21.木の根の下にいる
「……で、一体なんなんですか、これは」
「マナ……、ちょうどよかった。助けて……」
だいたい正午を少し過ぎたころ、訓練場にいる紅葉とカレンを迎えに来たマナは、二人の姿を見て絶句した。
紅葉の体は、訓練場に生えている木の根と地面のわずかな隙間に挟まっていた。もはや木の方から自分で歩きだして、紅葉にのしかかり地面に埋まりなおしたと説明された方がまだ納得できそうなほど不自然な入り込み方で、彼の腰からはみしみしと締め付ける音が絶えず聞こえ続けている。
苦しみ呻く声を出す紅葉をよそに、カレンが今の状況を説明し始めた。
「彼の能力なのですが、ひとまず、指定した対象の位置に移動する効果があることは分かりました。そこで、自分の体が入るスペースのない、移動し得ない場所を指定した場合どうなるかと思いまして、少し実験していたところです」
彼女の話曰く、木の根はもともと地面から少しだけ浮いており、そこに小さな隙間ができていたらしい。その空間を指定して紅葉の能力を使ったようだ。
「それで実際にやってみたところ、こうなったということですか……」
結果はご覧の通りだ。
術者である紅葉の体が納まりきらないような場所を指定したとしても、能力は不発することなくしっかりと移動できてしまう。
その結果今回は身動きが取れなくなるだけで済んだが、さらに小さい空間を指定した場合、移動先で圧死する可能性があるとカレンは締めくくった。
「ということで今回のは失敗したということで、もうそろそろ助けて……」
「何を言ってるんだ? 失敗などしていないぞ?」
木の根の下で苦しみにあえぐ紅葉に、カレンは不思議そうに口を開く。
「今は貴様の能力がどのようなものかを調べているんだ。今回だって、本来物理的に移動できない場所やものを対象にしても、能力が不発にならないということが分かったんだ。これを今後活かす機会があるかは分からんが、少なくとも、もう二度とすべきではないと理解できただろう?」
「そうですね頭ではなく体で理解しましただから助けて」
「ところで、黒魔女様がいらしてくださったということは、そちらもおおよその話はついたということでよろしかったでしょうか?」
「……そうですね。お昼になりましたし、休憩も兼ねつつ、お互いの進捗を確認し合うのもよろしいかと思いまして」
「そうですね。では、行きましょうか」
「あのー、行きましょうって言っても、俺ここから出られそうにないんですけど」
「それにしても、アオキさんの能力の内容どころか、もう詳細な部分にまで調べを進めてくださっていたとは驚きですね」
「大まかな内容は昨日の時点で察していましたので、後は条件を調べるだけでしたからね。思いつく条件の候補がことごとく当たっていたのも、運がよかったです」
「あのー、すいませーん」
まるで紅葉の話が聞こえていないかのように、マナとカレンは二人だけで話を進めてしまう。そしてそのまま、彼女達は木の根に縛られ動けない紅葉に背を向けて、城内に歩み始めてしまった。
「ちょっと待って! 置いてかないで! ほんとに、本当に死にそうなくらい苦しいんだって!」
「置いてかないでも何も、そもそも自分で出られるだろう」
「あ、そっか」
そう呟くや否や、木の根に挟まれていたはずの紅葉の体は一瞬で消えてなくなり、腰の木刀に手を置くカレンの隣に突如として現れた。
それが彼の能力によるものだと分かり、マナは感心してため息を吐いた。
「能力の発動も正確で、指差しの必要すらなし。たった半日でずいぶん成長しましたね」
「そりゃこの半日、カレンにみっちりとしごかれてきたからな。……で、そのカレンはなんで剣を構えてんだよ」
「万が一、ということがあるだろう」
「あってたまるか」
二人が言っているのは、おそらく紅葉が初めて能力を使った時の事故のことだろう。
紅葉にはもう、あのような事態にはならないという自信が見て取れる。一方カレンの口ぶりからしても、そこまで本気で紅葉の能力を疑っているわけではないことが伺える。
軽口を叩き合いながら歩く二人を見て、マナは、本当にアッシュの言った通りになるものなのだなと、別の所でも感心していた。
きみとつなぐ縁〈えにし〉~交通事故にあった俺が異世界で英雄となり、女の子だらけのパーティとチート能力で王国を救い、元いた世界に帰るまで くろゐつむぎ @kuroi_tsumugi
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