スカロイ
高黄森哉
太陽
太陽みたいな人になりたい。と思った。
明るく振舞うことは容易ではない。無理して作った笑顔と、口調と、優しさはまるでまがい物の翼で、飛ぶだけでぎしぎしと軋んで、痛みが走った。焼けるような精神の疼痛だ。
私は分かっていた。その翼は、私の身を守る壁でしかなく、飛ぶことなんてできないことを。私を、取り囲むように私の白い両翼がこころを羽毛の暖かさで包み込んだ。痛みのゆりかごだ。
私はずっと鳥の巣の中にいた。でも、その巣は有刺鉄線で出来ていて、一人ぼっちの雛はずたずたにされた。どれだけ、口を開いていても、親鳥なんて来ないのである。
もうだめだ。太陽を目指した結果、羽を焼かれたイカロスだ。私はこのまま
墜落するしかない。これは、仕方がないことなのだ。神様が決めたさだめ。私は抗うこともできない。
屋上のへりで両腕を広げた。十字架の影が伸びた。頭上には烏が飛んでいて、渦が出来ていた。太陽を中心にする鳥の渦。彼らも焼かれて墜ちてしまえ。死ぬにはいい日だ。
そうして、風を切った。重力が私に呆れて、見放した。地面に吸い込まれていく。指数関数的に、速度が加速する。死ぬんだ。頭を打つ前から、鉄の味が下に溢れて来た。口が渇く。
そのとき、背中が燃え、皮膚を突き破って、翼が生えた。不釣り合いなほど巨大な真っ白い羽がブレーキをかける。ばきり、と音を立てて羽はへし折れ、その尋常じゃない神経の叫びで気が狂いそうだった。
地面に叩きつけられてバウンド。それでも、かろうじて生きている。口が渇く、鉄の味がする。鼻血が出て、血だまりを作った。痛みで気が狂いそうだ。どうして、私を助けたのですか。仰向けになると、太陽が見下ろしていた。
ああ、これはきっと、太陽から離れすぎた罰だ。
スカロイ 高黄森哉 @kamikawa2001
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