九 ジョバンニの切符
「もうここらは
「あれは、水の
「
「さあ。」ジョバンニは
「これは
「何だかわかりません。」もう
「よろしゅうございます。
カムパネルラは、その紙切れが何だったか
「おや、こいつは大したもんですぜ。こいつはもう、ほんとうの天上へさえ行ける
「何だかわかりません。」ジョバンニが赤くなって答えながらそれをま
「もうじき
ジョバンニはなんだかわけもわからずににわかにとなりの鳥捕りが気の
「あの人どこへ行ったろう。」カムパネルラもぼんやりそう
「どこへ行ったろう。一体どこでまたあうのだろう。
「ああ、僕もそう思っているよ。」
「僕はあの人が
「何だか
「ほんとうに苹果の匂だよ。それから
そしたら
「あら、ここどこでしょう。まあ、きれいだわ。」青年のうしろにもひとり、十二ばかりの
「ああ、ここはランカシャイヤだ。いや、コンネクテカット州だ。いや、ああ、ぼくたちはそらへ来たのだ。わたしたちは天へ行くのです。ごらんなさい。あのしるしは天上のしるしです。もうなんにもこわいことありません。わたくしたちは
それから女の子にやさしくカムパネルラのとなりの
「ぼく、おおねえさんのとこへ行くんだよう。」
「お父さんやきくよねえさんはまだいろいろお
「うん、だけど
「ええ、けれど、ごらんなさい、そら、どうです、あの
泣いていた姉もハンケチで眼をふいて外を見ました。青年は教えるようにそっと姉弟にまた云いました。
「わたしたちはもう、なんにもかなしいことないのです。わたしたちはこんないいとこを
「あなた方はどちらからいらっしゃったのですか。どうなすったのですか。」さっきの燈台看守がやっと少しわかったように青年にたずねました。青年はかすかにわらいました。
「いえ、
そこらから小さな
(ああ、その大きな海はパシフィックというのではなかったろうか。その
「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを
「ああそうです。ただいちばんのさいわいに
そしてあの姉弟はもうつかれてめいめいぐったり
ごとごとごとごと汽車はきらびやかな
「いかがですか。こういう
「おや、どっから来たのですか。
「いや、まあおとり下さい。どうか、まあおとり下さい。」
青年は一つとってジョバンニたちの方をちょっと見ました。「さあ、向こうの
燈台看守はやっと
「どうもありかとう。どこでできるのですか。こんな立派な
青年はつくづく見ながら云いました。
「この
にわかに男の子がぱっちり眼をあいて云いました。「ああぼくいまお母さんの
「その苹果がそこにあります。このおじさんにいただいたのですよ。」青年が云いました。「ありがとうおじさん。おや、かおるねえさんまだねてるねえ、ぼくおこしてやろう。ねえさん。ごらん、りんごをもらったよ。おきてごらん。」姉はわらって
二人はりんごを大切にポケットにしまいました。
青年はぞくっとしてからだをふるうようにしました。
だまってその
「まあ、あの
「からすでない。みんなかささぎだ。」カムパネルラがまた
「かささぎですねえ、頭のうしろのとこに毛がぴんと
向うの青い森の中の三角標はすっかり汽車の正面に来ました。そのとき汽車のずうっとうしろの方から、あの聞きなれた 番の
そして青い
「あ、
「ええたくさんいたわ。」女の子がこたえました。
ジョバンニはその小さく小さくなっていまはもう一つの
「そうだ、孔雀の声だってさっき聞えた。」カムパネルラがかおる子に云いました。
「ええ、三十
(カムパネルラ、
「あの人鳥へ教えてるんでしょうか。」女の子がそっとカムパネルラにたずねました。「わたり鳥へ信号してるんです。きっとどこからかのろしがあがるためでしょう。」カムパネルラが少しおぼつかなそうに答えました。そして車の中はしいんとなりました。ジョバンニはもう頭を引っ込めたかったのですけれども明るいとこへ顔を出すのがつらかったのでだまってこらえてそのまま立って
(どうして
そのとき汽車はだんだん川からはなれて
その
そしてそのころなら汽車は
車の中ではあの
「ええ、ええ、もうこの
「そうですか。川まではよほどありましょうかねえ。」「ええええ
「あら、インデアンですよ。インデアンですよ。おねえさまごらんなさい。」
まったくインデアンは半分は踊っているようでした。
「ええ、もうこの
どんどんどんどん汽車は
どんどんどんどん汽車は走って行きました。室中のひとたちは半分うしろの方へ
向うとこっちの
「あれ何の
「あああれ
その時向こう岸ちかくの少し
その柱のようになった水は見えなくなり大きな
「小さなお魚もいるんでしょうか。」女の子が
「あれきっと
右手の
「双子のお星さまのお宮って何だい。」
「あたし前になんべんもお母さんから
「はなしてごらん。双子のお星さまが何したっての。」
「ぼくも知ってらい。双子のお星さまが野原へ
川の
「蠍の火って何だい。」ジョバンニかききました。「蠍がやけて
ああ、わたしはいままで、いくつのものの
「そうだ。見たまえ。そこらの
ジョバンニはまったくその大きな火の
その火がだんだんうしろの方になるにつれてみんなは何とも
「ケンタウル
ああそこにはクリスマストリイのようにまっ青な
「ああ、そうだ、今夜ケンタウル祭だねえ。」「ああ、ここはケンタウルの村だよ。」カムパネルラがすぐ云いました。〔以下原稿一枚?なし〕
「ボール
男の子が
「もうじきサウザンクロスです。おりる
「僕、も少し汽車に
「ここでおりなけぁいけないのです。」青年はきちっと口を
「天上へなんか行かなくたっていいじゃないか。ぼくたちここで天上よりももっといいとこをこさえなけぁいけないって僕の先生が云ったよ。」「だっておっ
「さあもう
ああそのときでした。見えない天の川のずうっと
「ハレルヤハレルヤ。」明るくたのしくみんなの声はひびきみんなはそのそらの遠くからつめたいそらの遠くからすきとおった何とも云えずさわやかなラッパの声をききました。そしてたくさんのシグナルや
そして見ているとみんなはつつましく
そのとき、すうっと
それはしばらく
ふりかえって見るとさっきの十字架はすっかり小さくなってしまいほんとうにもうそのまま
ジョバンニは、ああ、と
「僕たちしっかりやろうねえ。」ジョバンニが
「あ、あすこ
ジョバンニもそっちを見ましたけれどもそこはぼんやり白くけむっているばかりどうしてもカムパネルラが云ったように思われませんでした。何とも云えずさびしい気がしてぼんやりそっちを見ていましたら
ジョバンニはまるで
ジョバンニは
ジョバンニはばねのようにはね
ジョバンニは
「
「はい。」白い太いずぼんをはいた人がすぐ出て来て立ちました。
「なんのご用ですか。」
「今日
「あ
「ほんとうに済みませんでした。今日はひるすぎうっかりしてこうしの柵をあけておいたもんですから
「そうですか。ではいただいて行きます。」「ええ、どうも済みませんでした。」「いいえ。」ジョバンニはまだ
そしてしばらく木のある町を通って大通りへ出てまたしばらく行きますとみちは十文字になってその右手の方通りのはずれにさっきカムパネルラたちのあかりを
ところがその十字になった町かどや店の前に女たちが七、八人ぐらいずつ
ジョバンニはなぜかさあっと
「何かあったんですか。」と
「こどもが水へ
ジョバンニは橋の
その河原の
河原のいちばん
ジョバンニはみんなの
みんなもじっと
下流の方の川はばいっぱい
ジョバンニはそのカムパネルラはもうあの銀河のはずれにしかいないというような気がしてしかたなかったのです。
けれどもみんなはまだ、どこかの
「ぼくずいぶん
「もう
ジョバンニは思わずかけよって
「あなたはジョバンニさんでしたね。どうも
ジョバンニは何も云えずにただおじぎをしました。
「あなたのお父さんはもう帰っていますか。」博士は
「いいえ。」ジョバンニはかすかに頭をふりました。
「どうしたのかなあ、ぼくには
そう云いながら博士はまた川下の
銀河鉄道の夜 宮沢賢治/カクヨム近代文学館 @Kotenbu_official
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