第18話
この駐屯地を少し進めば魔属領とモスケルフェルト領を仕切る為、国境線に沿う形で250km程の長さである壁が建設されている。
この壁の高さは10M程あり、地上から国境線を越える事は不可能となっている。
また、壁を越え上空より潜入を試みれば、互いが持つ探知技術により探知され、地上に構える滞空攻撃により撃墜される為余程の実力者以外はこの国境線を越える事が出来ない。
「皆の者、国王の命を受け私がこの部隊の指揮を執る事になった。宜しく頼もうぞ」
駐屯地にある、兵士達が集まる建物の中に入ったブラッツ王子が中に居る兵士達に挨拶をした。
「いきなりなんだ、テメェは!」
血の気が盛んなモスケルフェルト兵の1人が、突然来訪し、自分達の指揮権を握ると言う無礼者に対し声を荒げながら言った。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい、見た感じ悪い人には見えませんよ」
と、セントラルジュ兵の1人が彼をなだめるかの様に言った。
「データベースより来訪者のデータを分析……。照合結果、モスケルフェルト国王子、ブラッツ殿下と判明」
マシンテーレのアンドロイド兵が、ブラッツ王子を識別し結果を皆に告げた。
「お、おう、なんだ、王子様か、それならそうと言ってくれ」
この来訪者が自国の王子様と分かった血の気が盛んな兵が、自分の非礼を認めたくない素振りを見せながら2,3歩後退りをした。
万が一にも斬られる可能性を考慮したのだろう。
「それは失礼」
「い、い、いや、ブラッツ様! 悪いのは我々で御座います! 申し訳ありません!」
マギーガドル兵の1人が血の気盛んな兵を遮りブラッツ王子の前に出た後、ブラッツ王子に向け許しを請う様に土下座をする。
彼の行動が部下を守る行動に似ていた所から、恐らくこのチームのリーダーなのだろう。
ブラッツ王子はこの場で断罪する気配が無いが、国に戻ってから断罪の為部下を動かす可能性を考えれば、その芽を摘む為土下座までし許しを請おうとする行為は正しいだろう。
「いや、顔をあげるのだ。先の無礼に対し、私は気にしておらぬ」
「ははっ! 寛大な対応に感謝致します」
ブラッツ王子に言われた通り、マギーガドル兵の1人が顔を上げた。
「まぁ、よい。先も述べた通り、国王の命によりこのブラッツがお主等を束ねる指揮官になる事となった。宜しく頼もうぞ」
凡そ20名程の兵を前にブラッツ王子が挨拶をすると、彼等はそれに応えるかのように盛り上がった挨拶を返した。
「先陣は私が切る」
本来指揮官とは後方より部隊に戦況に応じた指揮を下す立場だであり、自らが最前線に立つと言う事は異端な行為である。しかしながら、今ブラッツ王子の目の前にいる兵達は、ブラッツ王子の言葉に対し勇敢な指揮官であると判断し、称え上げるかのように賛美の声を上げ始めた。ブラッツ王子が計算した上で自らが先陣を切ると言ったかまでは分からないが、今から共に戦う部下達の士気を上げる事に成功した。
ブラッツ王子の挨拶を終えた、ブラッツ小隊は今いる部屋の外に出て、駐屯地の外で業務を行っていた仲間との合流をした。
合流した仲間と合わせ、ブラッツ小隊にはモスケルフェルト兵15名、マシンテーレ、アンドロイド兵10名、マギーガドル兵10名、セントラルジュ兵5名の系40名の兵が集まった。
「打倒魔族を元に、いざ参ろうぞ!」
ブラッツ王子が小隊員に向け号令を掛け、
「「「おおーーー!」」」
小隊員達が掛け声を上げた。
掛け声が収まると、セントラルジュ兵がブラッツ王子を含めた小隊員に、筋力上昇、機動力上昇、防御力上昇の補助魔法を掛けた。
セントラルジュ兵より補助魔法を受けたブラッツ王子は部隊の先陣を切り、国境線の壁へ向け駐屯所を発った。
「私が先に行く。お主等はモスケルト領側の国境線手前に待機してくれ」
ブラッツ王子は、錬気を腕部に集中させ国境線を隔てる壁に対し片手剣による連撃を放った。
ブラッツ王子の連撃は、大人3人程が潜り抜けられる広さの壁を崩し国境線を隔て魔属領へ向かえるトンネルを作り出した。
続いてブラッツ王子は腕部に集中させた錬気を脚部に集中させ、魔族領へ突入した。
ブラッツ王子が魔属領へ突入した事は国境線付近に展開されている探知魔法により、即座に魔王城へ伝達された。
伝達を受けた魔王城に常駐する担当司令官は、ブラッツ王子が不法侵入者と判断し、ブラッツ王子の殺害命令を下す。
その命令を受けた、国境線を越えた人間を迎撃する部隊は少数存在する対地上用国境線迎撃部隊をブラッツ王子に向け派遣。
滞空迎撃部隊も、本来の用途からずれてしまうが地上を駆けるブラッツ王子を遠距離より迎撃する為の手はずを整えた。
ブラッツ王子が魔属領へ突入し30秒後、地上より滞空迎撃部隊がブラッツ王子に向け放った多数の魔法がブラッツ王子を襲う。
炎、氷、風、地、それぞれの属性を帯びた魔法ブラッツ王子の正面から襲い掛かる。
だがしかしブラッツ王子は大地を揺らす地属性魔法を強く跳躍する事で回避。
続け様に飛び交う炎と氷属性魔法は空中で身体を捻り魔法の射線から逸れる事により鮮やかに回避。
風魔法に至っては、音速の如し駆け抜けるブラッツ王子の前に脆くも打ち崩されてしまった。
ブラッツ王子が見せるあまりにも高い機動力の前に、滞空迎撃部隊が地上に向け放った数多くの魔法は虚しく宙を舞うだけだった。
熱血ブレイバーフィルリーク~今度の世界は魔族の救世主らしい~ うさぎ蕎麦 @nijimamuru
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