ドキッ!?女だらけのトロピカル因習アイランド!!

藤ともみ

ドキッ!?女だらけのトロピカル因習アイランド!

……打ち寄せる波の音で、目を覚ました。

 気がつくと俺は、籐でできたベッドに横たわっていた。起き上がって辺りを見回せば、漆喰でできた壁に穴を開けた、ガラスのない窓からは青い海と砂浜、やたらとでかい植物が生い茂る風景が見えた。以前ミヨちゃんと一緒に行った、南国リゾートホテルに似ている。

「ここは……みんなは!?」

 友達とヨットに乗り、沖に流されて嵐に巻き込まれて、それで……

「オッ、オキたカ!」

 突然声をかけられて驚いた。声の主を見ると、褐色肌の女の子が、飲み物が乗ったお盆を持って立っていた。飲み物は鮮やかなブルーハワイ色で、ストローには黄色い花が飾られている。髪は派手なオレンジ色で、頭にはハイビスカスっぽい花をたくさん飾っている。化粧が独特で、目元と鼻筋と口を白く塗っていて、耳にはピアスがたくさん空いていた。

「テッペーとマサル、オマエのトモダチ、さきにオキタ。ゲンキゲンキよ」

「あの、ここ日本じゃないんですか!?俺たち九十九里から来たんですけど……」

「クジュー……? ココはメスガ島、ステキナところヨ。島の外カラノ男、ウェルカムよ〜」

「メスガ島……?」

そんな島、聞いたことがない。ここがどこなのか、もっと詳しく話を聞こうとしたが。

「女王サマ待っテル。コレ飲メ。早くシロ、このブタヤロウ」

「日本語が不安定」

 ともかく、お盆に乗っていたブルーハワイ色のトロピカルなジュースを飲むと、彼女の案内に従って、建物の中を進んだ。

 案内された先では、友達の徹平と優が、褐色肌の若い女達に囲まれて、山盛りのフルーツを食べていた。

徹平てっぺいまさる!無事だったんだね!」

「おー圭介けいすけ、この島サイコーだぜ!メシは旨いし女はみんな美人だし。」

「なんでもこの島には男がいないそうですぞ。非モテの拙者でもホレこの通りでござるデュフフフ」

「そ、そうなんだ……それより、ここがどこなのかはわかってるのか?メスガ島なんて聞いたことないぞ」

 料理上手のミヨちゃんがいる僕には、島の料理も南国の美女も正直どうでもいい。ここがどこにある島なのか把握して、帰る手段を探さなければ。二人と話そうとしたところで、突然陽気な音楽が流れ始めた。

 音の方を見ると、マラカスやスチールパンで、女達が陽気な、しかしどことなく神聖な感じのする音楽を奏でている。部屋の奥から、少し年配で、アクセサリーもなんとなく重厚な、女性が厳かな様子で言った。 

『女王陛下のおなり〜!』

「女王サマ来タヨ、頭下げてネ」

……アレ? 現地語ただのフランス語だな? ってことはフランス領の島なのか!

 そうとわかれば交渉も容易い。けれど取り敢えず女王様を待つことにして俺は頭を下げた。

 やがて、お付きが花を撒いた道に、女王様が現れた。腕や首を黄金の輪で飾り、頭には王冠をかぶっている。美しく威厳がある様子だった。

『お前達。この島に一度入ったからには、生きてこの島から出すわけにはゆかぬ』

「歓迎シマス。ドウゾこの島にゆっくりイテ、クダサイ」

 え……?通訳が違うこと言ってる……生きて出さないとか言ってるぞ!?

『この島では、弱い男は死ぬか、一生女たちの奴隷じゃ。一度だけチャンスをやる。我と相撲を取れ。もし私に勝てたのなら、願いをひとつ聞いてやらんこともない』

「私とおスモウをとってクダサイ。勝ったらゴホービあげマース」

 フランス語がわからな徹平と優はキョトンとしている。

「相撲……? 何ゆえ……???」

「そういう文化なんじゃねーの? まあ郷に入っては郷に従えって言うしさあ」

『しかしひ弱そうな若造たちじゃ。奴隷として使い物になるか怪しいのう。戯れに首をへし折ってニワトリの餌にしてやるか!ハハハハハ!!』

「トテモ楽シミデス。今日の夕食は太ったチキンにシマショウ」

 まずい……!!このままだと俺たちはニワトリの餌にされて、島の女たちに食べられてしまう。

 なんとか逃げないと、と思うけれど、にこにこ笑いながら俺たちを取り囲んでいる女たちに隙はない。そうこうしているうちに、貝殻や石で円を描いた、簡易な土俵が用意され、相撲の準備が整ってしまった。

「じゃあ俺から行こーかな?」

「行け〜徹平殿〜」

「徹平! 負けたら駄目だ! 本気でやれよ!」

「え、余興みてえなもんだろ? 本気で女とやり合う気ないんだけど……」

「いいから本気でやれ!!」

 徹平は普段からジムで鍛えていて、体力はある方だ。頼む、なんとか勝ってくれ……。

 対する女王は、長い腰布を脱ぎ捨てて、ビキニのような格好になった。あらわになった太腿に、徹平が、おお、と目を見張るけどマジでそれどころじゃねーんだよ!? 

「じゃあ、まーお手柔らかに……」

「ハジメ!!」

 審判が合図をした瞬間。女王は目にも止まらぬ速さで徹平に向かって突進し、腰をガッと掴んだ。

「えっ速……うわっ!?」

 女王はそのまま、徹平を赤子のように持ち上げる。そしてそのまま、思いっきり地面に叩きつけた。

「ガッ……!?」

 驚く徹平に立ち上がる隙を与えず、女王は一方的になぶる。投げ飛ばし、蹴り飛ばし、徹平が血を流しても一向にやめようとはしない。オーディエンスの島の女たちは、徹平がボロボロになっていく姿を見て、手を叩いて喜んでいる。

「た、助けて……」

「徹平!!」

「ひ、ヒイィィィ!!」

 事態の深刻さを理解した優が、慌ててその場から逃げ出そうとする。でも駄目だった。あっという間に女たちに押さえつけられてしまった。

「逃ゲルなんてサセナイヨー?」

優を取り囲んだ女たちは、何やらぶつぶつ唱えながら、ドン、ドン、ドン、ドンと足を踏み鳴らしている。優は怯えて動けなくなってしまった。

「テッペー、もう動かナイよ。ケースケのバンだヨ?」

 はっとして見れば、徹平は血と泥に塗れて気絶していた。女王はかすり傷ひとつ無いようだ。クソ……!!徹平の仇をとってやる。でもこの女に腕力で勝つのは無理そうだ……ええい、イチかバチか!!

「ハジメ!!」

「……あーーっ!!雪!!」

俺が叫んで空を指差すと、島の女たちが一斉に空を見上げた。女王もだ。よし今だ!

「うおおおおおおぉ!!」

「………!?」

 全力で女王にタックルをかます。隙を突かれた女王が、どうと倒れた。

 シン……とその場が静まり返る。

『……約束だ。俺たちを開放して日本に返してくれ』

 俺はフランス語で女王に言った。女王は俺が言葉を話したことに一瞬驚いて目を見開き、しかし次の瞬間ギロリと俺を睨みつけた。

『許さぬ、殺す』

女王が言うと、女達が一斉に俺を取り押さえた。

『待て!勝ったら願いを聞いてくれるんだろう!?』

『あんなものを勝利とは認めぬ。卑怯者め。死ぬがよい』

 一人の女が、巨大な鎌を女王に差し出す。女王は鎌を受け取るとジリジリと俺に迫ってくる。

 俺は抵抗しようとしたが、急に膝からがくりと力が抜けてしまった。頭もフラフラする……まさか、目覚めたときに飲んだトロピカルドリンクに何か盛られたのか……!!

 目眩を覚えながら、俺は力を振り絞って叫んだ。

「助けてミヨちゃーーーん!!」

 俺が叫んだその時。突然、ドゴォ、と音がして、建物が揺れた。漆喰の壁がガラガラと崩れ落ちる。立ち上がる煙の中から、人影が現れた。

「悪いが最短ルートをとらせてもらった。無事か、圭介」

「ミヨちゃん!!」

 そう、彼女こそ僕の最愛の恋人。あらゆる武術に精通した、現役の女性傭兵だ。

 ミヨちゃんを見たボロボロの徹平が声を上げた。

「あっ圭介のゴリラ彼女!」

「ミヨちゃんを侮辱するな!ミヨちゃんはゴリラより強い!」

「褒めるのは後にしな。で、アンタ何したんだい」

僕が言うより早く女王の付き人が捲し立てた。

『その男は神聖な勝負を穢したのだ!!女王陛下を騙し討ちなど許せぬ! 死を持って償ってもらう!』

「あー……また小細工で何とかしようとしたな?しょうがねぇな、アタシがケツ拭いてやるよ」

 ミヨちゃんはそう言うと女王に向き直る。

『連れ合いが無礼な真似をして申し訳ありませんでした。代わりに私が貴女と勝負を致しましょう。』

『……ふん、負ければ貴様の命はないぞ』

『もちろんです。そのかわり、私が勝ったら、この男たちと一緒に日本に帰ることをお許しいただけますか』

『良かろう』

 かくして、ミヨちゃんは女王と勝負することになった。

「ハジメ……!!」

 そこからはミヨちゃんと女王の華麗な闘いが繰り広げられた。華麗な技の応酬に、力強い取っ組み合い。ミヨちゃんと互角に闘えるこの女王、やっぱり強い。

 しかし最後の最後に、ミヨちゃんが必殺昇龍拳を決めて、女王は満足したような笑みを浮かべて、地面に倒れたのだった。

『敗けた……お前は強いのだなミヨチャン。約束通り、お前たちを日本に帰す船を用意しよう。しかし……』

「ミヨチャン、ゼヒワタシたちの女王にナテクダサイ」

 島民たちは、強さを見せつけたミヨちゃんにひざまずいた。うんうん超カッコよかったもんね、わかるよ。

「あたしには帰らなきゃならない家があるのさ。マリカは十分強い女だよ。アタシが勝てたのは圭介がそばにいたからさ」

「? ドウユーコトデスカ?」

「あれっ知らない? 恋する女は宇宙一強いのさ」

「ミヨちゃーーーーん!!」


こうして、俺たち3人は無事にミヨちゃんに助けられ、メスガ島をあとにして日本へと帰ったのだった。

「ミヨちゃんカッコよかったよ、ますます好きになっちゃった。結婚してください」

「お前がアタシより強くなったらな」

「一生無理じゃんーーーー!!」



おわり

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