第5話
「うむ、良い目じゃ。大事にするのだぞ」
寿桂尼は、普通だった。いや、もちろん溢れ出るオーラというか覇気というかが全く一般人とはかけ離れていたけど、でも変な性癖は持っていなかった。
同性愛者は別に否定しないけど、ロリコンは実害あるんで頂けない。いや、俺男だから女の子からのアピールは大変うれしいけどもね。ロリを無理やりってのは良くないと思うんですよ。
っと、あまりの喜びに長文を……。
ともかく、この頼もしいおばあさまが味方についたからには、亀之丞くんひいては歴史も安泰だね!
さあて、早速助けに行こう!
ルンルン気分で亀之丞くんが捕らえられているという場所に来たのはいいんだけど、あれ?
「義元、やめい」
「は、母上!?」
うえっ。あ、義元アレルギーが……。なんでいんだよ!どっか行けよ!
「ほれ、ここはわらわに任せて何処かへ行け!しっし!」
そんなGを相手にするみたいに……いや、たしかにそいつはGみたいなもんだけどね? 迷惑度で言ったら電車の痴漢と同じくらいかもうちょっと上くらいだけどね?
うん、もっとやれやれ。
「わ、わかりました。……あれ、瀬名ちゃん♡」
おわっ、……ぞわっときた。きっしょ!
「とっとと居ね! ……もう大丈夫じゃ。すまぬのう、バカ息子が」
「は、はい」
ヤベ、思わず頷いちゃった。大丈夫かな?
「本当に迷惑をかけるのう……すまぬ」
「いえいえ、張り切りすぎた瀬名にも問題がございますし」
「いや、全てにおいてあやつが悪い。どこで育て方を間違ったのかのう? さて、亀之丞じゃったか」
寿桂尼様が縛られて俯いている男の子を見た。……くそう、子供のくせにイケメンだ。その上、可愛い女の子に助けてもらえるんだもんな。ずるい!
まあ、俺だって現在美幼女だから、大人になって男装すればイケメンに……。いや、こういうのは虚しいな。
「かような幼子を……。温情など減るものではない、与えてやれば良いものを。さあ、亀之丞、何処へでもゆくが良い。願わくば、我らへの恩を返してたもれ」
「ありがとうございます」
亀之丞くんは、しっとりとした礼をした。品が良い。寿桂尼に言われてから顔を上げると、何かを見つけたらしく、花が開くように笑った。
後からわかったことだけど、直さんが障子を少し開けて覗いていたらしい。俺も年上だから言えるけど、すごく微笑ましい場面だ。
……でも亀之丞は、このあと死んでしまう。もちろん大人になってからだけど、今川氏真に……一応は俺の友達みたいな人に、殺されるのだ。
彼は今川に反旗を翻す。俺が嫁ぐ家康を頼って。そして殺されて、井伊家には暗黒の時代が訪れる。
俺は今ここで、彼らと関わってしまった。それは、確かに歴史を正しく保つための行動だったはずだ。
でも。ここで命を助けておいて、あるいは関わっておいて、そのまま見捨てるというのは、人として正しいことなのだろうか?
彼らを救って歴史を変えれば、俺がいなくなるかもしれない。そうすれば当然俺が変更した履歴と言うか事実も失われ、結果彼らは助からない。そうすると歴史がもとに戻って、俺が生まれて……。
そんな矛盾が起こってしまう。もしかしたら世界がそのループに囚われ続けて進歩しなくなったりするかもしれない。怖。
だからやっぱり俺は歴史を変えるわけには行かない。まだ関わりだって薄い。俺がそこまでの信用を得られるかも問題だし、実際俺自身がそういうリスクを負ってまで彼らを助けようと本気で行動できるかも疑問だ。
それでもやっぱり……と、悶々とした日々を過ごしていた俺だが、ある日空に言われた。
「何か悩んでおられるのですか?」
「いやちょっと、自己の行動とそれが周囲に与える影響について考えててね」
「そうですか」
あれ、流されちゃった?
「まあそうですね。人間、しがらみも多いものです。しかし、ご自身の思うまま、なされたいまま、正しいと思うままに、行動なさればよろしい。しがらみが邪魔なら、逃げようとすればよろしいのです。それができないなら、その中で色々と考えればよろしいのでは? 迷うなら、できるかできないかでも、やるかやらないかでもなく、どうやるか、ですよ」
「さすが空、なかなかいいこと言うね」
「ええ、私は良いこと言いますよ」
「自分で言うのはどうなの、それ。まあそうだね、どうやるか、か。ありがとう、悩みが吹っ切れたよ。それじゃあまあ、その時になってからどうやるかは考えよう」
「あら、なんだか私の言いたいことが伝わってないような気がしますね」
「伝わってるよ。ちょっと特殊なケースでね、そのときどういう状況か、わかってるけどわからないんだな、これが」
「なぞなぞですか? 人を試すのは宜しくないですよ」
「いやいや、そういうわけじゃ。ごめんね、空」
「いいえ、姫様はまだ幼いのですから、どしどし迷惑をかけてくださってかまわないのですよ。もちろん、大人になったらそれなりの分別は身につけてほしいですけどね」
「……善処するよ」
「あら、姫様はもう大人なようですね。よかったよかった」
「前言撤回、瀬名、がんばります」
「かわいいですね。私にはそれやらなくて結構ですが、もちろん時と場所と相手は良く考えたほうが良いですが、武器になると思いますよ」
「はい!」
俺は、現状かなりの幸せ者だ。美人の母上、優しくてしっかり働いてくれてる父上、頼りになるお姉さん的存在の侍女空。
あと、例の事件をきっかけにたまにお茶を飲んだり、服を選んだりと、寿桂尼にもかわいがってもらっている。何より義元から庇ってもらっている。
ただまあ、俺は瀬名姫、築山殿だ。そして、ここは今川家である。
とりあえず、まず恐れるべきは十年後。
徳川家康、その時は松平元信との、結婚である。
まあ、子供生まれるし、誤魔化せないよな。あと、わりとそれがすべての始まりだ。
俺が心のなかで密かに激落ちくんと呼んでいるMr.転落人生ほどじゃあないものの、瀬名姫の人生は割と下り坂だ。
よし、とりあえず今のうちに教養と体力と知力を身につけるぞ、えいえいおー!
あと、人脈作りも、ね。
歴史の天才な高校生、戦国の悪役令嬢にTS転生する 〜なんかめちゃくちゃハードなんだが〜 鷹司 @takatukasa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。歴史の天才な高校生、戦国の悪役令嬢にTS転生する 〜なんかめちゃくちゃハードなんだが〜 の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます