第4話
井伊直虎か〜。どんな人だろ。やっぱり美人かな?
ワクワクしながら直虎が待っているというところへ向かう。
「ここですよ、瀬名様」
危うく通り過ぎかけて、空が教えてくれた。
そこは、門にほど近い、そこまで豪華ではない部屋だった。
中に入ると、もう雰囲気だけでかわいい少女が頭を垂れて待っていた。年齢は、十歳…いや、九歳ぐらいだ。
「井伊の姫様ですか?」
「はい。直、と申します」
顔を上げたのは、美人だった。いやもう、これは美少女じゃなくて美人だ。
母上といい、彼女といい、井伊家の女性は大人びていて美人らしい。俺にもその片鱗があると良いのだが。いや、あるか。大人びているかは別として、美人だもんな。
「直…井伊家の
「まあ、まだ七つだというのに。聡明という話は本当ですね。尊敬いたします」
こちらこそ、九歳でそのしっかり度は驚きだよ。
ちなみに、通字というのはその家の男児の名前の殆どに含まれる字のこと。例えば、織田家の通字は信で、信長だけでなく父や弟、息子にもこの字がある。まあ、兄弟でも下の方なら通字がないことがあるんだけどね。
まあとにかく、直虎…いや、直さん?
「それで、本日はどうして?」
「亀之丞を…許嫁を救っていただきたいのです!」
亀之丞…直さんの許嫁。後に井伊直親と名乗ることになる。
直さんの話によると、亀之丞の父が今川に謀反を疑われ、殺された。今川の魔手はまだ幼い(直さんと同い年)亀之丞にも伸び、なんとか信州に逃げ延びたものの、捕まってしまったのだという。
「つまり、助命嘆願を手伝ってほしいのです。…お願いできますか?」
うーむ。助けてあげたいのはやまやまなんだけど、ロリコン野郎に会うのはな…。
いやでも、もしその人が井伊直親だった場合、死んでしまったら徳川四天王の一人・井伊直政が生まれない…。よし、助けよう。
…あれ?待てよ?
「その方は、本当に亀之丞殿なのですか?」
ふと疑問に思ったことを口にしてみた。
「そのことなのですが、今回私が駿府へやってきたのは、本人確認のためなのです。もし偽物だったら体裁が悪いからと、まだ公開されていないようで…」
「じゃあ、本物じゃないかもしれないと?」
「いえ…。ここに来る途中、笛の音を聞きました。あれは、亀之丞の笛です。残念ながら…聞き間違えることはないでしょう」
「なるほど…」
いやあ、愛だな〜。素敵。縁は今のところないけれども。となると、助けてあげたいけど…。
「助命嘆願についてはお任せください。ただ、瀬名がついていっても良いのでしょうか?瀬名はあい…。太守様にその、あれですので…」
「はい、お噂はかねがね。実は、寿桂尼様が手引してくださるとのことです」
「寿桂尼様…寿桂尼様ですか!いいですね!」
「い…?はい、そうですね」
あ、引かれちゃった?いやでも、寿桂尼だよ?女戦国大名だよ?義元の母親だから若干の不安感はあるけど、でも、ワクワクするじゃん。
「直様、その話、受けます。この瀬名が、亀之丞殿を絶対に助けてみせましょう!」
「ありがとうございます!では、三日後、巳の刻にお伺いします」
「お任せください」
何度もお礼をして、直さんは帰っていった。
そして、意気揚々と部屋に戻ってきたのだが…。
「瀬名、それはなりませんよ」
思わぬ壁にぶち当たった。母上が反対したのだ。
「なぜですか?瀬名は直様を助けたいのです!」
「ダメです。母は、あなたまで今川のせいで失わなければならないのですか?今の井伊に運はありません。睨まれています。きっと何もかも、踏み潰されてしまうでしょう」
この上なく実感のこもった言葉だった。でもな、そういう訳にはいかないだろうよ。そもそも俺は歴史を変えちゃいけないんだ。
亀之丞が死んだら直政が生まれないじゃないか!
そんなことをしたら歴史が変わってしまう。仮に大筋に影響はなかったとしても変わるものは変わるのだ。
よって、母上の意見は受け入れられない。
「そんなことを言って、なぜ母上は諦めてしまうのですか。禍福は糾える縄の如しと申します。なぜすべてが今までと同じだと、そう思ってしまうのですか。今までとは違います。ここには瀬名がおります。直様は捕らえられたのが亀之丞だと知っております。今までより、有利な状況なのです」
いやまあ、不幸はこのあとも続くんだけどね。っていうかここからが本番なんだけどね!
しかし、諦めてはいけないのだ。それじゃあ浮かばれないし、いつまで経っても幸せになんかなれないだろう。
「瀬名、危険です。私はもう、大事な人を喪いたくありません。どうか行ってしまわないで」
うっ…。切実だな…。そういえば瀬名姫って母親を置いて…いや、やめよう。今未来に思い至っても仕方ないのだし。
「絶対にそんなことは致しません。必ず帰ってくると約束します」
「ダメです。そんなことを言っても、皆死んでしまうのです。なりませんよ」
「では母上は、亀之丞殿が死んでも良いのですか」
俺の言葉に、母上が反応した。
「嘘をついた罪で、直様が殺されてしまっても良いのですか。生まれ故郷が焼け野原となり、大事な家族が死んでしまっても良いのですか!」
「それは…。でも、あなたが死んでしまったら、私はもう、もうだめなのです。死んでしまいます」
母上はとうとう泣き出してしまった。どうしよう。ここまで来たら俺には何もできない。と、
「お方様。私も参ります。絶対に、何があっても姫様をお守りいたします」
いつの間にかやってきた空が、母上に言った。
「…本当ですか?約束できるのですか?」
上目遣いで言う母上。かわいい。俺の母上が美人すぎる。
「お任せください」
ニッコリ笑う空もかわいい。…どうやら、俺の周りには美人がよってくるらしい。
「…では、お願いします」
母上が空に向かって深々と頭を下げた。…俺、そんなに信用ないのかな?
歴史の天才な高校生、戦国の悪役令嬢にTS転生する 〜なんかめちゃくちゃハードなんだが〜 鷹司 @takatukasa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。歴史の天才な高校生、戦国の悪役令嬢にTS転生する 〜なんかめちゃくちゃハードなんだが〜 の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます