虹の皇太子
「精霊術士アンネ! 皇太子殿下の命により参上!」
キースの元へやって来たのは謹慎していたアンネだった。
緊急事態のため、急遽謹慎を解かれたらしい。
「激しい雨だから止ませるために昨日言われた通り火の精霊を雨雲にぶつけてみたわ」
強い熱風を雨雲に送り込んで雨脚を鈍らせたようだ。
やがて雨脚は鈍り、川の水位も下がっていった。
被害の発生は防がれた。
皇太子殿下の部隊も到着し救援活動が行われ、民衆を助けた。
このことは皇太子殿下の名声を高めた。
被害が小さかったこともあり、一通りの救援が終わると帝都に向かって帰還することになった。
だがそのまま北上すれば最短距離で帰れるのだが、キースの進言で、東回りで帰投することになった。
「何をする気なの」
ヴィクトリアが尋ねてきた。
「まあ、見ていてください」
やがて昼過ぎになり皇太子殿下たちは帝都から見える位置まで進み東側から入場しようとした。
「アンネさん、後ろに小さい雨雲を作ってください」
「いいわよ」
キースの言葉にアンネは雨の精霊を呼び出し小さな雨雲作り出した。
しばらくして帝都の方から歓声が上がった。
自分たちを指さしている様に見えたが、さらに後ろを指しているようだった。
気になって振り向いて見ると、こんな見事な虹が掛かっていた。
「予定通り」
キースは、うまくいってニヤリと笑った。
虹は、条件を満たさなければ出現しない。
逆に条件を満たせば人為的に出現させることもできる。
観客の背後に光源、太陽があり、虹を見せたい方角に水滴を浮遊させる。
その状態で光源、水滴、観客をそれぞれ結ぶ直線が作る角度が40~42度となれば、虹が出現する。
キースは虹を背景に帰還することを狙って東から帰還することにしたのだ。
「虹を背に帰ってくるなんて話題性は十分でしょう」
キースは誇ること無く淡々と答えた。
実際話題性は充分だった。
浸水の被害に急遽駆け付けたことも喜ばれたが、虹の中から帰還したことが話題性としては充分だった。
その夜開かれた宴会では、この話題でもちきりとなり皇太子殿下の人気はさらに高まった。
「ありがとうおかげでアルフレッドの人気はさらに高まったわ」
ヴィクトリアは、終始ご機嫌だった。
「私を先に現場に向かわせたのは、対処を間違えていた場合殿下に責任が及ばないようにするためですね」
「そのとおりよ」
悪びれるともなくビクトリアを認めた。
「今アルフレッドの人気を下げるような事なんて出来ないもの」
「結局私は使い捨ての駒ということですか」
「はじめはそう思っていたわ。間違った指示を出すようだったら使い捨てにすればいい。けど、あなたが的確な指示を下してから考え方が変わったわ」
ヴィクトリアは顔を近づけてキースに言った。
「あなたは、アルフレッドいえ帝国に無くてはならない存在よ。これからもよろしく頼むわ」
満面の笑みをヴィクトリアは浮かべた。
しかし、キースは嫌な顔をした。
勝手に引き抜き、使い捨ての駒扱いしたくせに、ここにきて必要というのだ。
自分勝手過ぎて、キースは嫌な顔をするのも当然だった。
「やっぱり起こっている?」
「当然です」
キースの機嫌をどう直そうか、ヴィクトリアは悩むことになる。
ナーロッパ帝国の侍従長 虹の皇太子編 葉山 宗次郎 @hayamasoujirou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます