あした世界がおわる
大隅 スミヲ
お気に入りの空
あした、世界がおわる。
最初に聞いた時は信じられなかった。
でも、空を見上げたら信じるしかなかった。
地球に降り注ぐ巨大流星群。
その数は数百万。
天文学者の誰もが予想できなかった。
宇宙航空軍のミサイルでは、迎撃することができなかった。
巨大流星群『デストラクション』。
日本語にすれば、滅亡とかそんな意味だそうだ。
誰も予想できず、誰も防ぐことのできないこの流星群を前にして、ぼくら地球人はただ世界が終わるのを見届けるしかなかった。
すでに先行の流星群の一部は地球に落下してきている。
さっきテレビで見たのは、エジプトのピラミッドに直撃した隕石だった。
落ちてきた隕石の大きさはボウリングの球ぐらいだったけれど、その破壊力は恐ろしく、クフ王のピラミッドを木っ端みじんに破壊するほどだった。
まるで映画だな。
電気屋の前に置かれているテレビの巨大スクリーンを見つめながら、どこかのお父さんが呟くように言った。
もう逃げ場はどこにもなかった。
人類のほとんどが諦めの境地に達している。
隕石のぶつからない場所へ行けばいい。
そう考える人もいたが、あれだけの流星群が降ってくれば衝撃波が地球3周はするだろうと学者の先生がテレビで解説をしていた。
もう、何処にいても同じということだ。
だったら空に逃げればいい。宇宙に逃げればいい。そう言った考えもあったようだ。
しかし、空には無数の流星群が待ち構えている。
それに隕石の墜落した衝撃波によって、空を飛んでいる飛行機などはすべて墜落してしまうということが予測されていた。
そして、なによりも今の地球には、飛行機を飛ばす燃料が残されてはいなかった。
隕石を迎撃するためのミサイルやロケットにすべて燃料を使ってしまったのだ。
もはや逃げ道はなかった。
最後にやりたいことをやっておこう。
SNSでは、ハッシュタグをつけた様々な最後の〇〇が投稿されている。
『#最後の晩餐』で投稿されたものには、様々な料理の写真があがっている。
最後の最後までピザ屋にデリバリーの注文をしようとしたが、電話がつながらなかったといっている人もいた。ピザ屋だって、最後までは働きたくないに決まっている。
『#最後の出会い』で投稿されたものには、どうせ死ぬなら一人じゃなくてみんなで死のうという呼びかけがされていた。
しかし、裏を返せばただの出会い系なのだ。最後の最後までスケベを求めた人間たちが集まって乱交パーティーでもしようというもののようだ。
ぼくは梯子を使って家の屋根に上ると、そこで寝そべりながら空を見上げていた。
流星群は昼間であっても肉眼で確認できるほどになっていた。
この屋根の上から見上げる空が、ぼくのお気に入りの風景だった。
おじいちゃんが生きていた頃、天気のいい日によくふたりで屋根に上って青空を見上げていた。
ぼくは小学生の頃から不登校だった。だから、昼間から青空を見上げていたのだ。
しかし、お気に入りの空は、もうない。
目の前にあるのは、いくつもの流星の姿が見える青空だ。
あした、世界がおわる。
何も考えていないはずなのに、ぼくの目からはひとすじの涙がこぼれ落ちていった。
あした世界がおわる 大隅 スミヲ @smee
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