第12話 炎の翼を広げた天使
※
だがこの姿、とにかく目立つ。海上の
それにしても速い。時速なんて分かりはしないが、気を抜いたら振り落とされそうだ。
海に浮いてる訳でもないのに、海上には白い波の
炎に照らされた白波が、言葉では言い尽くせない程に幻想的だ。
「里菜っ! 目指す
「はいっ!」
里菜が翼をより大きく広げると、これまでのスピードが
「さて頼むぞ。まだそこにいてくれ…」
俺は里菜の翼に照らされた
里菜も手を合わせて自分の信じる神に祈っている様だ。
「いっ、いたっ! 里菜、あそこだ。見えるな?」
「うんっ!」
里菜はさらにゆっくりと慎重に近づいてゆく。風圧で吹き飛ばしては元も子もない。緊張のランデブーだ。
里菜は堤防の上に着地すると歌奈ちゃんをゆっくりと下ろす。突如、里菜の手が炎を上げる。その手を女の子にそっとあてがう。
「う、うぅ…」
「よ、良かったっ! 間に合ったっ!」
「気を失っていただけみたい。
「それは簡単なんだが…」
里菜の姿を歌奈ちゃんのお父さんに見せる。それは流石に避けたいが、どうしたものか。
「あっち」
歌奈ちゃんは、
「あと、お姉ちゃん達の事は絶対内緒ね」
「うんっ、わかった」
なんて聞き分けの良い子だろう。里菜は言われた通りの場所に、歌奈ちゃんを送り届けると、笑って手を振りお別れをした。
「さて、雨も本降りになってきたし帰りますか」
「だなっ」
俺と里菜は再び空の人になった。再び里菜の背中にしがみつく。この美しくも不思議な出来事を
そして母さん。俺、自分の星を見つけたよ。俺はこの
「ち、ちょっと待ってよ」
「えっ?」
「それを心の声にするのは流石にズルいし、男らしくないっ!」
ムッとした里菜に怒られて俺は思わず苦笑いした。
「そ、そっか。俺の心の声、聞こえていたんだっけ」
「そうよ、そして友紀も私の声を聞いていたんでしょ?」
「嗚呼…聞いてた。鈴木里菜」
「う、うんっ…」
「そう、全て君の心の中から聞かせて貰った。君は里菜でありながら、少し昔の時間から来たリイナなんだな」
「………」
「初めて会った時には、鈴木里菜の魂の意識が少しだけ残ってて、今の君は完全なリイナって訳だ。だけどそんなの関係ない。俺、君の事が大好きだ。里菜もリイナも全て。一生愛し続けると誓うよ。これは流された想いじゃない」
これだけ心を込めて告白をしたのは初めてだ。きっと今まで好きだった相手は、心底好きではなかったのであろう。
「友紀…私もまだ会って3日目だけど、貴方の事が大好きになった。この鹿児島と2018年に流れ着いたのは偶然だったけど」
「……」
「でも流れ着いた先に貴方がいた。う、嬉しかった。この平和な日本に、私と昔の仲間達が、命を
「勿論だよ、何処へだろうと必ず一緒だ」
俺達の顔が赤いのは、炎に照らされているからではない。大好きな鹿児島の海の上で、空を舞いながら互いの気持ちを伝え合う。
間違いなく生涯の思い出になるだろう。この想いを一生繋げていきたいという気持ちが一つになった。
翌朝、俺は姉貴からの
”Xのトレンド見た? これどういう事? 炎の翼を広げた天使が現れた。一緒にいる男は何者!?”
”此奴、お前の弟だよな? こればかり聞かれて仕事になんないわよっ!”
”それに貴方達…今、一体何処に泊まっているのやら? ウシシ…”
まあ、そうなるわな。どうすんだこれ?
と、思っていたのだが数時間後、その手の
この神がかった情報操作をやった人間に心当たりがあるのは、間違いなく彼女の方だろう。
けれど俺は眠り姫に追及はしない。真相は闇の中。俺達の中だけに潜んでいればいい話だ。
里菜は起床後、会社に出来る限りの事情を説明。
会社もこの手の
さらに里菜は東京に帰宅後、社会復帰の事を考えたら、せめて次の土日は、東京で迎えたいと言ってきた。
里菜と一緒にいられるのは、あと5日。勿論、応援するが
会社への連絡が終わると、俺達は墓地にいた。
里菜が母と祖父の墓参りをしたいと言い出したのだ。
彼女は墓に飾る花に、青い
日本の墓参りには似つかないが、とても彼女らしいとも思えた。
青い薔薇の花言葉は"希望"らしい。
里菜は墓の前で
「友紀のおじい様、そしてお母様。いきなりの
「り、里菜……」
里菜が俺の母さんを"母"と呼んだ。ただの言葉のアヤとは思えない。確かに昨夜、
けれども改めて自分の親に伝える姿を見ると、くるものがある。
「か、母さん。そしてじいちゃん。お、俺の方こそ彼女から貰ったんだ。今までずっと甘えててごめんっ!」
里菜には
母は信号の見間違いから道路に跳び出してしまった俺を
血まみれの母が最期に告げた言葉は、”ゴメンね”だった。
俺はその
─友紀、良かったね。里菜さん、息子をよろしくね。
「お、お母様っ!?」
「か、母さん!?」
俺達は聞こえる筈のない母さんの声を確かに聞いて目を合わせた。
その夜、俺と里菜は、仕事を終えた姉貴。そして"俺も混ぜろ!"と、勝手に現れた
孝則は、俺達の手を固く握りながら泣いた。小学校からの腐れ縁だが、此奴が泣いたのを見るのは初めてだ。
しかし集まったとはいえ酷い雨天。ドライブでこれ以上の思い出は、作れそうにない。
さてさて屋内で遊ぼうとなると、悲しくなる程、
カラオケ、ボーリング…後は飯を食いに行くしかない。映画館すら存在しない。
まずカラオケは、アニソン好きな姉貴の
ボーリング。俺と孝則、里菜と姉貴でペアを組んで、その日の晩飯をかけたのだが、なんと俺達が負けてしまった。
特に里菜がペンギンの様に歩いて投げる玉が、予想の斜め上を行く破壊力。
ボーリングの奥深さを思い知った。
そんな楽しい日々はあっという間に過ぎてゆき、遂に
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