婚約者を溺愛したい王子殿下達は全力で婚約破棄を免れたい!

豆ははこ

第1話

「何という事だ。あの者の前で、この僕が愛する婚約者を否定するなどと……」

「俺もです、殿下。あいつが居やがると、何故か愛しい我が婚約者を否定してしまうのです。彼女が虐めを働くなど有り得ないのに!……こんちくしょう!」

「私もです。賢く美しい婚約者を否定してしまう……あの女のせいに決まってるのに。確かに、暴言を、私が言った事とされて、あちらのお家から婚約破棄されてしまったらどうしよう……。ぐわあ!」

 最後の一言。魔法局局長令息の言葉に空気が凍る。


 ……婚約破棄。恐ろしい。

 僕こと第二王子(王太子は年が離れた兄上。仲良し)の婚約者は素晴らしい女性だ。他国の王族から僕が破棄されたら(間違いではない。誰も僕から、とは思っていない。僕自身もだ)即座に教えてほしいし予約させろという申し込みが幾つもあるのだ。ヤバいマズい。

 そして、騎士団団長令息と魔法局局長令息。彼らもまた僕と似た様な状況と立場だ。あ、僕達三人は仲良し。婚約者のご令嬢達もね。え、僕達とご令嬢達? 仲良しだよ、だと思いたいよ!


 ……それなのに、ある人物の前だと思ってもいない事、婚約者を否定、事実無根な彼女達が行ったという虐めや差別行為をあたかも事実の如く肯定してしまう。あまりにも酷いので自主的に婚約者達から離れる可哀想な僕達。

 ある程度自由な学生の期間に、高位令息として、良識の範囲内で婚約者達を愛でたいのに!


 何故、何故なんだ?


 そう、僕達はそんな悩みを共有する仲良し三人組。皆、国内の貴族学校に通っている。平民の学生はめちゃくちゃ何かに秀でているか、物凄い商家の子息子女とか。


 僕こと第二王子、騎士団団長令息、魔法局局長令息は一応、通学中の学生達の中では一番の高位令息達である……筈。


 はああ……。こんな時こそ婚約者とお茶会でもしたいなあ……。癒されたいなあ……と、ため息まで仲良しな僕達三人は突如現れた聖魔力の気配に別の意味でため息をつく。


 ……来やがったよ、また。

 ここは男子学生の茶会用の部屋だぞ? 警備員は何してる……って、男だったな。魅了魔法でも喰らったか? ダメ元で、女性を配置してもらうか?

 あ、言葉遣いが所々柄が悪く、不適切なのは申し訳ない。


 政争、侵入等。万が一の時の為に高位令息が習う項目の一つ、

『下町のちょっとだけ? 乱暴な青年の言葉遣い』が出てしまう程に僕達は皆、疲れているのだ。


「第二王子殿下ぁ、騎士団団長令息様ぁ、魔法局局長令息様ぁ!」

 ……疲れの原因、ある人物がやってきた。


 天然の色なら不思議な色彩の髪の色。可愛らしいと言うよりあざとい上目遣い。

 何でいちいち間延びしたぁ、が付くのだ。

 しかも、何だかふわふわ跳ねているし。学内で跳ねるなよ。

 

 でも、「僕達の婚約者嬢達の理想的な所作を見習え」とか僕達が言おうものなら、大方、

「僕達の婚約者は堅苦しくてね、君の生き生きとした様子は輝いているよ!」とかになるのだろう。ああ、嫌だ!


 二人も僕と同様のしかめ面。同じ事を考えていたのかな。やっぱり僕達は気が合うね。


 ……なのに、こいつときたら。

「聞いてくださぁい! 今日はあの三人のご令嬢があたしだけ勉強会に誘って下さらないのですよ! 酷くないですかぁ? 皆様の婚約者だからって偉そうなんですよぉ! あたしが希な聖魔力保持者だからって! 意地悪なんですぅ! 平民差別ですかねぇ? やっぱり、虐めなんですよ、酷い!」

 聞こえましたか? 安定の、清らかな僕達の婚約者令嬢方をおとしめる発言!


 ……酷くない! 僕の婚約者が主催した勉強会の主題は王家が依頼した古文書の解読なのだ。近年、地方の洞穴で発見された古文書で、学生の若い頭脳での解釈を求む内容らしいのだって。

 参加者は僕の婚約者のご令嬢の他は彼ら二人の婚約者嬢達、平民ながら優秀な学生(ほら、差別されてないよ? 区別だ、されてるのは!)、優秀な留学生、文書学の大家の血族の学生(勿論優秀!)達。皆は討論や推敲や諸々を真剣に行っている事だろう。

 僕でさえ資格に達せず、誘ってはもらえないのだ。だから同じく資格に満たない仲良し三人でぐだぐだしたかったのに。


 こいつ、僕の婚約者以下全てのご令嬢が美しく賢い女性達だからって、自分も仲間入りすべきだと思い込んでないか? 意地悪ってなんだよ?

 因みに参加資格は古語を三言語以上正しく理解していると古典学の教師(本職は王宮の古典学主査。偉い)に認められる事。

 僕は恥ずかしながらまだ一言語、魔法局局長令息は二言語しか習得していない。

 騎士団団長令息は……訊かないであげてほしい。


『知るか、勉強してから出直せ!』

 ああ、言ってやりたい。なのに、これが。

「何という事だ! 聖魔法に目覚めたばかりの君にあまりな仕打ち!」

 となってしまうのだ。何故。

『あんたが馬鹿だからじゃねえの。』

「君はこんなに賢いのに!」

『分不相応ってやつですね』

「君にこそふさわしい会なのに!」

 三人まとめてなんじゃこりゃ、となる。


 ……おかしい。

 僕達は呪いを防ぐ魔道具をお揃いで備えているのに。逆方向に正直になってしまうのだ。因みに魔道具はそれぞれの婚約者の髪の色のペンダントだ。キモい? いや、さすがに髪の毛は入れていないぞ?

 ところで、こいつが発しているのは呪いではないのか?

 ……だとしたら、そうだ、婚約破棄。嫌だ!

 と、三人でムキィ、としていたら。


「いやああぁ、王子殿下ぁ、皆様ぁ!」

 あ、良かった、声が遠ざかっていく。警備員があいつを連れて行ったのか。有難い……いや、出来るならもっと早く回収してくれ。


「……対策を練りましょう。……父に相談いたしました」

 数日後。学校はサボって作戦会議。

 ここは魔法局局長のタウンハウス。

 本宅ではなくタウンハウスだとは言え、魔法局局長の家だけあってさすがに魔力に対する結界とか色々だし、あいつは授業をサボれない筈。

 何しろ、あいつは数少ない平民の特別枠、しかも成績は足りなすぎなのに聖魔力保持者という超特別枠入学者。聖魔法の講義がびっちり詰まった日を選んで僕達はサボったのだ。計画的サボり。

 先生方、事情を説明出来る時が来たらちゃんと詫びます。……来て欲しいな、そんな日。


 おっといけない、貴重な時間。

「魔法局局長殿に? ありがたいが、大丈夫だったのか?」

「通常ならばこれ位の火の粉は自分達でと言いたいが特殊なケースだから、と力を貸してもらえました。どうやら、『ヒロイン症候群』というものらしいです。王配殿下、父、そして騎士団団長閣下も学生時代に同じ目にあわれ、ご婚約者様方と協力され、解決なされたそうです。当時、今のあいつと同様に聖魔力に目覚めた平民の子女が貴族学校に特例で入学、その聖魔力を全て自分の為……ぶっちゃけますと高位貴族か同様の異性を侍らす為だけに邁進したという恐ろしいものです」

「じゃあ、あいつは目覚めた聖魔力を全て使って、僕達を自分のものにしようとしているのか?」

「その通りです。因みに前回の聖魔力保持者は捕縛後、国一の厳しい修道院に預けようとした所、『ふざけんな修道院は真面目に道を修める者の為の場じゃあボケ! 不要人材の保管庫扱いすんじゃねえ!』とマジギレした大修道長殿のご判断で聖魔力を全て魔力として魔道具に絞られた後に市井に放逐されたとの事でした」

 確かに。

 聖魔力保持者が全て聖女様を敬い、民のために動く事をよしとする存在である……というのは聖魔力を持たない者達の願望かも知れない。……だけどねえ、やっぱり、清廉な存在である事を期待しちゃうよね?


「勿論多くの聖魔力保持者殿達は清廉な方々ですよ。あれが例外なのです。……まあ、父達のご婚約者様方もまた、私達の婚約者、ご婚約者達の様に皆様優秀であられたので、何とかなったそうです」

「何とかし過ぎて母上が即位されたからね! お祖父様とお祖母様は実子の王太子父上より婚約者母上を取られたから!」

 ……そう、現在の我が国は母上、女王陛下が治めておられて、平和も平和。

 因みに魔法局局長は局長令息の父君だが副局長は母君、騎士団副団長は団長令息の母君だ。

 ……お目付役かって? まあ、そういう事。


「こわあ……」

 今まで居たの? みたいな騎士団団長令息の一言に、全てが凝集されている。うん、確かに怖い。


 ……ところで、対策は?

「私が考え抜いた策をお話します。辛く苦しい策です。でも、やるしかありません、と私は思っております」

 魔法局局長令息の言う策は確かに辛く、苦しい策だ。だが、妙案だった。


 ……そして、翌日。


「僕はこの素敵な方と昼食に行くのだよ。邪魔をしないでもらえるかな」

『いや、確かにこちらの令嬢は素晴らしい方だけど! 僕にとっての素敵な人は違うんだあ! 婚約者が、好きだあ!』


「ええぇ、何でぇ? そのおんな、いえ、女子学生は魔法局局長令息様の婚約者じゃないですかぁ! 殿下の婚約者ではないでしょお! 」

「そうだね。だが、それは君にも言える事だ。君は僕の婚約者ではない。そうだね?」

「そう、ですぅ……」

『よおおおっしゃあ!』

 よし、作戦成功!

 そう、魔法局局長令息の妙案、即ち僕達の打開案はそれぞれの婚約者とは別の婚約者と親しくするというもの。


 初めてだよ、あいつにおかしな事を言わずに済んだの!


 僕が判断を下して、僕は魔法局局長令息の婚約者、魔法局局長令息は騎士団団長令息の婚約者、騎士団団長令息は僕の婚約者と親しくする事にした。

 特に性格的に隠し事に不向きな騎士団団長令息に僕の婚約者を、としたのは彼女が一番冷静な女性だから。あとは知性とか容姿とか性格も……とか色々自慢したいけれど我慢我慢。


 ふざけんな、お前ら何様だよと言われても仕方なさそうな策だけど、協力をお願いする事には成功したよ。

 三人のご令嬢は皆不自然だなあ、とは思っていただろうけれど、何とか受け入れてくれたし。

 ……どうやったかって?

「あの聖魔力保持者をやっつける為です! ご協力下さい!」って皆で拝み倒したよ。もうなりふり構えないからね。

 皆、貴族令嬢の鏡みたいな方達だから

「「「頭をお上げ下さい。正直に申しあげますと理解は致しかねます策ではございますが、あの聖魔力保持者様のご様子が不自然である事は事実でございますから」」」とね!


「そこはあたしの場所だあ、どけぇ!」

 結局、策から1か月後に事件発生。


 ……さすがに、駄目だろう、と思うこの状況。

 捕縛されても威勢はいいね。この聖魔力保持者。


 呆気ない幕切れだった。

 僕達に近付けない事に苛立ったのか、あいつは学内で何の非もない高位令嬢、僕の婚約者に魔法をぶつけようとして、警備兵に捕縛されたのだ。因みに隣にいた騎士団団長令息はちゃんと盾になっていた。偉いぞ!

 持ってて良かった、仲良し三人お揃いの呪いよけ。僕達は一蓮托生……と言うことで、お互いの居る場所に移動可能な転移陣、もしもの時の緊急呼び出しの術式を組み込んでいたのだ。ナイスだ、騎士団団長令息と呪いよけを用意してくれた魔法局局長令息。


「途中までは上手くいってたのに! そうだ、あんた達のせいだ! この、悪役令嬢! あたしがヒロインなのに!」

 多分、利己的に聖魔力を使い過ぎた反動だろう、聖魔力保持者はかなりやつれていた。凄い目の下の隈。濃い。上目遣いも無くなった。それでもぎゃあぎゃあとはわめくんだね。

 それにしても、悪役令嬢、ってなんだ?あいつにとっては彼女達は悪役なのか。そうか、自分がヒロイン、主役? と信じていたらそれを邪魔する彼女達は悪役か。上手い事を言うな。……じゃない!


「暴力未遂のみならず、高位貴族令嬢に対する失礼千万な物言い! 捕縛の後、然るべき措置を取る様に!」

「はい、第二王子殿下!」


 すると、人払いとか色々、一応きちんと対処していた僕達の前に飛び出す人影が。

「お許し下さい!……とは申しません! ですが、あの、噂の聖魔力搾取だけはお止めいただけます様にお願い申し上げます……。あ、私はこの者の父でございます!」


 あ、出たな警備員! ああ、あいつの父だったのか。

「お前、母さんが言ってたろう! こんな事に聖魔力を使うとろくな事にならないと! 母さんが書いてくれた帳面、『貴族学校に入学した聖魔力保持者の平民がやってはいけない聖魔力の使い方』ダントツ1位に「婚約者のあられる高位令息に言い寄る事」とあったろうが!」

「だって、やってはいけない、って事はお母さんに出来たからでしょう?実際、出来たもの!」

「出来た、確かに……。だが、母さんの二の舞にはさせまいと、あのお三方以外の高位令息様方には学校から予め、対聖魔法の魔道具が配布されていたのだよ。私はお前の父だから魅了魔法は効かない。だから男子学生専用の場の警備に雇われていたのだ。お前の見張りも兼ねて、な。母さんは放逐された時に高位の方々には近付けない強制魔法を付与されているから実家に居るけれど。あの茶会の場所以外の男子学生専用の場は全て、女性が配備されている。お前は気付かなかったかも知れぬが」


 ……気付かなかった。じゃあ、僕達は他の男子学生専用の場所に常にいたら良かったの? あ、だけどそうしていたら結局婚約者令嬢達には授業以外では会えなかったか!

 あと、僕達三人以外には対聖魔法の魔道具? 出て来い学校の責任者! って……王家実家だよ……。


「申し訳ございません、第二王子殿下。わたくし達も皆様のご状況は存じておりましたものの、女王陛下の勅命がございました。ご婚約者であられる皆様方からのご依頼以外ではわたくし達が自身を守る以外に動くことは罷り成らぬ、と。また、悪しき聖魔力保持者が出現した際の対策を講じるべく、女王陛下にご協力申し上げておりました」

「ですが、私達三名は、皆、婚約者様方を信じておりましてございます。皆様のお言葉は全て小型蓄音水晶にて保存させて頂きましたが、解析の結果、全てが真逆、または真のお心が示されました為、私達はむしろ皆様方の思いに感銘を受けましてございます」

「聖魔力保持者様が言われた事、私達からの虐め等は全て、女王陛下が私達三名に付けて下さいました王宮の密命執行者が事実無根と証明いたしますのでご安心下さい」

 僕の、騎士団団長令息の、魔法局局長令息の婚約者令嬢達。皆、きりりとしていますねえ。まばゆいばかり。


 えーと、女王陛下母上

 密命執行者って、僕にも付けてもらってない、24時間影の様に護衛してくれる存在ですよね。映像水晶と蓄音水晶を常に携帯しているのと同じ位にその証言には価値があるとされる……。あと、真逆って。

 大嫌いだ! とか全部、大好きだ! って、本音がバレてるの、僕達三人。……中々に辛い。

 でも、まあ、今はもう良いか。婚約破棄はないって事だよね! やったあ!

 とにかく、婚約者令嬢達の完全無罪が証明された訳だし、って言うか、当たり前だ!


「僕らは学内の風紀を乱した、聖魔力を悪用した者に情けを掛けるつもりはない。君も、君の母が嘗て犯した罪を自覚し、聖魔力保持者として相応しい行いをすれば良かったのに。……警備兵、連行を。ああ、警備員君、君も。警備兵、彼の奥方も呼び出してくれるかな。対応する者の地位には気を付けてね」

「承知いたしました!」「畏まりました……」「何で、何でよおおぉっ!」

 警備兵と警備員とあいつは去って行った。


 ……さあ、これからやる事は、一つ。


「皆、済まなかった。そして、ご協力ありがとう。そして、僕達六人で、成すべき事を!」

「畏まりました。聖魔力保持者が不適切な心根でありました際の対策をまとめますのね? 謹んでご協力申し上げます」

 美しい礼と共に僕の婚約者が答えてくれた。うん。確かにそれも重要だけどね!


「素晴らしいお考えです、殿下」

 騎士団団長令息、君もお疲れ様。でも今は違うんだな。

「本当に! ほら、貴方は文章を書くのは不得手ですから口述筆記いたしますから。ただ、先程殿下の婚約者様をお守りしようとしたのは、その、凛々しかったですわよ?」

「本当に? うわあ、君に褒められたのは、俺に手作りの菓子を渡してくれようとして君がこけてしまって、割れてしまった菓子を旨い旨いと全部食べた時以来だ!」

「何で今! しかもあの時は褒めてないでしょう! ありがとう、って言ったのよ!……バカ!」


 うん、安定のボケの騎士団団長令息。そして婚約者のご令嬢の見事なツンデレ。いいね!


「そうだね、確かに傾向と対策も必要だけど、僕達六人に必要な事は……」


「必要な事は……何でございましょうか?」

 よくぞ訊いてくれました、魔法局局長令息の婚約者令嬢。


「婚約者同士で仲良くする事です!」


「ほう」「成程!」


「「「え」」」


 あれ、僕達三人と三人のご令嬢方との反応に違いが。


「昼食でも学習でも奉仕活動でも、とにかく共に行動する機会を増やそう。ね、魔法局局長令息、君は何がしたい?」

「あ、はい。私は二人きりで古書店に行きたいです」

「二人きりで……。それは……」

 あ、婚約者のご令嬢。真っ赤ですね。これは、行きたいです、ですね。


「俺はそうだなあ、一緒に菓子を食べに行きたい! 君の好きな店を教えてくれ! ダメなら俺は護衛になるから君が美味しそうに食べている可愛い表情を見せてくれ!」

「……バカ」

 うん、騎士団団長令息、護衛が護衛対象を見詰めたらダメだろう。背中に目があるのか君には。

 でも、まあ、バカ、に愛がありますね、これは。


「……じゃあ、僕は貴女の行きたい所、したい事を叶えたいです」

 ……膝をつき、婚約者のご令嬢に手を差し出す。一応王族、それに見栄えも良い母上と父上の子ですから、絵になってないかなあ。なっていたら良いな。


「……もう、叶いました」

 差し出した僕の手に、綺麗な桜色の爪と、美しい長い指が触れて。

「私の手を、たったお一人の方に取って頂きます事。それを望んで過ごしておりましたので」


 ……か、かわいい!

 見て、皆! 僕の婚約者令嬢! かわいい! でも見せたくない! だって、かわいいから!


 ……あれ、顔が赤いね。あ、やっとあの聖魔力保持者が片付いたから疲れが出たのかな?


「……第二王子殿下、恐れながら」

「私共に付いてくれております密命執行者達は先程から、皆様のお心を解析して、念話にて伝えてくれておりまして」


 ……何と言いました、騎士団団長令息の婚約者のご令嬢、魔法局局長令息の婚約者のご令嬢?


「……まあ、殿下が婚約者様をかわいいと思っておられるのがバレバレになった、って事ですね」


 ……騎士団団長令息! 正直だな、君!


「え、えっと、ね。とにかく、婚約破棄はしないで、ね?」


「……はい。殿下もその旨の無きようにお願い申し上げます」


「ある訳ないよ!」 『ある訳ないよ!』


 ……あ、今、密命執行者の皆、訳す事が無くてつまらないなーって思ったよね? 気配で分かったよ。


 つまらなくて結構。僕達はもう、婚約者を愛でて愛でて愛でまくるんだから!


「あ、ほら、殿下、また!」


 あ、いけない。その頬を染めるなら、きちんと僕の口で言わなきゃね!


「俺も負けられないな!」「私も!」


 そこから先は、言わずもがな、だよね。


 僕達仲良し三人組。大好きな婚約者の為に、甘い甘い囁きを、きちんと声に出し続けたのでした。


 ……因みに翌日。


 仲良し三人組は貴族学校の校内新聞に『第二王子殿下とご友人の高位令息様方、聖魔力保持者から逃れて婚約者様方を口説きまくる! お見事!』と大見出しで大々的に取り上げられるのでありました。


 人払いがされていた筈なのに、何故か情報と映像水晶の写し絵の提供者が……?


 その正体は勿論、お分かりですよね!












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婚約者を溺愛したい王子殿下達は全力で婚約破棄を免れたい! 豆ははこ @mahako

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