ちっちゃくなって 🩴

上月くるを

ちっちゃくなって 🩴





 ぽっかり 目が覚めると 時計は 午前三時

 外気の急降下が 枕もとに 忍びこんで来る


 耳の奥が じんじん 鈍い 痛みを 鳴らす

 子どものころ 患った 中耳炎の あの記憶


 連日の零下十度は さすがに 応えるのだろう

 からだも 心も どんどん 小さくなってゆく


 ぬるくなった 湯たんぽを抱きかかえ 胎児のように まるくなっていると

 素足の爪先から ベリーショートの髪の一本一本が しずかに 消えてゆく


 しまいには 心臓ひとつになって ドクン ドクン 自分の音を聞いている

 人間 さいごは たったこれだけ 骨になったら もっと ちっちゃくなる




      🌠




 自信満々風(笑)に生きて来たけど ほんとうは どうなんだろう わたし

 なにひとつ 確たるものを 持たず それでも ただ 生きるしかなかった


 ほとんど理解できず 格好つけてサルトルやボーヴォワールを 読んでいた

 田舎の高校生にもどり もう一度 同じ人生を歩めと言われたら 絶望だな


 縋れるなにもないのに 子らを育て 事業をやりくりするなんて 勘弁して

 いるなら神さま ひまを持てあまして そんな残酷な遊び 思いつかないで




     💃




 どんどん小さくなる恐怖に耐えかね ラジオをつけると 梓みちよさんだった

 真っ赤なドレスを 花のように咲かせて 『二人でお酒を』 歌っていたっけ


 うらみっこ なしで わかれましょうね って そんなこと できるわけない

 あいしたりあいされたり いやになったりなられたり うらまないわけがない


 でも さいごは みんな 生まれたままの ひとりにもどって 異界へ旅立つ

 そう思うと すこし 救われるような かえって 怖くなるような あかつき




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