二十二 「街灯」 塾帰り

塾の帰り道、人通りの少ない道路をとぼとぼと歩く。街灯が切れかかって点滅していた。

季節も冬が近くなっていたので街灯の当たらない道路はほとんど何も見えない。


等間隔に並ぶ街灯のひとつ、私の行先にある数メートル先の街灯が数秒の間、消えて、道路にぽっかりと暗闇が現れる。

道路の管理をちゃんとしろという悪態を頭の中で吐き、その暗闇への恐怖を遠ざけようと試みる。


その数秒後、チカチカと街灯が点滅し、道路の暗闇が晴れる。

数十メートル先にある職務怠慢の街灯。

不安を隠しきれずにゆっくりとした歩みで近づいていく。


また、街灯が不意に消え、闇が現れる。

その暗闇に足を踏み入れるのが恐ろしくなり、街灯が点くまで足を止めることにする。


数秒後、街灯が点滅する。


ストロボの中に、人影を見る。


あんな暗闇の中を歩けるなんて、胆力のある人だな、と呑気に考える。

また、街灯が点滅する。


明滅する光に照らされた誰かは、立ち尽くし、こちらに歩いてこない。


また、街灯は消える。

冷静になって考える。

向かいから誰も歩いて来ていなかったはずだ。脇道はない。

あの人はどこからやってきたのだろう?


街灯が点滅する。

誰かが立ち尽くしている。

異様に髪の長いなにか。

白い、真っ白な人間のような。


街灯が消える。

次は、点いたままになってしまうかもしれない。

でも、あれが、勘違いであることを、人間であることを、確かめて安心したい。

足が動かない。


街灯が点いて、消えない。

そこには誰もいない。


誰もいないという安堵共に、あれが人間ではなかったことを確信してしまう。


恐怖を振り切って走り出そうとする。


私を照らす街灯が消える。


耳元で囁かれた。


「私の顔、思い浮かべたね。」

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テレビ野_灯里 @tv_no_akari

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