⑦
こんな「島」なら、死んでもいい――。
その考えが、誠の思考を満たしていく。
燃えるような赤い太陽が、墨汁のような海の果てに沈む。
すべては立体感を失って
既に、手帳のページは暗がりに紛れ読めない。
しかし、まだ死ぬわけには行かない。
まだ、澪の心を開く
震える腕をゆっくりと持ち上げ、文章の続きを書こうとする。
その瞬間――ぽとり、と鉛筆が手から零れ落ちる。
――ああ、もう、駄目なのか。
視界が霞み、南十字星の光が薄れる。波の音がいつのまにか消え、辺りは完璧な静寂の世界になっていた。
夜空の
――俺は、駄目な男であった。
手帳が手元から滑り落ちる感触。
身体の感覚がみるみるうちに失われ、誠は夜の中に浮かんでいるような錯覚を覚えていた。
――軍人としての務めも果たせず、さりとて守るべき情も
今の俺は、誰からも欲されないのだ。なんと哀れで惨めな存在であろうか。
もし彼女が俺を見れば、失望するだろうか。あるいは怒りに何も言えなくなるであろうか。
身体を包んでいた熱気は消え失せ、手足の先からは、常夏の島とは思えない寒気が這い寄るように上ってきていた。
寒い――。
ちかちかと瞬く星が、たちまち無数の雪へと変わる。
空から降り注ぐ
ここは、どこだっけ――、
辺りを見回そうとしたとき、後ろから声がかかる。
「誠くん、何しとるの。
振り返ると、少女が立っていた。
手に息を吐きかけ、寒そうにしている。
その瞬間、誠は思い出していた。
「ごめん、京子。俺、お
俺、本当は……」
「わかってるよぉ、誠くん。
京子が微笑む。
俺は、京子の手を取る。京子が、そっと俺の手を握り返す。
無音の町に、ふたりの足音だけが、響いていく。
**
神殿の中は、外から射し込む松明の光にぼんやりと輪郭を浮かべていた。
内部は静寂の底に沈んでいる。先ほどまでここで大声を上げていた観光客も、島民たちも、既にどこかへと姿を消していた。
神殿の最奥部の壁には、人骨が架けられている。人骨の手前に
ざり、という足音が、暗闇に響く。神殿の入り口をくぐる何者かの影が、石畳の上に投げかけられる。
彼女は、震える手で黒革の手帳を取り上げ、ページをめくる。よほど滑稽な内容だったのか、くすりという笑いが、彼女の口から洩れた。
やがて、人骨のもとへと着いた彼女は――ゆっくりと、人骨へ手を伸ばし――その亡骸の、右手を――その両手で、やわらかにつつみこんだ。
そして、ちいさな、ちいさな声で――ぽつりと一言だけ、呟いた。
〈了〉
ドキッ★ときめきトロピカル淫習アイランド ~ひと夏の南国生活と恋の行方~ デストロ @death_troll_don
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