第7話 Tears In Heaven

「変なの!! 名無しが名前だなんて」

 

 ララはナナシの名前を聞いてゲラゲラ笑った。

 

 お腹を押さえて笑い転げるララにナナシが反論した。

 

 

「ほ、本名じゃねぇよ!!」

 

 

 ララは目の端にできた涙の珠を人差し指で拭いながら言った。

 

 

「じゃあ本名は?」

 

 

「それは……」

 

 

「やっぱ変なんだー!!」

 

 

 

 そう言ってララはまた笑い転げた。

 

 笑い転げるララ。

 

 笑われているというのに不思議と悪い気はしない。

 

 

 

 ナナシはそれでも少しムスッとしながらララを観察した。

 

 よく見るとララは傷だらけだった。

 

 左腕は包帯でぐるぐる巻だったし、足や首にもガーゼや包帯が見え隠れした。

 

 

 

「なあ。あんた……」

 

 

「ララだよ!!」

 

 ララは怖い顔で睨んでみせた。

 

 

「ララ……」

 

 それを聞いてにっこりと微笑む。

 

「なあに?」

 

 

「俺は運び屋だ。ここに来れば荷物が分かるって言われてきたんだ。あん……ララは何か知ってるか?」

 

 

 名前を言い直したことに満足そうに頷いたララは、振り返ってパタパタと駆けていった。

 

 

 

「これだよ」

 

 

 そう言ってララはケースを開いた。

 

 中から出てきたのはルビーみたいに真っ赤な液体が入った丸いフラスコだった。

 

 

「これは?」

 

 

 ナナシの質問が聞こえなかったのか、あるいは無視したのか、ララはソファにドサッと腰掛けた。

 

 

 

「それを反政府軍のリーダーに渡して」

 

 真剣で冷ややかな眼差しを向けてララは言った。

 

 

 

 ナナシはまっすぐララの瞳を見つめた。

 


 紺碧の瞳が徐々に濡れていき、光を乱反射するのが分かった。


 やがて紺碧の海から一筋の滝が地に向かって流れ落ちる。

 


 

 

「わかった……」

 

 

 そう言ってナナシは窓から去ろうとした。

 


 厄介事に首を突っ込むべきじゃない。

 

 ただでさえ反政府軍と関わり合いになるなんてろくな目に合わないに決まってる。

 

 

 それなのに…… 

 

 

 どうして俺は……

 

 

 振り返って……

 

 

 

「涙の理由を聞かせてくれよ……」



 俺はこの時

 美しく光る宝石みたいな涙を見て

 ここは天国なんじゃないか?って

 思ってしまったんだ。

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