始まりのブラウニー

ヴァレンタインは出来上がったブラウニーを素早くラッピングする。


「それってさっき私が拾ったやつと同じ」


「そうだよ、この袋には思いを届ける効果があるんだ。だから君の思いは必ず届くはずさ」


「ありがとう。そこまで気を使ってくれて。なんかすっごい楽しかった」


「君にとってバレンタインという日が幸せな記憶になってほしいからね」


「じゃあ頑張って渡してくるね、ってこの調理室普通にそこの扉から出ちゃっていいの?」


私はそう言って目の前の扉を指さす。


「あぁ、そこをくぐれば元の世界に戻ることが出来る。僕にはもう会えないだろうけど」


「え、それはなんか少し悲しい。どうして会えなくなってしまうの?」


「それは君がバレンタインのことを好きになってくれたからさ。最初は興味なんかなかったバレンタインをこうやって楽しんでくれて、バレンタインを好きになってくれた。だから僕の役目もおしまいさ」


ヴァレンタインは少し悲しげな顔で私にそう語る。


「じゃあいつか私がまたあなたにバレンタインチョコあげる。来年も再来年も」


「それは嬉しいな。けど君には僕なんかより好きな人がいるだろう?」


「友チョコだからいいの。」


「そっか、それは楽しみにしておくよ」


「じゃあ私、渡してくるね」


私は調理室の扉を開けるとヴァレンタインに手を振りながら調理室を後にした。



「さっきの場所に戻ってる…ていうか時間やばい」


私は近くの公園の時計を見ると時刻はもう登校終了時間の10分前だ。


「急がなきゃ」


私は学校に向かって全速力で走る。


すると目の前で夢中に写真を撮っている人影が見えた。


「佐々木先輩!?どうしてこんなところに!」


「君は確か、綾野くんだったかな?君こそどうしたんだい?」


私の名前覚えてくれてる!?


「先輩こそ写真に夢中になるのはいいですけど学校もう始まっちゃいますよ」


「え?そうなの?急がないと、いつも助けてくれてありがとう」


「そんな、先輩の役に立てるならなんだってしますよ」


こんなチャンス2度とないかもしれない。今チョコを渡すんだ。


「あの、佐々木先輩!」


「改めて名前を呼んでどうしたのかな?学校に早く行こうと言い出したのは君だが」


「これ、バレンタインのチョコブラウニーです。先輩のために手作りしました受け取ってください!」


やばい、めっちゃ恥ずかしい


「うん、ありがとう。綺麗にラッピングしてあるしすごく嬉しいよ」


「良かった」


「だけど驚いたな。君のような可愛らしい男の子からチョコを貰う日がくるなんて」


「先輩はその、私みたいな男の子からチョコ貰うの嫌じゃないんですか?」


私は性別的には男だが見た目に男らしさが少なくショタとかも言われたりする。

あの時佐々木先輩の姿にときめいてから、そんな乙女な思いがどこかしら膨らんでしまった。


「僕は別に綾野のこと嫌いじゃないし良い後輩だと思ってる。こちらこそいつもの感謝を伝えなきゃいけないのに」


「そそそそ、そんな私が勝手にしてることですし」


「とりあえず学校急ごうか、一緒に行こう」


「はい!」


私の学校生活に新たなドキドキが増えました。




「バレンタインは性別すら、時すらも超越する。思いがあれば何事も届けられるのさ」


空中から一連の出来事出来事を見ていたヴァレンタインはにやりと笑い手元のラッピングされたブラウニーをひょいっと投げて掴む。


「これをまた届けにいこうか」


彼はバレンタインを行き来し、バレンタインを守る者。


彼は道端にラッピングされたブラウニーを落とした。


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ココロちょこっと 九十九語 矢一 @Alice__0420

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