5
舌を絡める。
息を荒げる。
胸を押し上げる。
私は、必死に痛みに耐える。
未経験とは思えないほど激しく、羅賀は私を抱いた。
私は、処女を捨てる覚悟をした。
「はぁ…菟…萌ちゃん…僕の事…好き?」
「ん…!あ…ん…す…き…」
その言葉に、ホッとしたように
本当に、傷をつけて…。
その後、半年、私は、安心して羅賀の隣にいることが出来た。目を見つめることが出来た。手を繋ぐことが出来た。キスをすることが出来た。セックスをすることが出来た。何もかも、捧げる事が出来た…。もう、この人と一生一緒にいられるものだと、私は、確信していた。
「菟萌ちゃん、この子はね、
「へー。このツインテールが可愛いね。なんか、私には真似出来ない可愛さ…」
「…」
急に、羅賀が押し黙った。私は、何かいけない事でも言ったのか…と、また、何か気に障るような事をしているのか…と、久々に不安になった。しかし…、
「菟萌ちゃんて…本当に変わってるね!!」
と無邪気そのものの笑顔で、私に言った。
「はぁ?」
私は、思いっきり素っ頓狂な声を上げた。
「だって、アイドルの話なんて、そんな興味津々で聞かないよ?僕、こんな話でドン引きされたり、気持ち悪がられたり、偏見の目で見られたり、色眼鏡を煌々と照らされて見られた事はあっても、まさか、初めて出来た彼女に、そんな風に受け入れてもらえるなんて思ってもなかったよ!」
羅賀は、嬉しそうに、私が、羅賀に会って初めて感じた想いを全部込めたような言葉で、私を褒めた。
「…何それ…まるで、私が言った言葉そのまんまじゃん…」
「あれ?バレた?菟萌ちゃん鋭い!!」
「何よもう~!!いつまで根に持ってるのぉ?」
「ごめん!嘘だよ嘘。だって、菟萌ちゃん可愛いんだもん!」
そんな言葉を、私より可愛い顔をして言う羅賀を、可愛い、と私もまた思うのだった。羅賀のリュックには、相変わらず大量のオタクぶりを窺わせるキーホルダーやステッカーがジャラジャラ音を鳴らしていた。私たちが、お互いの写真を見せ合ったり、羅賀がフィギュアを新しく揃えた、と大声で友達と話している私に走り寄って来たり、映画館で感動して、メソメソと観客の誰より鼻をすする羅賀にハンカチをスクリーンを向いたまま無表情で見続けたまま渡していたり…。そんな私たちを、みんな最初は変な目で見ていた。しかし、
「本当に仲良いね、菟萌と羅賀くん」
「なんか、面倒見の良い姉と駄々っ子の弟みたいで笑える」
「川口って意外と親しみやすいのな。俺、もっとクールだと思ってた」
などと、温かい目で見守ってくれるようになっていた。
ある朝、羅賀のアパートで、セックスをした後、羅賀は言った。
「僕…本当に幸せだ。菟萌ちゃんみたいな素敵な子とで出逢えて…」
「うん…。私も。今まで上手く行かなかった恋愛は…キスも、セックスもしなくて、良かった…」
その3日後の事だった。
長野県の白馬岳へ登山に行った羅賀は、崖から滑落し、亡くなった―――…。
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