後日談

 二〇一九年七月。佐藤佳子の息子佐藤翔太は母に言われた通り夜十二時に「瓜子姫」と言う。期末テストも終えて暇だったので試しにやってみた。


 すると鏡の中から鬼が現れ翔太は鏡の中へ引きずり込まれる。


 「へえ、君が佳子の息子」


 「そう、俺……佐藤翔太。あなたが天邪鬼?」


 「そうだ。俺は天邪鬼。天邪鬼のラロ」


 ここは学校であった。自分の通っている中学校。母親も通っていた埼玉市立芦原中国中学校。


 「まさか親子二代で来るとはね……」


 「あなたがお母さんの守り神?」


 「ふふっ。君の母はそんなこと言ったのか」


 ラロはそういうと背中にしまってあった鎌を前に持つ。


 「俺は死神でもあるんだぞ。それに俺は君の母に警告しただけ」


 「そうなんだ」


 「そして君にも警告するよ」


 「えっ?」


 「君の母が大人になったころから日本は既に地獄だった。でも君が大人になる頃には日本にはもっと地獄が待ち受けているぞ」


 思わず絶句する。


 「それでも君は大人になるかい?」


 「……」


 「大人にならないでもいい」


 「えっ?」


 「今の日本で大人になっても何一ついいことはない。でも『子供』のままでいても幸せになる術は見つけるんだ」


 (どういうこと?)


 「自分を追い詰めなくていい。でも自分を守る術は身に付けろ。たとえ将来大人子供つまり『こどな』になったとしてもな」


 「ありがとう」


 ラロはお礼の言葉を聞くと天邪鬼は鎌を背中にしまい、封印の術を翔太に向けて放った。


 「次、君がここに来れるのは十年後だ。君が子供のままかそれとも大人になってるか俺は楽しみだ。もっとも『瓜子姫』の呪文を覚えていたらの話だがな」


(覚えてやるさ! 親子二代でな!)


 「天邪鬼!」


 そう言うと職員室の前の鏡が渦巻く。


 「また来いよ!」


 「ああ!」


 そういうと翔太は鏡の向こうに行った。


 鏡の向こうはいつもの家の光景。


 七〇代のおじいちゃんにおばあちゃん。そしておかあさん。おじいちゃんもおばあちゃんもおかあさんも必死にパートやアルバイトで僕の将来のために働いてる。


 「おやすみ」


 (僕はこんな壊れた日本社会の中でも楽しく生き抜くんだ!)


 翔太の将来の夢が決まった。


 幼稚園教諭。大人の世界に居ながら子供の世界にも居られる。小学校や中高の教員に比べて負担が少なく、教員の採用需要も多い。いずれは園長先生になる。主要五教科よりも体育や音楽、美術の素養のほうがずっと大事な職業。だから勉強が苦手な翔太でもなれる。Fランと言われる大学からでも幼稚園教諭職ならスムーズに就職できる。しかも四大卒なら幼稚園教育免許状は一種免許状だ。


(ありがとう、天邪鬼さん)


 その後約半年後に新型コロナウイルスによるいわゆる「コロナショック」が起き翔太は高校時代から試練の道を歩むことになる。

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鏡の中に居る瓜子姫と天邪鬼 らんた @lantan2024

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