第6話 ボーイ・ミーツ・ガール
ナナシはどさりと窓の中に転がり込んだ。
心臓が激しいリズムを刻んでいる。
生きてる……!!
アドレナリンがもたらす激しい高揚感と脈打つ心臓。
それはナナシに命の実感を与えてくれる数少ないリアルな物だった。
ふと気配を感じて、そして思い出したようにナナシは顔を上げた。
そこには一人の少女が立っていた。
紺碧の瞳を輝かせて、少し頬を上気させながら、こちらを見て佇む少女。
ナナシは思わず唾を飲み込んだ。
ゴクリと音が鳴って、後悔した。
この娘に聞かれただろうか……咄嗟にそんなことを考えた。
そして自分の身に起こった変化に驚愕する。
胸が熱い。
冷えて固まった鉄のような心臓。
怒りに焼かれて溶けた鉄が冷えて固まった。そんな心臓。
それが再び熱を帯びている。
トクン……
トクン……
アドレナリンの高揚感とは違う。
ドーパミンが生み出す集中力とも違う。
生温かくて、気恥ずかしいような。
産まれたての赤ん坊の肌のような。
肉の心臓が脈打つ音がする。
「あなたが運び屋さん?」
硝子のように透き通った声が聞こえた。
「えと……お、俺は……」
ナナシは咄嗟にうまく返事ができずにまごついた。
「フフフ……」
少女は可笑しそうにクスクス笑った。
彼女が声を発するたびに、違う色をした硝子の破片が宙を舞い散って、美しい光彩を放つようだった。
「わたしはララ。あなたは?」
「お、俺は……」
ララはナナシの次の言葉を待っているようだった。覗き込むようにナナシの顔を見つめている。
「俺はナナシ。運び屋のナナシだ…」
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