童話のようでもあるし、哲学のようでもある。深層心理を描いているようにも思える不思議な物語でした。
ただ、この物語には読者を包み込むような優しさがあることは確かです。
宇宙を旅するポセと惑星に住み続けるチセ。2人は昔からの知り合いのように仲良くなりますが、同時に心の暗闇のようなものを感じ取ります。本作にて暗闇は寒さとして表現されています。
帰る場所のない孤独なポセの不安。
今いる場所から動くことのできないチセの不満。
2人が抱える寒さはお互いを理解し合う2人によって温められていきます。
あなたも本作を読んで不思議な世界に浸ってみては如何でしょうか。
まずは五感を揺さぶる詩的で楽しい描写を堪能していただきたい。
『海王星の大気を染み込ませたような青いショートトレンチコート』
『カラフルなアイスクリームのように夜空』
『金星の砂色のバンドカラーシャツ』
この他にも、たくさん出てきます。それらは、今まで見たことも聞いたこともない比喩表現でありながら、しかし想像に難くなく、寧ろこの世界が持っている幻想性を想像することを促してくれます。
次に登場人物のポセとチセ。
ポセは彗星に乗って旅をしています。その設定だけでもものすごく楽しい。
一方惑星人のチセは底抜けのやさしさを持った人物です。
やさしさと言うのは、人を救うための優れた機能です。しかし、それを自分のために使ってあげられないとしたら、どうか。
やさしさは呪縛になってしまうのではないか。そう言った呪縛から解き放ってあげたいと言うのは自然な考えですが、簡単なことではない。
それらの簡単ではない『しがらみ的現実』を、とても幻想的かつ身近に感じるように表現している。そして、キャッチコピーの『君の惑星を壊したい』と言う言葉が、とても身近な言葉に感じられるのです。
名作と言うのは、不特定多数の誰かのために創られたものにも関わらず、「これは自分のために創られたんだ」と錯覚してしまうものです。
この作品はまさにそうだと思いました。
あなたのために書かれた壮大な宇宙の物語。五感を総動員して、感じ取ってみてください。