第38話 ロボコップ
「ロボコップは知ってるよな?1987年のポール・バーホーベン監督の映画だ」
サミュエル・スナイダーはかつて私にこう言った。
「もちろん」
そう私は答えた。
「ロボコップの撮影用のスーツは出来たものの主演俳優のピーター・ウェラーはそのスーツがあまりに重過ぎてまともに動けなかった。そこで急遽パントマイムの振付師を呼んで例のあのカクカクした特徴的な動きが生まれたんだ」
そう言ってサミュエルはビールの小瓶片手にロボコップの動きを真似てみせる。それを見て私はビールの小瓶を飲みながら笑った。あれはサミュエルを我が家に招いて一緒にビールを飲んだ時だった。
「Mr.スターズ・アンド・ストライプスのアーマーは数百キログラム以上もある。そんなの装着して暴れまわることが出来る生身の人間は世界でもほとんどいないだろう」
アーマーの試作段階はお世辞にも動きやすいとは言えなかった。初期型は無地のシルバーの機体だった。超兵士計画。それは超強化精製剤を投与されアーマーを装着した最強の強化兵士を作り出すのが目的だった。数奇な運命により私、ケイン・フリーマン・Jr.はその当事者となる事になったわけだ。全ては腹に爆薬をたんまりと仕込んだ妊婦を装った女に出くわした事から始まった。あの時、私とサミュエルはあわゆく肉片になるところだったが異変にいち早く気づいた私の機転によって最悪の事態は免れた。急死に一命を取り止めた私に神はこうしてアメリカを守る使命をお与えになったというわけだ。
軍の施設内の一室にてサミュエルは私にノートパソコンの画面を見せている。ノートパソコンの中の映像には無造作なコンクリートの壁に包まれた部屋で私が確保したデスペリアの部下の男が尋問を受けている。男は無造作に椅子に縛り付けられその口には猿ぐつわをはめられている。いや、尋問というのは正確な表現ではないかもしれない。彼はこれから自らの意思に関わらず知っている事を吐かされる事になる。ここは軍の施設の一室だ。尋問係のスナイダーは顔にすっぽりと布を被され後ろ手を縛られた女に頭に拳銃を突きつけている。
「こいつが誰かわかるか!?お前の女房だ!別人で誤魔化してると思うか!?じゃあ見せてやるよ!」
そう言ってスナイダーは女の頭を覆う布を掴んで取り払う。猿ぐつわをハメられ両眼の下には涙の筋を作った浅黒い肌の女の顔がお披露目される。椅子に縛られたデスペリアの部下の男は喋られないながら猿ぐつわがはめられた口元から精一杯のくぐもった声を出す。何を言ってるのかはわからないがそれが抗議の声だということは察しがつく。スナイダーは情け容赦無く女の胸元に拳銃を数発立て続けに発射する。女の胸元から血しぶきが上がる。デスペリアの部下は猿ぐつわをはめられた口元からすさまじい絶叫を上げる。猿ぐつわがはめられたその口の端からは涎と激しい摩擦によって生じた裂傷から流血した血の筋が流れている。室内に入ってきた二人の男によって引きずられ女房の身体は退場させられる。続いて猿ぐつわをはめられた男児が室内に連れて来られる。
「お次に行くとしよう!お前の息子だ!」
涙にまみれた顔の男児の頭にスナイダーは容赦無く拳銃を突きつける。
「おい!待て!相手は子供だぞ!イカれてんのか!?」
男は叫ぶ。
「子供だからって撃たないと思うか!?舐めない方が良いぞ!」
「わかった!知ってる事を教える!だから俺の子供に手を出すな!」
男は涙ながらに懇願する。サミュエルはここでパソコンの映像を停止させる。
「なあ、サミュエル。いくらなんでもこれはやり過ぎじゃないのか?」
私はため息交じりに言う。
「なあ、ケイン。いくら俺でもそこまで鬼じゃ無い。確かに妻を撃ったがアレは弾着だ。本当に殺してなんかしていやしない。弾着が破裂して血飛沫を上げると同時に電気ショックで失神してもらっただけだ。命には別条はない」
「そうか・・・」
と私は答えるもののやはりいかさかやり過ぎな感が拭えないが祖国アメリカの為には致し方ないのだろうか。
超人(スーパーヒーロー)だけど何か質問ある? ひらきみ @hirakimi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。超人(スーパーヒーロー)だけど何か質問ある?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます