花嫁

 桜が満開となり、麻衣たちは2年生になった。

「麻衣、今日も泊まり、麻衣と行くことにしていい?」

「いいよ、全然。でも大丈夫?なんかちょっと顔色悪いみたいだよ」

「うん、バイトとか忙しかったから」

「ちゃんと休んだ方がいいよ、雄太君によろしくね」

「麻衣たちは調子どう?私にもいつでもアリバイ頼んでよー」

「…ははは」

 最近、明日香は忙しいが、麻衣とは学校でも同じ授業が多いし、ほとんど毎日顔を合わせ、お互いに近況を報告している。


 今日は雄太が明日香と一緒にいた。明日香と雄太は本当に仲が良い。仔犬同士が戯れているみたい、と麻衣はいつも思う。

 大樹と麻衣は一緒に出かけたり、キスしたり、手をつないで歩いたりするようになったが……。麻衣は大樹のことが好きになるばかりだったが、大樹はどうなんだろう。

 雄太が席を外した時、麻衣は明日香に聞いた。

「明日香は雄太君のどんなところが好き?」

「んー、全部かな。雄君の照れた笑顔とか、私のことを見る時の目とか、全部」

「雄太君と明日香、ホントに仲良いよね〜」

「あのねー、大樹君だっておんなじ目で麻衣を見てるよ」

「えっ、そうかな」

「麻衣はもっと大樹君を正面から見なきゃ。目は心の窓って言うでしょ?その時の気持ちが目には現れるんだよ」

「明日香、占い師みたいだね」

 雄太が戻ってきたので、雄太が明日香と話しているのをじっと見ていたら、

「なになに俺観察されてる?」

と、雄太にすぐ気付かれてしまった。

「麻衣、大樹君の目を見るの。雄ちゃんの気持ちは、こっちから見ないと分からないの」

明日香はそう言って、雄太を見てニヤッとした。


「俺の顔に何かついてる?」

大樹に言われて、麻衣は困って下を向いた。ずっと目を見ているのも難しい。

 その時、結婚式の一団が左手から降りてきた。新郎か新婦の友達が先ずドッと降りてきて、最後に新郎新婦がお礼を言って降りてきた。花嫁さんが後ろを向いてブーケを投げて、女性が手を伸ばして……そしてキャッチしたブーケを嬉しそうに振った。

「わー花嫁さん!綺麗ー!」

そう言って振り返った麻衣は大樹と目が合った。大樹は、目を細めて麻衣を見ていた。

「俺たちもいつかできるといいな……」

と横を向いて小さな声で大樹が言った。麻衣は大樹の目を覗き込んで、大樹が本気だと分かった。そして麻衣の気持ちをとても大切にしてくれているんだと今更ながら気付いた。頷いた麻衣を見て、大樹は最初驚いていたが、『やった』と呟いて照れたように笑った。


 それから数日後の午後遅く、雄太から着信があった。

『麻衣ちゃん、実は、明日香が……』

『どうしたの?』

『明日香、微熱があって、風邪だと思って病院行ったら、大きい病院に行って調べたほうがいいって言われて』

『それで』

『大きな病院で検査して、結果どうだったのか……何度NINEしても電話しても、明日香が出ないんだ。実は家まで行ったけど、誰もいないみたいで……』

 麻衣は心配で具合が悪くなってきた。私も明日香と明日香のお家に連絡してみる、と雄太に言ってすぐに明日香にかけてみたが繋がらない。明日香の家にかけたら今度は繋がって、明日香の母親が出た。

「麻衣ちゃん……」

お母さんの声が震えている。

「明日香、どうしたんですか」

「明日香、入院してるの」

「え……」

しばらく嗚咽が続き、麻衣は吐き気に堪えながら聞いた。

「病院はどちらの……」

誰でも知っている大病院名を教えてもらって、病院に向かって走り出した。


 無我夢中でどう行ったのか覚えていないが、病院に着いた。

病棟受付でバーコードを手首に着けてもらい、途中ゲートを開けてもらって、やっと病室についた。

「麻衣……」

明日香は大きく目を開いて、

「お母さんに全て聞いた?」

「お母さん、動揺されてて聞けなかったの」

 しばらくの沈黙の後、明日香は話し始めた。

 実はお腹に赤ちゃんがいること。微熱があって、もしかしたらとは思っていたので病院に行って、そこで赤ちゃんができたと分かった。でも他の検査で白血病の診断も受けてしまったの。先生も両親も、子供は諦めて、治療に専念しよう、まだ若いので子供は元気になってから授かるだろう……と。私はどうしても赤ちゃんが欲しいけど、今治療しても自分が助からなかったら……治療も一刻を争うって言うから即入院したけど、どうしても……

「雄太君から電話もらったの。明日香にも何度も連絡してるって。雄太君呼べないかな?」

「無理、雄ちゃんになんて言ったらいいか……」

「でも赤ちゃんのお父さんで、明日香のことを愛してるんだよ。相談してみよ、明日香」

 その時雄太が病室に入ってきた。明日香は

「どうして……」

と呟き絶句した。

 雄太はお母さんに教えてもらったんだ、と言ってベットの横に立って明日香の手を握って訳を聞いた。明日香は淡々と状況を繰り返した。雄太は優しく手を撫でながら、

「明日香との赤ちゃんはまたできるよ。僕はできれば9人欲しい。でも今は治療に専念しよう。頑張って治療しよう」

 明日香の目には涙の塊が浮かんで溢れた。私は明日来るね、と言って2人を残して部屋を出た。

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また出逢えたら… fluffy @mrns5

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