第5話

 どの位の歳月が流れただろうか。


 空の炎が消えた。


 青空が広がり大地には緑が広がっていた。

 ジャングルの中に銀色の建物があった。

 それは未来人が乗って来た大型のタイムマシンだった。

 彼らは十人程で暮らしていた。

「千年前の地球がこんなに空気が澄んでいるとはな。俺達の時代では考えられない事だ」

 建物のすぐそばで痩せた男が軽く体操をしながら呟いた。

「厳密には私達の時間軸とは違う千年前の地球だけどね。レーザー衛星が壊れて人間も恐竜も誕生していない世界に私達はいる。思っていたより静かすぎて怖いわ」

 痩せた女が言うと男は笑った。

「いいじゃないか。誰もいなくて気兼ねせずに済む。俺達はアダムとイブになるつもりはない。この世界で生きて死んでいくだけだ。あんな汚れきった世界で病んで死ぬよりマシだからな」

「でもタイムマシンで他の人が次々と来たらまた同じ歴史を繰り返すわ」

「それなら大丈夫だ。ここへ来る前にセンターのコンピュータをいじって行先の座標を変えておいた。もうこの世界には誰も来ない。そして俺達はもう戻れない」

 男は笑って答えた。

「それなら安心ね。夕食にしましょう。他の人達も待っているし」

 痩せた男と女は楽しく話しながらタイムマシンに入ってドアを閉めた。

 彼らが言う通り未来からは誰も来なかった。

 そして彼らは年を取って死んでいった。

 

 一方、海底では大きな魚が泳いでいた。成長したディットだ。

「もうどれだけ生きた事か。空の色が変わってから見慣れない連中が増えたな」

 弱い口調で独り言を呟いているとエルンが近づいて来た。

「よお、久しぶり。お互いに長生きしているな」

「ああ、穏やかな気分で生きているよ」

 ディットは目を細めてエルンに答えた。

「子供達が上で俺達と似たような声を聞いたんだとよ。言葉は違っていたがな。でも途絶えたらしい」

「へえ、俺には聞こえないがどんな奴がいるかちょっとばかり興味があるな」

 ディットは口をゆっくりパクパクさせながら言った。

「俺は別に興味ないが子供達が上に行きたいとうるさくてな。行けるように願ったらいつか行けると言ってやっているよ」

「お前は相変わらず適当だな」

 ディットは口元を緩めた。


 ディットとエルンが死んで更に歳月が流れ、進化したエルンの子供達が四つ足で陸上に上がって海岸で暮らし始めた。

 短い四つ足で歩くその生き物はどのように進化していくのかわからない。

 澄んだ青空の下で波の音だけが響いていた。

 その海岸の向こう側に広がる森の奥には、かつて未来人が住んでいた銀色のタイムマシンが植物に覆われて建っていた。

(了)

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燃える星のディット 久徒をん @kutowon

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