時空超常奇譚4其ノ弐. 超短戯話/賢者の詭弁

銀河自衛隊《ヒロカワマモル》

時空超常奇譚4其ノ弐. 超短戯話/賢者の詭弁


超短戯話/賢者ソフィアの詭弁

 かつて5度目の生物大量絶滅を経た後、偶々たまたま運良く恐竜から地球の支配権を拾ったヒト人類という自称高等生物がいる。その中で、文化人や見識者を名乗る人々が勝ち誇るように高らかに『動物愛護』を叫んでいる。

 何故、彼等は『愛護』を叫ばないのだろうか。何故、愛護の、慈悲の、大いなる精神で包むべき対象を「生物」ではなく、「動物」としているのだろうか。その理由は至極簡単だ。それは、彼等が叫ぶ『動物愛護』が身勝手なエゴイズムでしかなく、しかもその中身が動物愛護でさえないからだ。彼等が声高にしたり顔で叫んでいるのは『愛護』という極端に恣意的なものでしかない。

 そもそもヒトはエゴの塊だ。ヒトの存在そのものがエゴだと言わざるを得ない。

「罪なき殺生は悪行だ」と言いながら、植物に雑草と言う名を付けて刈り殺し、歩くだけで蟻を踏み殺し、風邪を引いたと言っては正当なる権利としてウィルスを薬殺し、予防だと言っては手を洗って細菌を溶かし殺す。折角育った植物を雑草という名で誹謗して斬殺し、羽音が煩いとか刺されたら痒いとか不潔だと言っては蚊や蝿を必然の如く叩き殺す。

 ネズミやゴキブリに至っては、悲鳴を上げて非難し捲くった挙げ句に毒殺し根絶やしにされる。山を開拓という名で侵略し、里に降りた動物達を害獣と呼んで駆逐する。殺戮の嵐、ホロコーストに他ならない。

 これ等の生物に対して、優しい心で愛護を叫ぶヒトは何故いないのだろうか。右手で動物愛護を叫びながら、意識的か無意識かを問わず、当然、必然、特権のように左手で殺生を続けているのだ。二重人格、いや、精神異常者の所業ではないか。これ等の生物は本能のままに唯生きているだけだ。一匹でもヒトに害を与えてやろうなどと意図した生物がいただろうか。仮にそうなら、それはそれで驚くべき事ではある。

 動物愛護の対象とは「動物の愛護及び管理に関する法律」第44条の規定により、家畜やペットとしての牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、ネコ、イエウサギ、鶏、イエバト及びアヒル、人が占有している動物で哺乳類、鳥類及び爬虫類とされていて、これ等をみだりに殺害したり、傷つけ、虐待、遺棄する事は、罰則が課せられる。

 だが、法律の規定などあっても大した意味はない。例えば同じ犬であってもペットとして飼われているものは愛護の対象で、飼い主が手放した瞬間に野良犬として、殺傷処分の対象となる。その境界線は多分に曖昧で、いい加減で規定などあってないようなものだ。

 愛護の対象の線引きを「ヒトに近い知能の高い生物なのかかどうか」としたところで、そんなもの何の正論にもならない。イルカやクジラは知能が高いから殺傷するのは残酷だと主張する団体もあるが、知能が高いと言われる烏や豚や象の愛護団体など聞いた事もない。しかも、ネズミは哲学を語らない、ゴキブリは神に祈らない、植物は明日への希望を持たないと誰が言い切れるだろうか。豚が哲学を語ったとしても、スズメバチが戦争論を説いたとしても、烏が友愛を叫んたとしても、ヒトの中の誰がそれを理解出来るのだろうか。

 所詮、ヒトが都合の良い解釈をしているに過ぎないのであって、罪ある者が天により罰を受けるという宗教論的な正義の有無など、ヒトの匙加減一つでどうにでもなるのだ。

 この世界には、矛盾が溢れている。その絶対的要因は、ヒトがエゴの塊だからに他ならない。エゴそのものであるヒトが矛盾の辻褄を合わせようとして屁理屈を捏ねまわし、その結果として更に辻褄の合わないドツボに嵌っているという、笑う以外にない滑稽な話なのだ。動物はたまったもんじゃない。

 そして結局、愛護の下に救われるのはほんの一部の犬や猫やクジラやイルカや特別に守られる動物だけだという現実に至っては、既に辻褄どころか屁理屈さえ通じない話なのであって、滑稽だと笑っている場合ではない。

 それなのに、それが理屈の通らない自己満足というエゴだと気付く事もなく、逆立ちする程の矛盾がある事に目を瞑って、彼等は今日も高らかに正義感に包まれて動物愛護を叫ぶ。自身が罪人の象徴の如きヒトが、エゴの塊であるヒトが、動物達を愛護して生きていくなど出来る筈がないにも拘わらず。

 現在の地球にはヒトを食糧とする世界は存在しないだろうが、牛や豚や鶏はヒトの思惟的な都合や感情の中で、極普通にそして当然に、食糧として虐殺されている。 その一方で、ヒトは動物愛護の精神世界に溺れて動物愛護団体や動物愛護センター、動物愛護法を設立し、動物達の愛護、保護育成に積極的に力を注いでいる。

 ヒトはその低レベルの矛盾を承知の上で、動物愛護を叫びながらフライドチキンを頬張り、子牛を可愛いと愛でつつ仔牛のソテーに舌鼓を打つのだ。ハンバーガーも、とんかつや唐揚げも、肉を喰わないベジタリアンでそえも、全てが同じ罪人である事を知るべきなのだ。

 ヒトは、その叡智を以て動物愛護という自ら高次元だと思い込む行動に自己の承認欲求を満たす。そして、動物を食糧とする為の残虐な行為である殺戮を一部のヒトや機械に対応させ、そこに一線を引き視界の外側に追いやる事で、外側にある殺戮された動物と、内側にある肉料理を分断して、愚かな矛盾を利己的に正当化する事に成功した。現在、ヒトの中で動物を自ら屠殺して食糧に出来る者がどれ程いるだろうか。

 結局はヒトの叡智など矛盾を正当化する為の詭弁でしかない。ゴキブリや鼠はぶち殺しても良く、犬や猫は虐待してはならない。カルガモに至っては、道路を通過するまで車両通行禁止だ。子供や女性をくちばしで攻撃する烏を道端で叩き殺したら非難されそうだが、毛虫や蚯蚓みみずや蟻を路上で踏み潰しても何も言われる事はない。食糧として底引き網を引いて鰯や鯖を漁獲するのは大漁だと喜ばれるが、同様の目的で行われるイルカ漁や捕鯨は国際的にバッシングを受ける事となる。

 夏になると、世界中で何万、何千万、何億匹もの蚊が叩き潰されているだろうが、生態系から環境を考えるなら、蚊を殺すのも間違いなのだ。

 挙げればキリのないこれ等の差別や区別事例に、的確な線引きとその明確なる根拠を以て教授してくれる賢者ソフィアは、この世界のどこかにいないものだろうか。




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