最終話 新しい町

 いかにも怪しげな2人の男が玄関から忍び込んで来た。

「おい、本当に誰もいないんだな」

「何びびってんだよ、いないと言ってるだろ、とにかく薬を探せ。持っていけば金をくれるんだよ」

 じわじわと侵入する2人。

「うわー」

「いったいどうしたんだよ、なんだ、マリア像じゃないか」

 チェストの上の2体のマリア像に手を合わせる男。

「いつからそんなに信心深くなったんだよ」

「ばあちゃんが何にでも祈っていたらいいことがあるって」

 そこに天井にへばりついていたパパが言った。

「何か用ですか?」

「ウギャー、出たー」

「だから言っただろ」

 2人の男は腰を抜かして床から動けずにいた。

 それでも這うようにしてやっとのことで家の外に出て、走り去って行った。

「この町にまだ残党がいるようやな」

「パパ、あいつらのねぐらならドナおじさんが知っとるよ」

 

 町中の上空を3つの黒い影が飛んでいった。

「商店街の金物屋の奥で、昼から酒を飲ませ、ポーカー賭博をしているんです」

「それであのときドナおじちゃん」

「ちょっと運動させて来ると言って、抜け出すために私が連れ出されたんです」

 金物屋の裏手に回ると、煙草の煙が立ち込めていた。

 さっき家に来た2人組もテーブルの後に佇んでいる。

 プレビューの元彼もポーカーのテーブルについて、煙草を咥えていた。

 すると、テーブルの上のカードが風もないのに舞い上がった。

 3つの陰が、低く高く渦を巻いてテーブルの上を回った。

「えっ、どうしたんだ、おい、うわー」

「ドラキュラだあ、逃げろ、逃げろ」

「注射が欲しけりゃ、いつでも打ってやるぞ」

 パパはやつらに言うと、しばらく車のあとを追ったが、すぐに戻って来た。



 マリアと妖精、そしてドラキュラだけが住む町。

 飢えやそれによって起こる諍いなどのない平和な町が再び訪れた。

「パパ、ぼく、ちょっと変なんだ」

「どうしたプギー」

「何かあまり高く飛べなくなってきて、顔もふっくらしてきて」

「えっ、そういやパパもお腹が出てきたような……」



  ー了ー


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🐷プギーの憂鬱 オカン🐷 @magarikado

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