Specters《スペクターズ》

橋元 宏平

Specters《スペクターズ》

Spectersスペクターズ


 特殊精鋭部隊とくしゅせいえいぶたいSpectersスペクターズ(バケモノども)」


 アメリカ軍に所属しょぞくする特殊部隊員とくしゅぶたいいんから結成けっせいされた「Spectersスペクターズ」は、もっと過酷かこくな戦場の最前線さいぜんせん派遣はけんされる。


 かつては、五〇名いた部隊は、今や少尉しょうい曹長そうちょうのふたりだけになってしまった。


 四八名は戦死、病死、失踪しっそう(姿を消す)した。


 人手不足ひとでぶそくにもほどがあるが、あらたに特殊精鋭部隊とくしゅせいえいぶたいへ入隊を志願しがんする兵はいなかった。


「『Spectersスペクターズ』に配属はいぞくされるくらいなら、死んだ方がマシ」とすら、言われるほどである。


 やがて「Spectersスペクターズ」は、少尉と曹長のBuddyバディ相棒あいぼう)をす言葉となった。


 少尉と曹長は、同郷の誼どうきょうのよしみ(故郷が同じで、親しい関係)であり、親友同士である。


 おない年であるにも関わらず、階級かいきゅうに差が付いたのは理由がある。


 少尉は、生まれつき身体能力しんたいのうりょくが高かった。


 近接戦闘きんせつせんとうを得意とし、目の前に現れた敵兵を次々と倒していく。


 特攻隊長とっこうたいちょうとして、Combat KnifeコンバットナイフAssault Rifleアサルトライフル先陣せんじんを切る。


 戦場を駆ける姿は、えたけもののように獰猛どうもう残忍ざんにん乱暴らんぼう)。


 一方、曹長は生まれつき、体が弱かった。


 その分、誰よりも狙撃手そげきしゅとして訓練くんれんみ、精密射撃せいみつしゃげきにおいては、右に出る者はいない(勝てる者がいない)。


 副隊長の曹長が、Light Machine GunライトマシンガンSniper Rifleスナイパーライフルで、少尉を後方支援こうほうしえんする。


 少尉も、曹長の狙撃の腕には、絶対的な信頼を寄せている。


 生還率せいかんりつ百%


 任務達成率にんむたっせいりつ八〇%


 これだけなら、自軍の兵達はふたりに尊敬そんけい羨望せんぼう眼差まなざしを向けただろう。


 だが、ふたりともなん


 少尉は、殺人衝動さつじんしょうどうを抑えられない戦闘狂せんとうきょう


 ひとたび戦場へ出れば、脳内麻薬のうないまやくが大量に分泌ぶんぴつされ、敵味方見境てきみかたみさかいなく手に掛けてしまう。


 精鋭部隊隊員数名も、犠牲ぎせいとなった。


 少尉がけ抜けた後には、死屍累々ししるいるい(死体の山)しか残らない。


 その上、戦況せんきょう過酷かこくであればあるほど、テンションが上がる。


 高らかに笑いながら、返り血を浴びてCombat Knifeコンバットナイフを振るう姿は、異常快楽殺人者いじょうかいらくさつじんしゃ


 軍人としては最強だが、人として守るべき倫理観りんりかんけていた。


 曹長は、狙撃手そげきしゅなれどもしのばない。


 居場所がバレたらマズい狙撃手でありながら、陽気ようきな歌を唄う。


 血と泥にまみれた戦場で、歌なんて唄うヤツは、それこそ頭のイカレちまったヤツだ。


 また強すぎるがゆえに、敬遠けいえんされていた(表面上はうやまったような態度をして、近付くのは避けられていた)。


 諸々もろもろの理由により、自軍の兵達から「Spectersバケモノども」と、後ろ指うしろゆびされている。


 だが、とうの少尉と曹長はふたりそろってだったので、周りからどう思われているかなど、知るよしもなかった。





【補給拠点占領作戦】


 今回の「Spectersスペクターズ」の任務にんむは、「敵軍の拠点きょてん占領せんりょう(他国の領土りょうどを、武力ぶりょく自国じこく支配下しはいかに置く)せよ」というものであった。


 目的の拠点は、敵軍の補給拠点ほきゅうきょてん


 ここをおさえると、敵軍の兵達への銃弾じゅうだん食糧しょくりょう補給ほきゅうたれる。


 士気しき(兵のやる気)がもっとも下がるのは、補給がたれた時である。


 補給拠点ほきゅうきょてんうばえれば、敵軍の士気しき戦力せんりょくげる。


 敵軍にとっては、大事な拠点。


 なんとしても、この拠点を死守ししゅしたいはずだ。


 敵軍は国家総力戦こっかそうりょくせんゆうする国力こくりょくを、総動員そうどういんして戦う形態けいたいの戦争)に、持ち込んでくるだろう。 


 相手も本気ということで、「Spectersスペクターズ」も万全ばんぜんの装備をととのえ、「陸上支援部隊りくじょうしえんぶたい」と「航空支援部隊こうくうしえんぶたい」と「後方支援部隊こうほうしえんぶたい(整備・補給・輸送などを行なう隊)」が任務にいどむ。


「隊長、今回の作戦は?」


「突っ込む」


「OK☆」


 作戦なんてものは、ないも同然どうぜん


 このやり取りは、任務開始の挨拶あいさつのようなものだ。


 戦況せんきょうは、刻一刻こくいっこくと変化していく。


 どう動くべきかは、その時になってみなければ、分からない。


 無線は繋ぎっぱなしオープン状態で、戦況におうじて対応する。


 先日潜入せんにゅうした偵察部隊ていさつぶたいが、すでにこの拠点の地図は入手済み。


 左手首に装着そうちゃくしたRadar Mapレーダーマップに、現在地が表示されている。


 作戦開始時刻になると、ふたりは拠点へ向かって駆け出した。


 ふたりは、事前に決めた絶好ぜっこう狙撃そげきポイントまで、ひた走る。


 曹長は、大量の重火器じゅうかきを背負っている為、足が遅い。


 曹長は遠距離狙撃は得意だが、近接射撃となると途端とたんにエイム(Aimingエイミング=照準安定・命中精度)が下がるという弱点を持っている。


 身軽みがる歩兵装備ほへいそうびの少尉が、狙撃ポイントまでMaverickマーベリックとMP-443 Grachグラッチで、曹長を護衛ごえいする。


Maverickマーベリック」は、平均性能へいきんせいのうAssault Rifleアサルトライフル


 威力いりょく別段べつだん高い訳ではないが、良好りょうこう集弾性しゅうだんせいと、豊富ほうふ装弾数そうだんすうを持ち合わせている。


 ただし、距離減衰きょりげんすいが激しい為、遠距離戦えんきょりせんには不向き。


「MP-443 Grachグラッチ」は、Full Auto Hand Gunフルオートハンドガン


 威力いりょく射程しゃていHand Gunハンドガン中、最も低い。


 しかし、高連射速度こうれんしゃそくどFull Autoフルオート射撃の為、瞬間火力しゅんかんかりょくは高め。


 装弾数そうだんすうも多く、Reloadリロード再充填さいじゅうてん)も速い。


 Recoilリコイル(発射時の反動)も小さく、遠くの敵もねらいやすい。


 Full Autoフルオートではあるが、Triggerトリガー(引き金)を一瞬だけ引くことで、一発だけ撃つことも出来る。


 優秀ゆうしゅうHand Gunハンドガンだが、Full Autoフルオートなので弾数消費だんすうしょうひが多い点は注意。


 少尉は状況に応じて、この二てい(銃を数える単位)を使い分ける。


「おっ、いいもん見ぃ~っけ。も~らいっと」


 さらに、今、撃ち抜いた敵兵が持っていたRed Dot Sightレッドドットサイト付きのCommandoコマンドーを拾った。


Commandoコマンドー」は「Colt Firearmsコルト・ファイヤーアームズ(アメリカの銃器メーカー)」の連射カービンモデル、XM177-E2(Submachine Gunサブマシンガン)のことで、Full Autoフルオート仕様しよう


 上下左右の反動はんどうなので、精密せいみつ制御せいぎょは難しいが、集弾率自体しゅうだんりつじたいは高い。


 ただし、Muzzle Flashマズルフラッシュ(発砲時に、銃口から瞬間的に出る炎)で、視界がさえぎられてしまうので、注意が必要。


Red Dot Sightレッドドットサイト」は、銃に付けるSightサイト(標準器)。


 Sightサイトを付けることによって、精密射撃せいみつしゃげきが可能となる。


 曹長はリズミカルにM27 IARを連射しながら、それに合わせて歌なんてくちずさんでいる。 


「M27 IAR(Infantryインフィニティ・ Automatic Rifleオートマチックライフルの略)」は、豊富ほうふ装弾数そうだんすうと、Light Machine Gunライトマシンガン軽機関銃けいきかんじゅう)にしては速いReloadリロード速度が売り。


 威力いりょく連射速度れんしゃそくどは平均レベルだが、弾数だんすうが非常に多いので連戦れんせんに強い。


 ただし、かなり重いので、移動速度いどうそくどが大きく落ちるのが最大の欠点けってん


軽機関銃けいきかんじゅう」とは、三脚さんきゃく固定運用こていうんようする重機関銃じゅうきかんじゅうに対し、持ち歩けるように軽量化けいりょうかした野戦用機関銃やせんようきかんじゅうす。


 装備は充分にそなえてきたが、敵兵は次から次へと襲ってくるから、銃弾はいくらあっても足りない。


 弾切れしたり、銃が壊れたら、現地調達げんちちょうたつが基本。


 撃ち抜かれた敵兵は、もう二度と、銃を握ることはない。


 戦場では、使えるものはなんでも使う。


 曹長も、敵兵のCommandoコマンドーMagazineマガジン(銃弾が入った容器)を拾った。


 曹長はCommandoコマンドーを、手当たり次第にぶっ放す。


 少尉が拾ったCommandoコマンドーは、敵兵がかなり撃った後なのか、早くも弾切れを起こした。


「あ、もう弾切れた。弾くれ」


 前を走る少尉に、曹長がバトンリレーの要領でMagazineマガジンを手渡す。


「はいは~いっ、弾で~す♪」


「サンキュ。いやぁ、この銃、いいなぁ。安定性あんていせいがスゴい」


 素早くReloadリロードすると、Commandoコマンドーの使いやすさに、少尉のテンションが上がった。


 左手でCommandoコマンドーTriggerトリガーを引き続け、右手はCombat Knifeコンバットナイフを振るう。


 適度てきどに体が温まり、かすめる程度に軽く被弾ひだんして、少尉の闘争本能とうそうほんのうに火が着いた。


 さぁ、ここからが本番だ。


 目的の狙撃ポイントが、見えてきたところで、二手ふたてに分かれる。


「隊長、ここで分かれましょう!」


「おう。じゃあ、またあとでな。行ってきま~す!」


「は~いっ、行ってらっしゃ~いっ♪」


 曹長は、少尉と別れると、コンクリート製の壁に張り付き、聞き耳を立てる。


 曹長は耳とかんするどく、あらゆる音を聞き分けられる耳を持っている。


 上から、Sniper Rifleスナイパーライフルの銃声がする。


 他にも、数名の気配、銃を構える音、話し声などが聞こえた。


 どうやら、敵軍の狙撃手も、ここを狙撃ポイントとして、立てこもっているようだ。


 ならば、奪うのみ。


 曹長は、音を立てずに手にしたCombat KnifeコンバットナイフSilencerサイレンサー(消音器)を付けたM16で、敵兵達を次々と倒していく。


「M16」は、三点Burst さんてんバースト Assault Rifleアサルトライフル(略してAR)。


三点Burstさんてんバースト」は、One Triggerワントリガー(一回、引き金を引く)による、三発連続発射さんぱつれんぞくはっしゃのこと。


 制御せいぎょ比較的簡単ひかくてきかんたんで、弾も節約出来せつやくできて、Semi Autoセミオート(一発ずつ引き金を引く半自動)より高火力こうかりょくという利点りてんがある。


 威力の高さと射程、Reloadリロード速度に優れる。


 他のARでは対応しにくい、遠距離での精密射撃せいみつしゃげきに向く。


 だが、精密射撃には、高いAimingエイミング能力が必要となる。


!」でお馴染なじみの超一流狙撃手ちょういちりゅうスナイパー暗殺者あんさつしゃも、この銃を愛用している。


 上記の説明で分かる通り、


 暗殺者本人も、作中で認めている。


 暗殺が目的なら、もっと遠距離狙撃に特化とっかした銃を使うべきだ。


 では何故、暗殺者はM16を使用しているのか。


 連載開始前、作者は知人のイラストレーターに問い掛けた。


「殺し屋に持たせる銃は、何が良いか?」と。


 モデルガンメーカーの社員を兼業けんぎょうしていたイラストレーターは、当時最新の軍用銃だったM16をすすめた。


 作者がうっかり「狙撃に使うこと」を伝えなかったことが、最大の敗因はいいんである。


 曹長は苦手な近接戦闘で、数発被弾ひだんしてしまったが、過去の経験から、この程度の被弾なら、大したことはない。


 急所きゅうしょは外しているし、狙撃にも支障ししょうがないレベルだ。


「はいっ、お休みなさ~いっ☆ そこで、おねんねしててちょうだいね~♪」


 永遠の眠りにちた狙撃手そげきしゅと、護衛役ごえいやくの兵達を、閉じた扉の内側に寄り掛からせて座らせる。


 こうしておけば、死体が簡易的かんいてきBarricadeバリケード(相手の侵入を防ぐ障害物)代わりとなって、扉が開きにくくなる。


 狙撃ポイントを無事確保かくほした曹長は、さっきまで敵の狙撃手が抱いていた銃を見て、目を輝かせる。


「お? このスナ(Sniper Rifleスナイパーライフルの略)、超良いヤツじゃないっすかぁ。せっかくだから、使わせてもらっちゃおうかなぁ~♪」


 落ちていたSniper Rifleスナイパーライフルは、WaltherワルサーWA2000。


Waltherワルサー WA2000」は、Bullpup Styleブルパップ方式Automaticオートマチック狙撃銃。


 本体だけで七kgの重さがあるが、非常に高い命中精度めいちゅうせいどほこる。


 しかし、高精度こうせいどな部品のみを使っている為、と高価な銃であった。


Waltherカール・ヴァルター社」といえば、が愛用している「Waltherワルサー P38」を、思い浮かべる人もいるだろう。


 大型軍用拳銃としては画期的な、Double Actionダブルアクション(引き金を引くと同時に、撃鉄げきてつを起こすふたつダブルの機能を持つという意味)機構きこうを組み合わせた、Automatic Pistoオートマチックピストル(自動式拳銃)。


 強力な弾丸を安全に発射出来る、Short-Recoilショートリコイル(発射の反動を利用する方式)を採用さいようしている。



 曹長は、ようやく身を落ち着けて、少尉に無線機で話し掛ける。


「隊長~、ポイント確保しました~♪」


『よし、良くやった。さっそくだけど、援護えんごよろしく』


「OK☆」


 こうして、少尉が特攻を仕掛け、曹長が狙撃で援護する、いつもの連携れんけいが出来上がった。


 戦況が有利になってきた頃、「航空支援部隊」から無線が入った。


Enemy Spy Plane,エネミースパイプレーンComing here.カミングヒア(敵の偵察機がここ来る)」


Enemy Spy Plane,エネミースパイプレーンComing hereカミングヒア!」


 曹長は復唱ふくしょうして、雲におおわれた空を見上げた。


 今日は雲が厚く、硝煙しょうえん(火薬の煙)も立ち込めていて、青空はのぞめない。


 雲の隙間すきまから、特有とくゆう飛来音ひらいおんを立てる偵察機が、曹長の目に映った。


 偵察機は、状況を把握はあくする為、偵察など情報収集をおこなう軍用機。


 放置しておくと、戦線せんせん崩壊ほうかいする危険が高いので、積極的に撃墜げきついする必要がある。  


 曹長は、Strelaストレラ-3を右肩にかついで、上空へ向けた。


 Sightサイトで狙いを定めると、Missileミサイルを発射した。


 Missileミサイルは見事命中し、偵察機を撃墜した。


としたっ!」


 曹長の「Strelaストレラ-3」の命中率は、ほぼ百%。


 航空機発見から撃ち墜とすまでの速度も、ぐんを抜いている(飛び抜けてすぐれている)。


Strelaストレラ-3」は、個人携帯式対空こじんけいたいしきたいくうミサイル。


 Sightサイトで、狙いを定めなければ撃てない為、対人たいじんには使えず、対航空機専用たいこうくうきせんよう


 なお、「Strelaストレラ」は、ロシア語で「矢」の意味。


 しかし、これが罠であることに、曹長はこの時、気付くことはなかった。


 偵察機が飛行すれば、曹長が撃墜する。


 ミサイル程の大きなものが発射されれば、自分の居場所を教えたも同然。


「ここだっ!」


 曹長がいる建物は、一斉に敵兵に取り囲まれた。


 複数の軍靴ぐんかの音が、階段を駆け上がってくる。


「マズいっ!」


 曹長は、あせった。


 急いで荷物をまとめると、窓枠まどわくに足をかけた。


 幸い、ここは二階。


 飛び降りても、軽傷で済む。


 しかし、窓の下も、曹長が降りてくるのを、敵兵達が待ち構えていた。


「マジかよっ?」


『どうした?』


 少尉の問い掛けに、曹長は焦りをにじませた、早口で答える。


「場所がバレて、囲まれましたっ!」


『マジかっ? 大丈夫かよ?』


「大丈夫じゃないですよ! 大ピンチですよっ! でも、なんとかするしかないありませんよねっ!」


 とりあえず、降りる場所を確保すべく、下へ向かって「M27 IAR」を乱射した。


「おぉりゃぁぁああああぁぁっ!」


 建物を取り囲んでいた敵兵達が、次々と倒れていく。


 これで飛び降りても、倒れた敵兵がクッションになってくれる。


 飛び降りようとした時、ドアが破られて、敵兵が9-Bang Grenadeバンググレネードを投げ入れてきた。


「9-Bang Grenadeバンググレネード」は、「Stun Grenadeスタングレネード閃光手榴弾せんこうしゅりゅうだん)」


 激しい光と爆音を放ち、相手に一時的に失明しつめい眩暈めまい難聴なんちょう耳鳴みみなりなどの症状を、起こさせる。


 殺傷力さっしょうりょくはないにひとしいが、近距離で相手の視界内しかいない炸裂さくれつすれば約五秒間、完全に視覚しかく聴覚ちょうかくうばう事が出来る。


 強行突破きょうこうとっぱする場合に、きわめて有効。


 しかし、効果範囲こうかはんいの広さ(半径二〇m)から自爆じばくしやすいので注意。


「ちっくしょぉっ!」


 9-Bang Grenadeバンググレネードをモロに食らってしまった曹長は、視覚と聴覚を失ったまま、窓から墜落ついらくした。


 下に倒れていた敵兵のおかげで、落下のダメージはなかったのの、視力が回復するまでは、どうにもならない。


 方向感覚ほうこうかんかくすら失った曹長は、拾った銃が何かも分からず、死に物狂ものぐるいで乱射らんしゃするしかなかった。


 手に馴染んだ感覚から察するに、Commandoコマンドーだろう。


 視界が回復するまで、なんとか乗り切らなくてはならない。


 戦場において、敵兵からの攻撃を察する為、目と耳は非常に重要である。


 視覚と聴覚を失っていては、銃弾を避けることも出来ない。


 わずか数秒間とはいえ、曹長は敵兵から総攻撃そうこうげきを食らった。


 しばらくして、ようやく、ぼんやりと視力が回復してきた。


 その時、何かが転がってきて、曹長の足に当たった。


 すぐに、Fragment Grenadeフラグメントグレネードだと気付いた。


Fragment Grenadeフラグメントグレネード(略してFragmentフラグメント)」は、手のひらサイズの手投げ爆弾。


 爆発で発生した衝撃波や破片により、殺傷能力さっしょうりょくが高い為、非常に対処たいしょが難しい。


 至近距離しきんきょりで爆発すれば、死傷ししょうけられない。


 対処法は、三つある。


 ①爆発する前に、遠くへ投げる。


 ②処理用の穴へ、放り込む。


 ③仲間への被害を最小限さいしょうげんにする為、ひとりが命を犠牲ぎせいにして、Fragmentフラグメントおおかぶさる。


 現時点で、②と③は選べない。


 となれば、選べる方法はひとつしかない。


「ボールを相手のゴールへ、シュゥゥゥーッ!」


 曹長は、迷わずFragmentフラグメントを蹴り飛ばした。


 だが、判断が遅かった。


 蹴ってすぐに、Fragmentフラグメントが爆発した。


 曹長は、爆発に巻き込まれて、大きく吹っ飛ばされた。


「ぐがぁ……っいってぇ……っ!」


 敵兵の的となり、数えきれないほど被弾している上に、Fragmentフラグメントの爆発まで食らった。


 のたうち回りたくなるほどの激痛が、全身を襲う。


 本能的に「死ぬ」と、悟った。


 兵士になると決めた時から、いつの日かと恐れていた。


 自分も、戦場で息絶いきたえる。


 それが、今なのかと。


 死ぬことよりも、残していく人々を、友を悲しませることを恐れていた。


 どうにか力を絞って、無線機に向かって、少尉に別れの言葉を告げる。


「……隊長……俺、死にます……みんなに……『すみません』と、伝えといて下さぃ……」


『バカ野郎、勝手に死ぬんじゃねぇっ!』


『曹長!』   


 少尉と各支援部隊は、それぞれ悲痛な叫びを上げた。


 そこからの少尉と支援部隊の活躍は、すさまじかった。


 少尉は、自分の身をかえりみず(後先考あとさきかんがえず)、ひたすら特攻して行った。


 CommandoコマンドーDual wieldデュアルワイルド(右手と左手に、それぞれ一丁ずつ銃を持つこと)で、ぶっ放す。


 弾がきれば銃を投げ捨て、敵兵の死体から銃を拾って、撃ちまくる。


 手近てぢかに銃がなくなれば、敵兵のふところへ飛び込んで、Combat Knifeコンバットナイフで、次々と敵兵をぎ倒した。


「ひひひひひ……ふふふふ……あーっはっはっはっはっはっはっ!」


 高笑いしながら、命をり取っていく少尉の姿は、まさにSpectersバケモノであった。


「陸上支援部隊」も、少尉の後に続いて特攻し、銃を乱射しまくった。


「航空支援部隊」は、Chopper Gunnerヘリガンナーに装備されたDeath Machineデスマシーンで、銃弾の雨を降らせた。


Chopper Gunnerヘリガンナー」は、自動操縦のヘリコプター「UH-1」

「UH-1」に装備された「Death Machineデスマシーン」は、口径7.62mmのM134Gatlingガトリング回転機銃かいてんきじゅう)。


 装填数そうてんすうは四九九発と多く、Over Heatオーバーヒート(異常加熱による機能停止)もないので、盛大に撃ちまくれる。


 こうして、少尉と支援部隊の活躍によって、拠点占領作戦きょてんせんりょうさくせんは成功を収めた。


 作戦終了後、重体で意識不明の曹長と少尉は、支援部隊に回収された。


 駐屯地ちゅうとんち(陸軍が平時に駐在する軍事基地)へ帰還きかんすると、すぐに医務室へ収容しゅうようされた。


 手術を終えた軍医は「ふたりとも、多量の銃弾を撃ち込まれていて、銃弾を取り出すだけで、ひと苦労だった」と、語った。


 少尉は、両手でCommandoコマンドーを撃った反動はんどうで、両肩が脱臼だっきゅうしていた。


 狂戦士きょうせんしのように制御せいぎょせずに戦ったので、骨が折れ、裂傷れっしょう皮膚ひふや肉がけて、出血する傷)も激しかった。


 特にFragmentフラグメントを食らった、曹長の容態ようたい悲惨ひさんであった。


 生きていたのが、奇跡に近かった。





 二日後、少尉が意識を取り戻した。


 少尉は、目覚めるなり「アイツはっ?」と、飛び起きた。


 軍医が「横で寝てますよ」と伝えると、痛みを思い出してベッドに倒れた。


「……今回ばっかしは、マジで、ダメかと思った……」


 昏睡状態こんすいじょうたいの曹長を見つめて、少尉は声を掛ける。


「俺ひとりじゃ、戦場を駆け回れねぇんだから、早く目ぇ覚ませよ」




 一週間後、曹長が意識を取り戻した。


 横のベッドで静養せいようしていた少尉が、真っ先に気付いた。


「起きたかっ!」


「ぃ……?」


「無理して、しゃべらなくていい! そのまま寝てろっ!」


 少尉が急いで軍医を呼ぶと、すぐに軍医は曹長の容態を調べ始めた。


 診察が終わると、軍医は少尉に伝える。


「意識が戻ったので、もう安心です。あとは安静にして、回復を待つだけですよ」


「良かった……マジで死んだんじゃねぇかって、心配したんだからな」


 少尉が笑い掛けると、曹長は口の端を上げて静かに笑った。 


 いつもの豪快ごうかいな笑い方ではなくて、少尉は少しだけさびしかった。






大敗たいはいきっした敵軍のなげき】


 特殊精鋭部隊とくしゅせいえいぶたいSpectersスペクターズ

Spectersスペクターズ」は、たったふたりだけで構成こうせいされている。


 近距離戦闘きんきょりせんとうを得意とする特攻隊長とっこうたいちょうわらう(見下して笑う)死神」


 精密射撃せいみつしゃげきを得意とする狙撃手スナイパーうたう(曲なしで唄う)地獄じごく番犬ばんけん


 我が軍は、国家総力戦こっかそうりょくせん国力こくりょく総動員そうどういんした戦争)を仕掛けたはずが、大敗たいはいきっした(ボロ負けした)。


 補給拠点ほきゅうきょてんは、壊滅かいめつ(全部ダメになる)。


 撤退てったい余儀よぎなくされた(部隊が陣地を捨てて、逃げるしかなかった)。


 大敗最大たいはいさいだい要因よういんは、「うたう地獄の番犬殺害計画」にあった。


うたう地獄の番犬を仕留しとめれば、わらう死神を簡単にれる」と、踏んでいた。


 しかし、それが大きな間違いであったと、って知る(自分で体験する)こととなってしまった。


 うたう地獄の番犬が、罠に掛かり、地にした。


「ついに、うたう地獄の番犬を殺った!」と、喜んだのも、つか(わずかな時間)。


 わらう死神が、神業かみわざ(神から与えられた力としか言いようのない高等技術こうとうぎじゅつ)で、次々と歩兵達の命を奪っていく。


 Spectersスペクターズ航空支援部隊も、Death Machineデスマシーンを乱射して、歩兵はほとんどやられた。


 それだけではき足らず、Spectersスペクターズ陸上支援部隊と後方支援部隊に、拠点きょてん占拠せんきょされ、たくわえていた物資ぶっしも根こそぎ奪われる始末。


 どうやら、Spectersスペクターズ逆鱗げきりんに触れてしまった(めちゃくちゃ怒らせた)らしい。


 のちに「Spectersスペクターズの逆鱗に触れると、わらう死神が命をり取りにやって来る」と、怪談話のように、その恐怖は語り継がれるのであった。





Spectersスペクターズその後】


「拠点占領作戦」から、数日後。


 敵軍の方から、「一時的休戦」を願い出てきた。


 首脳陣しゅのうじん合意ごういし、休戦協定きゅうせんきょうてい調印ちょういん(条約の文書に、お互いの代表が署名して、印を押すこと)。


「休戦協定」は、「お互いに、しばらく戦争をお休みする約束しましょう」ってこと。


「一時休戦」であって、「終結おしまい」ではない。


 悲しいけど、これ戦争なのよね。


 戦争は、一番上の人間の判断ひとつで決まる。


 首脳陣が「戦争なんて、もうや~めたっ」と言ってくれれば、今すぐにでも終わる。


 しかし、戦争を止める訳にはいかない「大人の事情じじょう」ってもんがある。


 単純に意地いじり合い、思想しそうの違い、領地りょうち資源しげんの奪い合いもあるが。


 戦争が終わると、大勢の職業軍人しょくぎょうぐんじん路頭ろとうに迷う(生きていけなくなる)。


 職業軍人達は、戦う以外に能がない脳筋野郎のうきんやろうの集まりだから。


 それに戦争は、経済発展けいざいはってん活性化かっせいか軍需産業ぐんじゅさんぎょううるおうから、なくしたくてもなくせない。


 実は、携帯電話・パソコン・インターネット・GPS(Global グローバルPositioningポジショニング Systemsシステム現在位置を測定するシステム)・デジタルカメラ・電子レンジ・レトルト食品……これら全部が、戦争の産物さんぶつ


 皮肉なことに、戦争の恩恵おんけいあずかっている(大きな存在の力により、恵みを受けている)ことを、多くの人間が知らない。


 だから、戦争は終わらない。


 戦争を止めた国が、あったとしたら。


 自分達の弱さを認めて、強い国にくっし、強い国を金で用心棒としてやとった国だ。


 代わりに、高度経済成長こうどけいざいせいちょうと平和を手に入れた。


 それも、戦術のひとつだ。


 今回の「拠点占領作戦」は、いわば「兵糧攻ひょうろうぜめ(補給を断ち、敵をえて弱らせる作戦)」 


「兵糧攻め」は、歴史的にも古く、戦国時代せんごくじだいから行なわれていた。


 有効的ゆうこうてき、かつ残酷ざんこくな戦術のひとつとされている。


 敵は「国家総力戦こっかそうりょくせん(国力を総動員した戦争)」をいどんできた。


 ところが、こっちが圧倒的大勝利あっとうてきだいしょうりおさめてしまった。


 敵軍も、補給拠点と大勢の兵を奪われたのは、相当な痛手いたでだったようだ。


 だが、こちらもSpectersスペクターズ壊滅寸前かいめつすんぜん損害そんがいった。


 Spectersスペクターズを失ったら、士気しき(兵のやる気)が落ちる。


 そもそも敵軍は、曹長を狙ったのが大きな間違いだった。


 少尉を狙っても、同じ結果だったが。


 どちらかが倒れても、「Spectersスペクターズ支援部隊」が黙っちゃいない。


Spectersスペクターズ支援部隊」は、「Spectersスペクターズファンクラブ」みたいなものだから。


 ガチファンをブチギレさせたら、超怖いぞ。


 実は、「Spectersスペクターズに入隊したがる者はいないのだが。


Spectersスペクターズ支援部隊しえんぶたい」への志願者しがんしゃは、あとたないという。


 我が軍最強の特殊精鋭部隊とくしゅせいえいぶたい


 近距離戦闘の戦闘狂、少尉。


 遠距離狙撃の専門家、曹長。


 最強Buddyバディに付いていけるヤツなんざ、誰もいねぇのさ。


 噂によると、「死神と地獄の番犬」とかなんとか呼ばれて、敵さんに恐れられてんだと。


 ずいぶん御大層ごたいそうな(大げさすぎる)二つ名ふたつな(別名)を付けられたものだ。


 確かに、Spectersスペクターズなのだが。


 ふたり揃って、頭のネジがぶっ飛んだバカな上に、天然ときている。


 要ツッコミ。


 敵さんに、教えてやりてぇわ。


「てめぇらが恐れてる『Spectersバケモノども』は、」ってな。

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Specters《スペクターズ》 橋元 宏平 @Kouhei-K

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