第8話 失楽園
馬鹿だと解っていた。それなのにナナシは涙を流す少女に振り返ってしまった。あろうことか声をかけてしまった。
何もしてやれないというのに…
そんなナナシをララは目を丸くして見つめていた。
沈黙。静寂。静謐。
涙を拭ったララはにっこりと微笑んで言った。
「ねえ知ってる?
青い…う・み…?
そんなモノがこの世界にあるのだろうか?
赤土の地面と血の赤。
それ以外の色なんてどこにもないじゃないか?
「一度でいいから見てみたかったなー」
そう言ってララは寂しそうに微笑んだ。
「でも無理なの。わたしはここから出られないんだ。わたしの血は特別なんだって。生き物の遺伝子を書き換えるための、画期的な免疫透過作用があるんだって。意味はよく解んないんだけどね……」
ララはハハハ……苦笑いしてから話を続けた。
「政府はこの血を研究して新しい兵器を作ってるの。そうなったら今度こそ世界が終わっちゃう。それが嫌だから反政府軍の人にわたしの血をあげるの」
そう言って微笑むララの頬に灰色の涙が流れた。
嫌だ。って思った。
ララが灰色の涙を流すことが
たまらなく嫌だって思ったんだ。
「俺がララを海に連れて行ってやるよ」
気が付くとナナシはそう言ってララの手を握っていた。
「だから…俺に依頼してくれ。わたしを海まで運んでって」
それを聞いたララは、しばらく驚いたような顔でナナシを見ていたが俯いて小さな声でつぶやいた。
「そっか…その手があったか…」
「でも…いいのかな…」
「・・・」
黙って俯くララをナナシも黙って見つめていた。
しばらくするとララは顔を上げて、七色の虹彩を輝かせながら、涙を流して笑った。
「わたしを…わたしを海まで運んで!!」
ナナシはララの目を見て頷くと、窓から下にいるバトォに向けて合図を送った。
すると鏡の反射で光を送り、バトォが合図を返してきた。
ナナシは用意していた、パラシュートコードを部屋の柱に結んだ。
その端に例のケースを結んでバトォに垂らしていく。
バトォからはブツを回収した合図が送られてきた。
「ララ!今からここを降りる。俺を信じられるかい?」
ララはうーんと考え込んでからいたずらっぽく笑って言う。
「本名を教えてくれたらね」
ナナシは頷くとララの腰に手を回し、パラシュートコードにエイト環を掛けて垂直降下の準備をした。
「俺の名前は…」
ルル…
こうして二人は夜の闇の中を真っ直ぐに降下していく。
ララはナナシの真剣な眼差しを静かに見つめていた。
その視線を感じながら、ナナシは慣れた手付きでロープを送っていく。
腕の中に温かな鼓動を感じながら。
これはララの鼓動?
それとも俺の…?
そんなことを考えているとそっと足に地面が触れた。
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