れで1日過ごした。



普通の人なら耐えられないだろうが、

かくれんぼバトルロイヤルのため特別な訓練をしたので平気だ。


初日は参加者がお互いに動き回ったり、

隠れ場所を探したりしお互いに見つけ合ったりするので非常に危険。


初日はとにかく動かないのがセオリーだ。



2日目。


1日目でかくれんぼ参加者がふるいにかけられ、

残ったのはかくれんぼ経験者か、もしくは運の良かった人。


けれど焦ってはいけない。

2日目に行動するのも最低限の必要がある。


近くのコンビニに行って、最低限の食べ物を奥から手にとってそそくさと引き返す。


食料の減りが露骨だと自分がここいらに隠れていることに感づかれてしまう。

あくまでも自分の痕跡は最小限にしなければならない。


根城に戻って軽く外を眺めてみる。


「まだいるな……」


道路にはオニ役ロボットに加えて、空にはオニ役ドローンが旋回している。


さらには、他の参加者を見つけ出すために動く

俗に「サーチャー」と呼ばれる参加者もいる。


彼らは自分が隠れるというよりも、

他の参加者を見つけるなり叫びだしオニに見つけさせる。


隠れて生き残るのではなく、

生き残っている人を減らす方向に動いている厄介な集団。


俺も何人かはお金でサーチャーを雇い、

今大会に紛れ込ませたものの1日目にして全滅している。使えない。


「あと何人だ……」


スマホのかくれんぼアプリを立ち上げる。

残りは10人。


微妙な数字。



人数が少なくなればなるほど、見つかる可能性は少なくなる。

安全ではあるが、タイムリミットをすぎる危険性は高まる。


時間切れになってしまえば優勝もなくなってしまう。


サーチャーとして動き出すタイミングは非常に大事。


「2日目にして動くか……どうしよう……」


迷った結果、2日目も動かずにただじっと暗がりに潜んだまま過ごした。




3日目。


その日は寒く、かくれんぼ地域に今年はじめての雪が降った。


「このタイミングで雪かよ……」


絶望しかない。


雪を踏めば足跡が残るので、最後まで隠れ続けがちになる。

時間切れエンドがますます濃厚に。


このまま隠れ続けても時間切れになるくらいなら、

サーチャーとして動き出したほうが賢明だ。


逆に見つかったとしても、時間切れになってしまえば同じ結果は同じなのだから。


「全員俺が見つけてやる……! 〇〇ちゃんのプレゼントのために……!!」


3日目にしてちゃんと外に出た。

あえて道路を歩き新雪に足跡をつけつつ、別の民家に入る。


民家に入ったら2階の窓から隣り合った別の家へと侵入する。



しばらくすると、自分の足跡に引き寄せられた別の人が最初の民家へと入っていく。


「ふふふ。バカめ、足跡が罠だと気づかずに……!」


いまごろ民家の中をくまなく探しているのだろうが無駄なこと。

スイッチを押した防犯ブザーを民家へと投げ込んでやった。


民家からは慌てた声が聞こえたがもう遅い。

けたたましい音に引き寄せられたオニたちが一斉に民家へと突入していくのが見えた。


「これで1人減ったな」



こうして1人ずつ確実に仕留めていく。

タイムリミットの足音も近づいてきている。


「残り3人……。俺を除けば2人か」


残り時間もあとわずかで3人も参加者がいる。

ますます時間切れが目前に見えている。


勝手に見つかってくれないかと祈っても、参加者の人数は減らない。


「……あれ? 人数の表示バグってる?」


残り人数: 人


3の数字がときおりかすみはじめている。

スマホが古いせいか。

3とうすい4を行き来している。


「ったく、こんなときに……」


どちらにせよ残り人数がわずかで、時間切れも近いことには変わりない。

こうなったら、1度しか使えない奥の手を使うことにした。


残り2人の参加者が、今大会が初参加でないと通用しない。

初心者狩りのための最後の秘策。



『ゲーム終了~~~~!!』



合成音声を大きく鳴らして街全体に聞こえるようにした。


ゲーム終了の合図がなれば参加者は指定の中央集合場所にいかなければならない。

初参加だと自分のこの偽音声が本物だと気づかない。


「いた!!」


そして、自分の秘策にひっかかった愚かなネズミが1匹。

中央集合場所にやってきてオロオロしていた。


2人ともじゃなかったのは残念だが、1人でも減らせればいい。


「ようし、あとはオニを呼んで……あっ!」


集合場所にいた女の横顔を見るや声が出なくなった。

参加していたのは恋い焦がれていた〇〇ちゃんだった。


「〇〇ちゃんも参加してたのか……!?」


このままオニを誘導して突き出すには音を出す必要がある。

〇〇ちゃんにもそれはきっとバレるだろう。


自分がオニを誘導しているのを見たら、

ゲーム終了後に賞金でプレゼント送ろうが離島送ろうが

「自分を売ったやつ」として認識されるので意味がない。


「あああ……! どうしよう! 俺はどうすればいいんだ!」


逆に自分を犠牲にして好印象を与えるか?


いや、残りの参加者はまだいるわけで

ここで〇〇ちゃんのためにオニに見つかって人数を減らしても

残りの人に〇〇ちゃんが見つかってゲーム終了になる可能性がある。


「く、くそ……。一旦ひこう……! 一旦ひいて作戦を……」


その場を気づかれないうちに立ち去ろうとしたときだった。


おそらく経験者であろう人間が、中央集合場所にやってきていた。

自分の偽終了のカラクリに気づいたのだろう。


男は手元のスマホをすでに構えている。

集合場所にやってきた〇〇ちゃんを発見報告するつもりだ。


まだ自分には気づいていない。

そう思うと、体が自然に動いた。


「やめろーー!!!」


大きな声を出しつつ、男にとびかかった。


「て、てめぇ! なにしやがる!」


「〇〇ちゃん逃げて! 早く遠くへ!!」


男ともみあっていると大声に反応したドローンがやってくる。

ふたりの顔を認証すると発見報告を自動で行う。


しかし男の力は強く最後の最後でふりほどかれてしまう。


「ここまで残ったのに諦められるか!!」


男はスマホの報告ボタンを押した。

〇〇ちゃんの発見報告が本部へと通達される。



> 優勝決定! ゲーム終了~~~~!! <



区画全体にブザーと終了の合図が響き渡った。

今度は偽物じゃなく、本物の合図。


俺と男はオニ役ドローンに発見された。

〇〇ちゃんは男の手によって報告された。


誰が生き残ったことになったのか。


いや。それよりも。

今ここが最大のアピールポイントだと思った。


〇〇ちゃんの目には自分を犠牲にして、かばってくれた王子様に見えているはず。


「〇〇ちゃんも参加してたんだね」


「う、うん……。でも、最後どうして発見報告しなかったの。それに私をかばって……」


「君の姿を見たとき、君を守りたいと思ったんだ」


俺のウインクで〇〇ちゃんのハートはわしづかみだろう。

ゲーム後にプロポーズ用の店を予約しなくては。


そのタイミングでスマホが鳴り、優勝者の発表が行われる。



『最後に残った優勝者を発表します。優勝はーー』





『最後まで、誰にも気づかれなかった赤ちゃんです!』



〇〇ちゃんのスマホからファンファーレが鳴った。

お腹の子にも聞こえるくらい高らかに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かくれんぼバトルロイヤルのインチキ ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ