ニンゲンがいなくなったどうぶつえん
翁甜夜
にんげんがいなくなったどうぶつえん
一昨日、クラスメイトが学校の屋上から飛び降りて死んだ___ではなく、殺された。
「家居、アイツ屋上から飛び降りたんだって。ヤバくね?ウワサ、本当だったんじゃね?」
「え、アイツ1組の担任の岡田とパパ活してってのマジだったの!?」
クラスの女子……猿共が俺の後ろの席で集まり、猿そっくりな声で俺の大親友だった家居璃久のウワサ話に花を咲かせている。人が死んだって言うのにこのクラスの人間……いや、この学校のヤツらはみんな家居のウワサをして気色悪い音で笑っている、酷く耳障り。
どこに逃げても家居のウワサをするヤツばかりで気持ち悪い。
「男同士でヤってんのキモ、生理的に無理だわ」
「そういうの肉団子組が好きなんじゃないの、いいネタで今頃ブヒブヒ図書室で言ってんじゃない?」
「うわ、してそぉ。ネットに上げてたりして」
豚共は家居の使っていた机に何かの落書きをして写真を撮る。
「エンコーくん身バレ記念っ」
「ちょっと真奈、それやばすぎぃ」
「このまま動画載せちゃったら絶対バズるよ、一気にフォロワー1万行くんじゃね?」
「炎上で1万はえぐいって」
「別にすぐ忘れるでしょ、そこ退いてどいて!動画撮るから!」
爆音で音楽が流れ、しばらくすると「投稿できた〜」と言う声が聞こえてきた。本当にコイツらの行動に腹が立つ。
このクラスにもう人間はいない、唯一人間だった家居は死んだ。アイツだけは人間だったのに、真面目で静かで大人しくていつも動物共の残した面倒事の後片付けを文句も言わずにこなす。
俺の唯一の親友がいなくなってから何もかもが退屈で暇で気持ち悪くて頭がおかしくなりそうだった。怒りのせいで気が狂いそうな毎日。
家居は凄いやつだった、すごく良い奴でずっと仲が良かったのに___コイツらに殺されたんだ。
「あんなヤツらの為に律儀だな。掃除全部する必要ないし適当にしとけよ……」
いつも教室の掃除を1人でやってていつも俺が手伝って掃除を終わらせて一緒に帰る。家が隣でコイツとは幼稚園からの付き合いだった。喧嘩は数え切れないほどしたけどちゃんと仲直りをする。
元々アイツのことを璃久って呼んでたけど中学に上がってから名前呼びが恥ずかしくなって苗字呼びにした、最初は凄く嫌がってたけど家で遊ぶ時は璃久って呼ぶって約束したら許してくれた。意外と寂しがり屋だったんだよな、アイツ。
「アイツら1回少年院に行って規律叩き込んで来て欲しいわ」
「はは。そうだね……千季はああならないでね」
「あんな猿みたいなヤツらになるわけねぇし……。自分の役割も果たせないゴミ共がさっさとくたばればいいのに」
「千季、口が悪い」
昔から俺は口が悪く、馬鹿にされるとすぐに手が出る。何かある度によく家居に怒られてた。
「真実言っただけだろ」
「真実だとしてもここではダメ」
「お堅いな、誰もいねぇしいいだろ」
「誰かが聞いてたらどうするの。聞いてたらもっと厄介になるよ」
「はいはい、俺が悪かったよ」
真面目な家居は動物共の愚痴をこぼしたり文句を言ったことがなく、いつもニコニコ笑っている。いつもいつも口元が上がっていて大きな目を細長くして作った笑みは気持ち悪かった。やめろと言ってもアイツは頑なにあの笑みをやめない。
動物共は人柄良くて成績が優秀な家居を恨んでか嘘のウワサ話を作りあげ校内に広めた、合成写真で家居がエンコーしてる画像を作ってばらまいたり家居を人がいない場所に呼び出して暴行を加えたり、酷い時は……思い出したくもない。人間としての考えを持ち合わせていないヤツらは非人道的なことばかりを繰り返す。
アイツらを退学にさせたくて先生に証拠と共に報告をしたけど先生達も動物だったみたいで意味がなかった、親に報告してやろうとしたけど家居が大学受験に響くから言わないで欲しいと懇願してきたから言えなかった。
俺がいる時だけは獰猛な動物から守りたいと思って極力家居と一緒にいたけどコースが違う俺達2人は昼休みには離れ離れになってしまう。追い払いたくても追い払えない、イライラして授業に集中できなくてよく注意を受けてた。
俺の評価よりも家居の安全を最優先して最善を尽くしていたのに___
「ねぇ、千季。先に今日は帰ってて」
「は?なんで?」
家居が飛び降りた日は一緒に帰らなかった、終わるまで待っていればよかったと後悔してる。あの時、家居の話が終わるまで待っていればよかったと母さんが「璃久くんが亡くなった」と聞いた時から何度も自分を恨んだ。
「今日、先生に呼ばれててちょっと残らなきゃいけないからさ。多分推薦とかのことだと思うから遅くなると思う」
頭がいい家居は元々推薦か何かを貰って大学に行く予定だった、高校までは偶然にも一緒の高校を選んだけど大学はそうもいかない。俺は大学に行く頭がないからそのまま就職することを考えていて初めて違う道を歩むはずだった……。
推薦の話なら仕方ないなと一緒に帰るのを諦める。
「分かった。じゃ、帰ったら連絡して」
「はいはい、分かってるよ。またね」
「ん。クズ共に声かけられても無視しろよ」
「大丈夫だよ。そんなに自分貧弱じゃないし」
「なんかあったらすぐ電話しろよ」
「はいはい、また明日ね。千季」
この会話が家居との最後の会話。
次の日の早朝、家居は学校の駐車場で死体になって発見された。
それを聞いたのは家居を迎えに行こうとした直前の事だった。
「ちとせ!! お隣の、お隣の璃久くんが……璃久くんが、ね」
「璃久が何?」
「亡くなった、って」
「は?」
持っていた荷物が床に落ちる。
「母さん、何……馬鹿なこと言ってんだよ」
「嘘、じゃない……の。家居さんが、さっき……電話でっ」
「クソみてぇな冗談言ってんじゃねえぞ」
「千季、嘘じゃないの、嘘じゃないのよ……」
泣き始めた母さんの言葉にそれ以上俺は何も言えなくなった、本当のことだと思いたくなかった。急いで家居の家に行ったら、家居の父さんと母さん、そして家居の2つ上のお兄さんが泣いていた。
「千季くん、璃久は昨日一緒に……帰らなかった? 最後にどこで別れた? なにかおかしかったことはなかった? 何も変わりなかったかしら……?」
目が真っ赤に晴れた家居のお母さんが俺に泣きながらそう尋ねる。
「推薦の話があるって……先に帰ってくれって、言われて……」
心当たりはありすぎる、きっと、きっとあのクソみたいな動物共が……動物共が璃久を殺しやがった、動物共が璃久の人生を奪い取ったんだ。
動物共のSNSには璃久を色んな方法でいたぶる動画と精神的にいたぶる動画が投稿されていた。
直ぐに俺は全部を話した、学校のことを全部全部証拠付きで家居の家族に提供した提供して学校に家居の家族と一緒に話したけど学校は虐めを完全否定。動物共の親の中に権力を持つヤツがいるらしくて家居の死は自殺として処分……公に出ることは無かった。
璃久の葬式は中学時代の友人で溢れた、中学時代のヤツらはみんな璃久と仲が良かった。高校は隣の隣街だから俺以外誰も同中がいない、だから璃久を守れるやつは俺しかいない……。
高校のヤツらはこなかった、というより俺以外に葬式の日を教えていなかった。
棺桶の中に入った璃久の顔は見えない、棺桶は固く閉じられてる。見つかった時、顔が潰れていたらしい。うつ伏せで置き石に顔を強打して見るに堪えない姿になってしまっていると璃久のお母さんから聞いた。修復は破損が激し過ぎて出ないかったって……。
お別れは棺桶越しになった、顔を見れないまま璃久は火葬され骨壷の中に収められた。
「アイツら全員処分しなきゃ……」
葬式の後、俺はすぐに家に帰った。
思い立ったら即行動の俺は小さい頃から集めていたエアガンを学校も行かずに部屋に籠って改良し始める。過去に起きたニュースを読み漁って有り金全部使って通販サイトから必要なものとその他使えそうなものを買う。
自分でやるしかない、自分がこのイカれた動物共を減らなきゃいけない……自分しかそれをできる人間が居ない。この動物共を野放しにはできない、俺が家居のかたきをとってやらなきゃ。
「作動しなかったらこっちで吹き飛ばすか……ダメなら、頭かち割ってけばいいや。どつぶつえんのクソどもどれぐらい殺せるかな」
2学期の中間テストまでには終わらせる勢いで準備をした、全員は無理だと思うけどせめて俺達の同じ教室にいる動物共は始末しなきゃダメだ。
「釘、もっと足しとくか」
作ったエアガンで息のある動物を一気に仕留めてあとはお手製の釘爆弾と手斧で各教室にいる動物共を殺す。上手くいくわけが無いけど目標は30匹。
「念には念をしておかないと」
料理好きの父が買っていた調理用ナイフを何本もバックに入れてから学校に向かう。
決行は5時間目、この時間は寝てるヤツらが多いし担任のクズが授業をするから絶好のタイミング。
「上手くいくように願っててよ、家居」
いつもと変わらないような態度で母さんと父さんに「行ってきます」という別れの挨拶をして家を出る。
学校のロッカーに自分の教室の掃除が終わった後に使う道具を入れて机の横に掃除道具をかけておいた。邪魔だとか言われたけどいつものように睨めばクズ共はビビってそれ以上言わなくなる。ビビるなら最初から言ってくるなって話。
「全匹出席してますように」
朝のHRの出席でそう願っていたら奇跡的に今日は休みがいなかった。きっと家居が俺に「狩ってくれ」とお願いしてるんだと思う。
「絶対、成功させるわ」
バレないように細心の注意を払って5時間目まで沈黙を保つ。
昼休みが終わり、5時間目が始まってから俺は動物共が寝始めるタイミングを見計らって行動に移す。
「璃久、見てなよ」
バッグからそっと改造したエアガンと手斧を取り出し、エアガンを素早く廊下側の動物共に打ち、目の前にいるヤツの頭目掛けて手斧を振り落とした。
無事にエアガンは機能してくれて窓ガラスに汚い動物の血が吹き飛ふ。
「ぎゃあああああああ!!!」
動物らしい奇声を上げて逃げ惑い始めるヤツらのを確実に撃ち殺していく。
なるべく足を狙ってじわじわと死の恐怖を味わえるように調節する、璃久はもっと痛かった……璃久はもっと苦しんだ、璃久は___。
「ごめんなさい゛ごめんなさいごめんなさいっ!!助けてください、お願いしまず……おねがいしますっ!」
「動物が人間の言葉喋んなよ気持ち悪い」
助けてくれと人間の言葉で喋る動物の頭を撃ち黙らせる。もっともっといたぶりたいけど時間が無いから手短に。ナイフで深く刺して引き抜いてたあとは放置、そしたら勝手に死ぬ。
ゴミ処理は意外と上手くいった、廊下側から処分したおかげで誰1人取り逃がすことは無かった。担任も教団の上でアヘってる、ざまぁみろ。
「あとは適当に処分だな」
ロッカーに置いてあるバッグからお手製の針爆弾を取り出して校内を走る。逃げてるヤツらのところに火をつけて思いっきり投げてから身を隠すと数秒後には大きな音を立てて派手に爆発した。当たり一体に釘が飛び散っていて酷いことになっててとてもいい。
追っかけては投げ、追っかけては投げを繰り返し、さすまたを持った大人の動物が現れたらエアガンで撃ち殺した。爆弾がなくなったらナイフを投げたり手斧で頭をかち割ってやる。
「璃久、かなり処分できたけど……どうかな」
息を切らしながら割と静かになった校舎でそう呟く。地獄絵図と化した廊下を俺は動画を取りながら移動する。もうここの校内には誰もいない。
階段を上がって6階の屋上に出る、外は曇っていて若干風が吹いている。
さっき撮った廊下の様子と密かに録画しておいた俺の教室の掃除動画をやっているSNS全てに投稿した。
「これで少しは静かになったしいい感じになったでしょ、璃久」
エアガンを改造して作った銃を地面に無造作に置き、家居が立っていたであろう足場に立つ。
屋上の足場に猿共が置いた家居の使っていた教科書が無造作に落ちている。きっとアイツらが家居から盗んで置いたやつだ。本当にどこまでもクズなヤツらだ、イカれてる。
「本当はここにいる動物全部撃ち殺してやりたかったど流石に数が多かったわ。ごめん……でも俺達と同じクラスにいた動物は殺せたと思うぞ、ネットに動画をあげやがった猿には同じように動画を撮って晒してやった」
スマホの通知が異常なほど鳴っている、きっとあの猿よりも何倍ものフォロワーがついてると思う。たくさんの人に見てもらって良かったなと鼻で笑った。
「じゃ、今からそっちに行くから」
やることはやった、このイカれたクソみたいなどうぶつえんをこの手でぶち壊せたから俺のやるべき事はもうない。
「璃久に殴られそうだなぁ、ま。そんときは死んでるし痛くねっか」
璃久とまた馬鹿をやれるならなんでもいい、またいつもと同じようにふざけて過ごしたい……。
「そっちに行くから待ってろよ」
足を1歩出し、体を宙に投げ出す。落下する感覚を数秒体感した後、俺の体は地面へと叩きつけられる___
璃久とまた、会えますように。
ニンゲンがいなくなったどうぶつえん 翁甜夜 @Okitee
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます