最終話 あの蒼い海に誓って
俺は
けれど別れを惜しみ、思わず海沿いの最も時間の掛かるルートを行く。
「今日も雨だね…雲のかかってない桜島、最後に見たかったな」
「な、何言ってんだ。また来ればいいだろ?」
「それは…そうだけどさ…」
何やら曇り空の様に里菜も少し
「こ、今度は…そちらから会いに来て欲しい」
「と、東京かあ…」
情けない。此処は、"いつでもいいぞっ!"と、男の
「あ、俺さ。天皇杯っていうサッカーの大会に出るんだ」
「う、うん?」
「来年の5月頃から始まって、決勝に残れたら国立競技場。そしたら東京に行ける」
「決勝でしょう、それって約束出来る?」
ミラーに映る里菜の視線が痛い。
「な、何とかなるっしょ! め、目指せ国立の舞台っ!」
「ふーん……じゃあ、待ってるねっ」
と、とんでもない約束だ。大学生チームが決勝に出たら歴史的快挙である。
雨の桜島と別れ、
「へへ、もうちょっと一緒にいられるね…あ、お土産何が良いかなあ?」
「へっ? あ、あぁ、そうだなやっぱ鹿児島なら『
俺は里菜のもうちょっとが尊くて、暫しボーッとしてしまった。
「カルカン?」
「あっ、こら猫の
「うんっ、じゃあ、これにするっ」
それにしてもこれからお別れだというのに、しゃんとしてる里菜はどうした事だろう。
あとは2階のロビーで待ち続ける。時間の流れが惜しくて仕方がない。
「あ、あのね
「お、おぅ…」
「その力をね、自分の都合だけで使って欲しくないんだ。たとえ、決勝に来られなくても」
急に何を言うかと思えば…。里菜にはお見通しだったらしい。確かに俺がこの力をフルに生かせば、優勝すらあるかも知れない。
「昔、私が一緒に戦った仲間達の事。もう何となく
「あ、嗚呼…ご先祖様も確かにいたな。随分うるさかったし、あの鹿児島弁が解るのなら納得だわ。ばあちゃんより凄かった」
俺達は思わず吹き出してしまった。
「戦いの後、皆で約束したの。この力は誰かが困っている時に使おう。決して己の欲だけの為には使わないって」
「そ、そっか。じゃあそれは俺も守らないとな。そもそもサッカーには、バードアイという言葉があってだな」
「うんっ」
「フィールドを空から見下ろす様な感覚を身につけるのは、実は元々当然の事なんだ。だから俺、必死に努力して、必ずモノにしてみせるよっ!」
「そっかっ! うんっ! 友紀ならきっと出来るよっ!」
この会話に搭乗時刻案内のアナウンスが割って入る。里菜は慌てて席を立つと、手荷物監査のゲートへ向かう。
「里菜!」
「友紀!」
「「またいつか必ずっ!」」
互いに別れの言葉を交わすと、彼女は手の届かない向う側へと行ってしまった。
◇
8ヶ月後、俺は天皇杯2回戦。名古屋のパロマ
本来ならアウェイでかつ、俺達大学生チームが勝つ見込みなんてありはしない。だが今年のグランパスは調子が悪い。
一方俺達は、6年ぶりの出場を果たした。
そして何よりもこの俺自身が、調子が良い。今年のチームの得点に、
「里菜ちゃんっ!? どうして!?」
「ハァハァ…お、お久しぶりです。
里菜が、来て…いる!?
「8ヶ月振りっ! 会いたかったよぉぉ!」
「友紀がJリーグのチームと試合をするんですっ! TVなんかじゃ満足出来ませんっ!」
里菜と姉貴は久しぶりの再会を祝し、
「で、でもそうなのよ…J1よ? いくらなんでも大丈夫かな?」
「大丈夫っ!
不安げな姉貴の言葉を里菜は、元気に吹き飛ばした。俺は二人を見つけると、一瞬だけ手を挙げて応えた。
試合開始のホイッスルが鳴る。俺達は運動量、ボールのキープ率、共に相手に負けてない。
加えて俺はやっぱり調子が良い。これなら試合を支配出来る。後は決めるっ! 俺は絶対に輝きを見せつけてやる。
だけど相手も流石にプロだ。前半は得点出来ずに0-0で折り返す。後半早々、中盤まで攻め込んでいた相手から、俺は右サイドでボールを
あ、いける…カウンターの道筋が見える。俺はすかさずドリブルで切り込んで、倒されながらも10番にパスを繋ぐ。
相手DFが慌てて寄せるが、ギリギリ間に合わず、先制点が決まった。
「先制っ、やったあぁぁ!」
「11番園田っ! ナイスドリブルっ!」
姉貴と里菜が目一杯にはしゃぐ声が、此処まで届く。
しかし相手も意地を見せる。直後にゴール前にボールを運ばれる危険なプレイを見せつけられる。
それから
俺はフィールドの中央付近で、相手DFのこぼれ球を拾う。左サイドに16番が飛び出しているのが見えた。
俺は間に合う事を確信して、走り込むであろう前に、鋭いパスを通す。
思惑通りだ。16番はトラップすると、中央へ切り込み、決めてくれた。追加点だ。
さらに81分。味方のゴールキックが、浮き球になった処を俺は奪い取り、自ら切り込んで、ミドルシュート。ネットに突き刺さった。
「うっしゃあぁぁぁ!!」
ガッツポーズっ! 遂に俺自身のゴールが決まった。仲間達と熱い抱擁を交わし、頭を叩かれる手荒い歓迎を受けた。
これでそのまま試合終了。終わってみれば2アシスト、1得点。3-0だ。
「そのだっ! そのだっ!」
「きゃあぁぁぁ! 友紀ぃーーっ!」
姉貴と里菜の声援に俺は両手を大きく振って、全身で応えてみせた。に、しても向こうから約束を破ってくれるとは。
「ふぅ…こんなの見せつけられちゃったら、私も黙ってらんないわ」
「んっ? 何ですか?」
「あ、いいのいいの。気にしないで」
一応SNS上では絵師『RiRu』として名が通っている姉貴。此方の夢もまだ道の途中だ。
「それより里菜ちゃん。もうこの時間じゃ、東京に帰るのは厳しいよね?」
「な、何ですかぁ……そのやらしい顔は」
里菜は姉貴に茶化されて、
俺達は3人共、道の半ばだ。また、流されそうになる事もあるかも知れない。
けれど再び思い出せばいい。
友紀(ゆき)第1章『流れ着いた先にある”もの”』 🗡🐺狼駄 @Wolf_kk
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