第9話 終わりと始まり

 バトォは二人を見ると頭を抱えて叫んだ。


「Holly Shit!! おい!! 相棒!! これはどういうことだよ!?」


 ララを指さして明らかに動揺している。


「はじめまして。ララです。ルル君に海まで運んで貰うことになりました!! よろしくお願いします」


 ララはそう言って微笑んだ。


「ああ。これはご丁寧に……ん!? ルル君!? 誰だそいつは!?」


 バトォはそう言ってナナシを見つめた。


「Amazing!! お前か!? お前のことか!?」


 バトォはそこまで叫ぶと壁に手を付いて俯いた。小刻みに肩が震えている。



「バトォ。悪かった。勝手に依頼を受けちまって…」


 ナナシがそう言ってバトォの肩に触れようとした瞬間…



「ナァッハハハハハ!! ルル君!? ヒィー…ヒヒヒ!! お前がルル君だって!? ヒィーッヒヒヒ!! 解ったぞ!! 可愛い名前が恥ずかしくてずっと黙ってたわけだ!! そうだろ!? ヒィーッヒヒヒ」


 ララは口に手の平を当てて横目でナナシを見た。ナナシはジトっとした顔でララを睨んでいる。

 


「ゴメンね。言っちゃ駄目だった?」



「もお遅えよ…」



 バトォは笑い終わると二人に向き直った。サングラスを外したその目は真剣な眼差しに変わっていた。



「いいか? よく聞け。これから箱庭は戦場になる。さっきブツを取りに来た反政府軍の男が言ってた確かな情報だ……お前達二人は今すぐ街の西の外れに向かえ。そこから壁を登って壁の外に出るんだ」




「バトォ!! お前はどうするんだよ!?」


 ナナシが叫んだ。


「惚れた女を残して逃げられるかよ。安心しろ!! アリシアとプリマを連れて俺も後を追う。お前も大事なもんが見つかったんだろ?? わかったらさっさと行け」


 ナナシは少しだけ俯くと顔を上げて、真っ直ぐにバトォの目を見つめた。


「絶対死ぬなよ」


「壁の外で会おうぜ」


 二人は腕を交差させると拳をぶつけ合った。


 バトォはピアノが置かれた廃駅に向かって走り去った。




「ララ、俺達も行こう!!」


「うんっ…!!」




 二人は手を繋いで夜の闇を駆け抜けた。

 背後では喧騒が大きくなり

 やがてそれは戦火へと変わっていった。


 それでも二人は振り返らずに走った。

 西の壁にたどり着くと

 二人は無我夢中で壁をよじ登った。


 爪が割れ血が滲んだ。

 それでも二人は構わず登った。


 ついに壁の上に立った時

 一迅の強い風が吹き抜けた。

 ルビーのような緋い風だった。


 振り返るとドーナツ型の箱庭が見えた。


 そして箱庭の内側にそびえる上流都市バビロンが見えた。



 箱庭からバビロンに撃ち込まれた弾頭は緋色のガスに変わり世界を包んでいく。



 ルルとララは緋いガスの風に吹き飛ばされて壁の外に堕ちていった。


 ルルはララを抱きしめる。

 落下の衝撃を和らげるために。

 薄れゆく意識で必死に糸口を探す。


 生き残るための糸口を。

 掴むことのできる命綱を。


 しかし無情にもそんなものは無かった。


 ルルとララは見つめ合った。

 落下する濃縮された時の中で

 二人は一生分の時を見つめ合った。



 「生まれ変わったら

  今度こそ二人で海を見に行こう」


 「うん…」


 「綺麗な景色を

  いっぱい見に行こう」


 「うん…」


 「美味いものも

  いっぱい食べよう」


 「うん…」


 「バトォとアリシアとプリマも呼んで

  皆で一緒にパーティをするんだ」


 「うん…」


 「それから…」


 「それから…」


 二人は小さな約束を胸に堕ちていった。



 壁の外の砂漠には始まりの世界が拡がっていた。



 ちょうど同じ頃、二匹の小さな歌ネズミが砂漠の砂の上にポスっと音を立てて落下した。




 退廃の箱庭エデン

    ー完ー



see you again at the another world....!!

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退廃の箱庭(エデン) 深川我無 @mumusha

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