部屋にフィギュアと寝癖

「初めまして。よろしくお願いします」


 彼、緒方直史おがたなおふみは言った。


「初めまして。川口菟萌かわぐちともえです」




 2人の物語、始まりました―――…。






 直史は、私の1つ年下で、今年、新入社員として、私の前に現れた。友達からも大人びている、慎重、現実的と言われる私が、こんな唐突に恋に墜ちるなんて、思ってもいなかった。そんな一目惚れを気付かれないように、私はよそよそしく…冷たく?挨拶をした。



 直史は、身長が低かった。160㎝くらい。4㎝のヒールを履いた私に、身長を優に超えられてしまう。まぁ、可愛いと言えなくもない顔立ちではあったが。でもなんで、こんな頼りなさそうで、ちっちゃくて、寝癖が付いたような頭で毎朝出社してくる男に、社内でも人気がある(…自分で言うのもなんだが…)私が惚れなければならないのか…。


 でも、人は見かけによらない。と言うのは、私の友達が証言してくれるだろう。先ほども言った通り、私は、割と美人で、上司、先輩、同期いずれからも好意を抱かれることが多かった。しかし…。


「え?一目惚れ?」


 寛子ひろこが少し同様しながら、紅茶に手を伸ばす。


「…」


私自身も驚いているのだ。


「まさか…そんな言葉が出てくとは…」


「…それは…」


 言い返せない。私は、極度の恋愛下手なのだ。何とも思ってない男の人には、何でもないない態度で接することが出来るのに、好きになると、ものすごく緊張して、恥ずかしくて、目も見られない。


「菟萌は、見た目は本当に大人びてるし、行動は慎重だし、男に変な妄想を抱かない現実的な女だけど、本当に恋愛下手だよねぇ…まったく…」


 呆れるわ…と、溜息を吐いたと思ったら、寛子はこう続けた。


「それも…まさか一目惚れだなんて…」


「う…そう…だよね」


 話さなきゃよかった…と私は思った。だって私だって自分でそう思っているんだから。もう、頭をずーっと叩いていたいくらい混乱しているんだから…。だけど、こう思っている人もいるのではないだろうか?『人気があるなら、告白された事もあるだろうし、付き合った事だってあるんでは?』と…。もちろんだ。告白は、中学生の時から、付き合ったのは高校1年生の1学期。…でも、私は緊張して、恥ずかしくて、目も見られないから、『嫌いなの?』とか『つまんない』とか『イメージと違う』とか…様々な理由でフラれてしまうんだ。



しかし、それ以上に、私にはもう一つ大きな岩を胸に抱えていた。

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