異道具屋物語【祭編】


【前置き】

皆さんこんばんは。幸です。

異道具屋物語も三作目···段々秘密が分かって来たかと思ったのですが···謎が多すぎます···

しんみりしてしまいましたね。気を取り直して三作目始まります。


第壱章【経過報告】

触手の件から三日間経ち、少しずつ仕事にも慣れてきた。相変わらず謎しかないこの店だが少し分かった事が有る。

・異道具にはそれぞれに危険度に有り、扱い方が有る事。

・零香さんの部屋の扉はどうやっても開かない事。

・猫達に不意に触ると命が危ない事。(殺られるかと思った。)

・異道具屋の周りはずっと黄昏時を維持して居る事。

それくらいである。真相には余り近付けて居ないようだ···

幸 「それにしても昼夜感覚が狂うなぁ···」


第弐章【お祭り】

 翌日、零香さんに急に呼び出された。

零香「おや、来ましたね。おはようございます。」

幸 「おはようございます。何か御用ですか?」

零香「貴方も少しずつ慣れて来たみたいなので簡単な調査をして頂きたいと思いまして。」

異道具屋に来てから初めての調査だ。ただ、キャッツならまだしも僕は一般人。体力には全く自信がない。心底心配になって来た···

零香「おや、心配ですか?」

幸 「顔に出てましたか?」

零香「ええ。ならばキャッツを一人つけましょう。誰がいいですか?」

キャッツがついて来てくれるなら安心だ。さて、誰にしようか···


第参章【会場】

さて、零香さんが用意してくれた鳥居で祭り会場に到着した。自分は···

ユレ「お祭り···楽しみ···」

ユレイを選んだ。ここら辺提灯にはまっているらしい。それにしても浴衣姿がよく似合う···いやいや、見惚れている場合ではない。今回の目的はあくまで調査だ。しかし····見れば見るほど···

幸 「可愛い···あっ」

うっかり口を滑らしてしまった。ふざけていると思われているのではないか···ユレイの顔を恐る恐る覗き込むと

ユレ「あ···ありがと···」

頬を赤らめて団扇で顔を隠していた。それもまた可愛い···いやいや調査に集中しなくては。まずは受付をして中に入ろう。

受付「いらっしゃいませ。お面をお着けになりお楽しみ下さい。」

お面なんて持っていない。色々と探すとズボンのポケットに何か入っていた。厚紙のようだ。

幸 「これなんだろ?」

受付「おや、職員の方でしたか。ではお楽しみ下さい。」

厚紙には職員証と書いてある。


第与章【再会】

祭会場の鳥居を潜った瞬間正直驚いた。色とりどりの提灯、櫓から響いてくる祭囃子。とても懐かしく何処か寂しい感じのする音の響きである。

皆お面を着けて居るが正体がバレバレである。ある人は狸、ある人は影、ある人は鬼。

幸 「あれ?あそこに居るのって···」

脚山「んあ?おぉ、幸じゃねぇか。久しぶりだなあ。」

幸 「やっぱり脚山さんでしたか。」

鬼の脚山さん。異道具屋に素材を売っている人である。体格がガッシリしているので浴衣がよく似合う。何時もどこに帰るのか不思議でならないが、今は良いだろう。

脚山さんの後ろにもう一人居るが一体誰だろうか。黄色い尻尾、尖った獣耳、大体想像は着いている。

幸 「あの、後ろの人って···」

脚山「ああ、紹介が遅れたなぁ。こいつは御狐様だ。」

幸 「御狐様!?偉い人じゃないですか!」

御狐「そんなに緊張しないでよ。こっちまで緊張してきちゃうじゃん。」

ユレ「幸···この人も···異道具···」

まさかこんな美人までもが異道具だとは思わなかった。てっきり知り合いかと思ったがまさか異道具だったとは···

二人とは軽く話した後別れ、奥の方に進んで行く。


第伍章【櫓】

櫓の下まで来た。近付くにつれて音が寂しげに、心に染み込むかの様に変わっていった。提灯も段々と蒼色に近付いた。

ユレ「幸···大丈夫?」

幸 「え?」

ユレ「涙····出てる···」

幸 「本当だ···」

止めようと思ってもずっと零れ落ちてくる。何か大切な物を壊された時の様に、大好きだった人が離れて行ってしまった時の様に。

楽しい事を考えようとしても無駄なようで寂しい、悲しいという感情だけが溢れて来てしまう。

幸 「え···止まらない···何で····」

(ギュッ)

不意にユレイに抱きしめられた。

ユレ「大丈夫····私が居る···」

幸 「ありがとう···ございます···」

ユレ「落ち着いて···深呼吸···」

何時もはとても冷たいユレイの身体がとても暖かく感じれた。向日葵の様な香り、とても安心出来る。何時の間にか涙も乾いていた。

ユレ「落ち着いた···?」

幸 「はい。もう大丈夫です。ありがとうございます。」

ユレ「良かった···」

(ギュッ)

幸 「何故手を···」

ユレ「これで···寂しくならない···」

ユレイの手を強く握り、自分は櫓に一歩踏み込んで行った。


第陸章【内部】

櫓の中に入ると一層寂しい気持ちが強くなっていった。纏わり付くように、引き摺り込むように。それでも涙を拭い、足に力を入れ、上に上に登って行った。頂上に着くと音がピタリと止んだ。

紐に囲まれた所に誰かいる。顔の前に黒い布をしている。

??「誰?」

幸 「自分は幸です。」

??「そう。私は···私は···誰でも無い。」

誰でも無い。そういった人からはとても悲しい感じがした。自分とは違うとても強い悲しみ。全て包み込んでしまう様な。

幸 「何故貴方はここに居るのですか?」

??「私は囚われているのです··これ、外してくれます?」

幸 「良いですよ。」

ユレ「幸···駄目···」

(ビリッ)

幸「え···」

そこには見慣れた零香さんの顔が有った。光が無く、何処までも深い瞳をしている。何故、此処に居るのか。さっきまで異道具屋に居たはずなのに。

??「解いてくれてアリガトウ···」

その瞬間黒いドロドロが足元から溢れ出した。同時にユレイが櫓から飛び降りた。


第漆章【呪情】

ユレイのお陰で何とか櫓から脱出出来たが、黒いドロドロは櫓から溢れ出しそうになっている。自分たちに気付いたらしく脚山さんと御狐様が駆け寄ってきた。

脚山「おい、一体全体何が有った!」

幸「櫓に···囚われた人が····居たから···布を取っただけなんです···」

御狐「まさかあの布を本当にとったんですか!?」

ユレ「幸悪くない···私の監督行き不届き···」

脚山さんと御狐様の慌てようから大変な事態になっている事を把握するのは容易だった。

脚山さんによるとあの黒い人は『呪情』と言う零香さんの黒い感情の塊らしい。

ずっと昔、脚山さんと出会うもっと昔の話で詳しくは話せないが一部だけ話してくれた。

脚山「あいつの一族の事なんだが、俺が出会ったときには集落にあいつ一人しか居なかった。何故かは分からなかったが、倒壊したり燃え尽きたりした家屋が沢山有ったんだ。」

幸 「一体何が···」

御狐「皆大変だよ!ドロドロがそこまで来てる!」

ユレ「幸···逃げよう···」

これ以上は危険らしいので皆で鳥居の外に出ようとした···しかし、ドロドロは鳥居を飲み込まんとする勢いで柱を伝っている。そのうち鳥居は飲み込まれ使い物にならなくなってしまった。

幸 「逃げ道が無くなった···」

ユレ「万事休す···」

脚山「おい幸。お前、手先は器用か?」

幸 「人並みには。」

脚山「よし。十分だけ時間稼ぐから作ってくれ。即席鳥居の作り方はそこにかいてある。」

幸 「わかりました!頑張ってみます!」

3m木材4本に沢山の釘。そして赤い塗料。急いで作らないと飲み込まれてしまう。

脚山「さてと、やるかね。」

ユレ「絶対···止める···」

御狐「微力ながらお手伝いします。」


第撥章【救い】

どう組み立てても見本通りにならずに時間だけが過ぎて行きヤキモキしていると、

??「このパーツはこの上に。」

誰かがアドバイスをくれている。しかし上を見ている暇はない。

??「そのパーツは真ん中にはめ込んで。」

原型が出来た。全体的に塗料を塗り立てる。

??「この御札を貼ってと。」

幸 「出来た!ありがとうございます。あっ!」

零香「鳥居が繋がらないと思ったら予想通りでした。後は何とかします。早く避難を。」

自分達は鳥居に飛び込んだ。零香さんはそのまま残っている。

零香「さてと、呪情、久しぶりですね。」

呪情「本当ニナ···」

零香「貴方が居るからこそこの空間は成り立つんですよ。」

呪情「シルカ!ズット暗闇ニ幽閉サレテイタンダゾ!」

零香「その件については謝罪致します。」

呪情「アイツラハ!アイツラハドウナッタ!アノ忌々シイ面ヲ引キ裂イテヤル!」

零香「あの一族でしたら滅亡しましたよ。」

呪情「本当カ?」

零香「ええ。ずっと前に。」

呪情「ソウカ···私ノウラミハオマエガ晴ラシテくれタノダナ···」

零香「どうか治まって下さい。」

呪情「アァ···ソウスル···」

黒いドロドロが少しずつ無くなって行く。最終的には櫓に呪情だけが残った。


第玖章【復興】

『此ノ地ニ居ラレル荒御魂帰リヨ帰リヨト願イ賜ウ悠久ヲ生キシ我ガ御霊治マリ賜ヘト願イ乞ウ』

呪情を櫓の頂上に治めると祭り会場は段々と元通りになっていった。

櫓には光が戻り、寂し気な音は聞こえなくなっていた。

今自分はユレイともう一度祭を楽しんでいる。

ユレ「次は···たこ焼き···」

幸 「ちょっと待って下さいよ。」

ユレ「その次が射的···綿飴に···お化け屋敷···」

幸 「そんなに行くんですか!?」

ユレ「全制覇···目指す···」

幸 「体力が···」

ユレ「待てない···早く···」

幸 「引っ張らないで下さいよ〜」

ユレイは何時も以上にワクワクしながら凄いスピードで掛けてゆく。自分は着いていくだけで精一杯だ。

零香さんに呪情の事を聞いても何も答えて貰え無かった。多分だが、過去に何か壮絶な悲劇があったようだ。


あの人は···何を失ったのか···


何故呪情は産まれてしまったのか···


まだまだわからない事だらけである···


唯一つ分かる事は、


呪情を治めた時の零香さんの顔を自分は忘れないという事だけだろう···















異道具屋物語第三作如何でしたか?


少々短くなって仕舞いました。


物語はまだ有りますが今回はここまで。


ではまた次回お会いしましょう。

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