管理者と模倣者の一幕

「チェックメイト」


目元まで伸びた銀髪の隙間から覗く目が得意げに対面する黒髪ロン毛のスーツにシルクハットの男に向けられる。


「あちゃ〜」


やっちまった、と言わんばかりにスラリとした体を椅子に預ける。シルクハットも頭からずり落ちた。


ここは真っ白な空間に均等の並べられた本が果てしなく上下左右前後に並んだ空間。


そこで銀髪の少年と黒髪ロン毛の大人のように見える2人はチェスをしていた。


「これで僕の勝ちだね。」


机に置かれた紅茶を飲みながら銀髪の少年は一息つく。


「でも、481676勝481675敗だろ。」


シルクハットを拾いながら答える。


「そういう君は481675勝481675敗じゃないか。僕の勝ちだろ。」


んぐっと、言葉をつまらせ拾ったシルクハットを見つめる。


「んーーー、もう1回だ!いや、2回、3回だ!」


やいやいと騒ぎながら地団駄を踏む。


「全く、しょうがないな。」


呆れたように肩を竦めながらチェスの駒を初めの位置に戻し始める。


「ん?」


シルクハットを被りながら後ろを振り返る。


「君も気付いたかい?」


「まぁね。」


「全く、これで5000回目だよ。」


ため息混じりに愚痴る。


「でも、そのために僕を呼んだんだろ。」


こちらもため息混じりに愚痴りながら、シルクハットの位置を微調整する。


「まぁね。」


そういう少年の右手にはいつの間にか真っ白な表紙の1冊の本が握られていた。


「ふむ、真っ白だ。何も書かれてない。これまで通りだ。」


ペラペラと捲り最後まで何も書かれていないのを確認すると本を閉じ、ロウソクの火を消すように息をふきかけた。


「頼む。」


その本を対面の大人に手渡す。


「これで5000回目か。まったく慣れたもんだよ。」


胸ポケットから万年筆を取り出すと口でキャップを開け、サラサラと白紙の本に書き始めた。


「助かるよ。」


「チェスの相手になってもらってるからな。」


キャップを口にくわえたまま器用に喋る。


「こんなもんか。」


5分程だろうか。万年筆にキャップをし、本を少年に返した。


「『多少』は異なるが、ほぼ同じだ。」


「助かるよ。」


本をペラペラと捲り確認する。


「うん、文句なしだ。それにしてもまた彼らか。懲りないね。」


少年は呆れ半分に文句をこぼした。


「ホントだよ。まったく。」


同意だと頷く。


「まぁ、僕は何も出来ないからしょうがないけど。君は何とかできるんじゃないのか? 」


銀髪の隙間から今度は鋭い視線を向ける。


「今は君とのチェスで忙しいからなぁ〜」


わざとズズっと音を立てて紅茶を飲む。


「確かにそれもそうだね。すまない、席を外す。」


少年は本がもともとあった場所に戻すために席を離れた。


シルクハットの大人はひとりチェスの駒を戻しながら独り言を漏らした。


「あんなのになられちゃ、お手上げだよ。」





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