永遠の二人

青篝

短編です

『忌み子』という言葉を知っているだろうか。

言い換えれば、『呪われた子』と

表現できる言葉だ。

日本ではその歴史、

双子は『忌み子』とされており、

産まれた時に片方の子を殺していた。

そうしないと、どちらの命も呪われ、

家族まで死に貶められることになるからだ。

そして、広き世界には、

様々な『忌み子』が存在している。


「お前の命は…14までだ」


苦しそうに、両親は僕に言った。

どうやら僕は14歳で死ぬらしい。

産まれつき、片方の瞳だけが白く、

その瞳に一切の視力がない場合、

悪魔に呪われているんだって。

僕のいる村でも、数年に一人は

そういった『呪い子』がいると。

僕が10歳の誕生日を迎えた日に、

涙を堪える両親から告げられた。

それと同時に将来の為とか言って、

綺麗な指輪ももらったけど、

大人になれないんじゃこんなのいらないよ。


「じゃあ、チャロも死んじゃうの?」


チャロアイト。

僕と同い年の綺麗な銀髪の女の子。

物静かで穏やかな女の子。

裁縫が得意で、手作りのマフラーを

いつも首に巻いていた女の子。

去年僕に告白して、

友達だから、と振られた女の子。

僕の脳裏に浮かんだのは、

よく一緒に遊んでいたチャロだった。

あの子の左目も、白かったから。


「あぁ…どういう悪魔のイタズラか、

スピネル、お前と同じ日にな……」


そっか…彼女も、死んじゃうんだ……。

なんだか不思議な気分だな。

同じ年の、しかも同じ日に

悪魔に連れ去られるのは初めてだって

両親は言っていたし、

すごい偶然な感じがする。

両親は泣いていたけれど、

僕は悲しくなんかなかった。

皆と会えなくなるのは嫌だけど、

それが僕の運命なら、

僕は受け入れるだけだから。

…でも、彼女はどうなのかな……。




それから四年。家族や友達は、

『呪い子』の事は何も言わないまま、

僕は誕生日を明日に控えた。

10歳の誕生日と、『その日』以外には

悪魔の話を本人としないという、

暗黙の了解が村にはあるらしい。

今日は村の人達がたくさん集まって、

大きな集会をしている。

最後に、色々な人と関わって、

たくさんの思い出を残すんだってさ。

家族や友達だけに覚えてくれてたら、

僕はそれでいいんだけど、

これが村の掟なんだって、押し切られた。

チャロも僕と同じ気持ちなのか、

人に囲まれてはいるけど、

あまりお話はしてないみたい。


「…スピネル。一緒に来て」


しばらくして、僕は走っていた。

大人達にはトイレに行くって

嘘を言ってまで、僕らは集会を抜け出した。

日付が変わるまであと1時間を切った頃だ。

チャロに手を引かれて、

僕は村の外の森まで来ていた。


「スピネル、私…怖い」


僕が何かを言う前に、

チャロからそう言ってきた。

立ち止まって、背を向けたまま。

僕の手を握るチャロの手から、

その恐怖の大きさが伝わってくる。

僕と違って、チャロは怖いらしい。


「チャロ……」


僕が声をかけると、

チャロはこちらに顔を向けた。

瞳に、いっぱいの涙を浮かべて。

小さくて、丸いチャロの顔。

同世代の子たちと比べても、

顔にあどけなさが残っている。


「スピネル…私、死にたくない…!」


思わず、言葉に詰まった。

手から伝わるチャロの力は、

とても小さく、優しい。

胸がキツく締めつけられる。

僕は死などどうでもいいのに、チャロは違う。

大粒の涙を流し、震えている。

そんなチャロを見るのが、

僕には耐えられなかった。

どうしてだろう。

チャロに対する僕の気持ちは、

ただの友達だったはずなのに、

チャロが笑顔でいてくれないのが、

とても辛い。

こうしている間にも、

『その時』は刻一刻と迫る。

必死で頭を使ってみるけれど、

何もいい考えが浮かばない。

───あっ…そうだ…。

空いている方の手を、

僕はポケットに突っ込んだ。


「…チャロ」


チャロの手を解き、

僕は両手で箱を差し出した。

小さな、黒色の箱だ。

チャロは驚いて、目をパチパチさせる。

僕はゆっくりと、箱を開いた。


「えっ…」


中に入っていたのは、指輪だ。

10歳になった日に、

悪魔の話と共に両親から渡された、あの。

真ん中には紫色の宝石…ラベンダーヒスイが

埋め込まれている。


「チャロ。これを君にあげるよ。

君が、幸せになれるように願って。

…だからね、泣かないで」


ラベンダーヒスイの石言葉は、『幸運』

僕は、心の底から願った。

チャロが、幸せになれるように。

透き通るような雪色の、

細く、か弱いチャロの左手をとる。

安心して、チャロ。

僕も一緒に行くからさ。


「嬉しい…」


チャロは、自分の指で光る輝きに、

それはもう見惚れていた。

頬を赤らめて、大切そうに、

右手でその輝きを包み込む。


「でもスピネル。指輪っていうのはね、

中指じゃなくて、薬指にするんだよ……?」


どこか嬉しそうに、チャロは言う。

怒ることもなく、悲しむこともなく。

クスッと可愛らしく。

…そして、『その時』は来た。

日付が変わる。

僕とチャロは死ぬ。

そういえば、最後はどんな風なのか

誰も教えてくれなかったな。

苦しくないといいな。

チャロが笑顔のままでいてくれたらいいな。

意識が、遠くなっていくのを感じる。

体がフワッと軽くなり、

視界が白くボヤけていく。


「スピネルっ!ありがとう!」


僅かに聞こえた、チャロの声。

確かに見えた、チャロの笑顔。

満面の、子どものような笑顔。

その笑顔を最後に見れただけで、

僕は救われたような気がした。

あぁ、きっと。

これが好きって気持ちなのかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

永遠の二人 青篝 @Aokagari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る