最終回



柳 由紀子:「ありがとう」


由紀子さんは俺に優しく微笑んだ。


望月 愼介:「いや、元はと言えば俺がキッカケなんで少しでも役に立てて良かったですよ」


柳 麗奈:「私、慎介君とリハビリ楽しかったよ!」


そう言ってくれる麗奈の目線に合わせるように俺はしゃがみ込む。


柳 麗奈:「幽霊だから歩けるようになってるけど、生きてるうちに一緒に鬼ごっことかしたかったな」


望月 愼介:「そうだな、俺も走り回るの目標にしてたからな」


走れるようになった麗奈と、香奈と俺たちで鬼ごっこをしているのを想像して思わず口元が緩んだ。


柳 香奈:「また、会えるかな?」


そう言ったのは香奈だった。


望月 愼介:「いつでも会いに来いよ」


柳 麗奈:「私、生まれ変わったら慎介君の子供になりたい!」


柳 香奈:「あ! 私もなりたい!!」


麗奈が俺の右手を握ると、真似をして香奈も俺の左手を握った。


望月 愼介:「おいおい、子供なんていつになるか……彼女すらいないんだぞ俺は」


その言葉に麗奈と香奈は不思議そうな顔をして首を傾げた。


柳 麗奈:「え? 神澤さんが彼女じゃないの?」


柳 香奈:「抱きしめてたよね?」


望月 愼介:「……おい、お前らいつから俺に憑いてたんだよ」


神澤 真梨菜:「望月さん? 何してんの?」


望月 愼介:「げっ!?」


見上げれば、今登場してほしくない神澤が不機嫌な顔で立っていた。


神澤 真梨菜:「何よ、その反応は!? 車に向かうから呼びに来たのに!」


望月 愼介:「分かってるけど……」


神澤に怒られている俺を見てクスクスと双子に笑われ、恥ずかしくなる。


立ち上がると由紀子も笑っていたのでバツが悪くなり、柳家に背を向けた。


望月 愼介:「今、麗奈たちと話してたんだよ。見りゃ分かんだろ?」


そういえば怒っていた神澤は眉をハの字にして苦笑いを浮かべた。


神澤 真梨菜:「もう私たちには見えなくてさ。元々見えるほどの霊感なんて無いし。脱出したら元に戻っちゃったみたい」


だから麗奈たちと話をしてたのに『何してんの?』と聞いてきたのか。


神澤 真梨菜:「昌暉君の事探してるんだけど、陣内ちゃんたちも見えないから見つけられなくてさ」


遠くを歩く陣内と軽部を見れば、確かに周りを気にしながら車に向かっている。


昌暉なら2人の近くに居ると思ったんだが、俺にも見つけられなかった。


そういえば冬樹の肩を抱いている誠也も見当たらない。


そこで俺は、はっとして振り返る。


そこには麗奈も香奈も由紀子も居なかった。


いや、見えなくなっていた。


望月 愼介:「神澤……俺も見えなくなってるわ」


見える間に、別れの挨拶をし損ねてしまった。


神澤 真梨菜:「日常に戻ったんだね」


神澤は微笑みながら、悲し気に呟いた。


望月 愼介:「あぁ、そうだな。そう感じたらタバコ吸いたくなってきたな」


何時間も吸っていないから、ヤニ切れしている。


神澤 真梨菜:「車にカートンあるでしょ?」


歩きながら神澤は溜め息交じりに俺を見た。


望月 愼介:「あぁそうだった。車出す報酬でカートン貰ってたんだったわ。ラッキー」


隣を歩きながら10箱ある愛しい煙草を思い出した。


神澤 真梨菜:「あぁああ!! そうじゃん!! 私UFOの写真撮りに来たんだった!!」


望月 愼介:「俺もお前も、首にぶら下げてたカメラ無くなってるよ」


神澤 真梨菜:「いやー! マジだ!! どうしよう、まだパソコンに移してないデータあったのに」


望月 愼介:「仕方ないだろ、新しいカメラ買ったらまた連れてきてやっから」


神澤 真梨菜:「そう言ってまたカートン狙いでしょ」


望月 愼介:「んなわけあるか……神澤ならどこでも好きとこ連れてってやるよ」


神澤 真梨菜:「寄り道で廃墟には行かないでよね」


望月 愼介:「さすがに俺も、そこまで命知らずじゃねぇよ」


神澤とくだらない事を言い合いながら歩き出す。


そして俺はその足をすぐに止めた。


神澤 真梨菜:「どうしたの?」


神澤も足を止めて振り返る。


望月 愼介:「なぁ、神澤。鬼ごっこ……しないか?」


俺の提案に「何を言ってるの?」という顔をした後、神澤はクスっと笑って頷いた。


神澤 真梨菜:「いいけど、どっちが鬼?」


望月 愼介:「俺たちは逃げる側だよ」


神澤 真梨菜:「じゃぁ、小さな鬼から急いで逃げないとね」


神澤は足首を回して走り出す準備を始める。


望月 愼介:「刑事さんの車まで逃げきれたら俺たちの勝ちだ」


神澤 真梨菜:「……でも、望月さん、その足で走れるの?」


神澤は血が染み込んだ俺のスニーカーを見下ろす。


望月 愼介:「ハンデだ。でも神澤だって足痛めてるだろ?」


神澤 真梨菜:「望月さんほどじゃないけどね。まぁ、みんな優しいから鬼は手加減してくれるよ」


望月 愼介:「それじゃ、いくぞ……よーい、ドン!」


俺たちはお互い脚をかばいながらも、走り出した。


望月 愼介:「ようやく、一緒に外で遊べたな」


亡き友たちを思い出し、俺は静かに呟いた。




♡♡♡


《ゲームクリア トュルーエンド》

Thank you for playing……


♡♡♡

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心霊写真 月桜しおり @Shiori_Tsukasa

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