第3話
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございました」
氏真は俺でも察知できないくらいうまく隠されていた隠し通路で、俺を逃してくれた。
もちろん、義元が引き返していったのも確認済みだ。
「それでここは、どこですか?」
そう、十二畳ほどの部屋。隠し通路はここに繋がっていた。
「私が作った秘密の部屋だ。本来は私の部屋からしか行けなかったのだが、そなたが追われていてかわいそうだと思い、館のあちこちに繋げたのだ」
なるほど。すごいな、全然察知できなかったぞ。
ん?察知できなかった?この俺が?歴史の天才が?
――まさか、歴史が変わったのか?
ま、まずい。これはまずいぞ。
「龍王丸様!この道、塞いでください!今なら、まだ間に合うかもしれません」
「急にどうしたのだ?」
「お願いします、龍王丸様!」
ちょっとうるうるさせたぞ。これで納得してくれ!
「わかったが…。瀬名、またここに来てくれるか?」
「でも、龍王丸様の部屋から来るしかないのでは…?」
「ふふふ、ここは台所と繋がっているんだ。だから、台所の奥にある扉を開けばこられるよ」
話を聞く限りこの部屋は俺がここに来る前からあったようだし、放置でいいだろう。
「では後日、お礼をしに伺います」
「うん。それと、言葉はかしこまらなくていいから」
それは助かる。敬語は苦手なんだよな〜。
「わかりました。では、いつなら都合が会いますか?」
「そうだね。じゃあ三日後、辰の刻に」
「はい。では、失礼します」
扉だと思われるところを開けると、よし、やっぱり台所だ。この部屋は、というかここの通路は俺の歴史レーダーに反応した。放置で問題ないな。
と、意気揚々と台所へ出たはいいものの。
「瀬名ちゅわーん♡こんなところにいたのか〜♡つまみ食いかな〜♡」
眼前に、義元がいた。
あれ、俺死んだ?
やばいぞこのおっさん近づいてくる。逃げろ逃げろ…って、逃げ場がねえ!
やばい。いよいよ貞操の危機か!?
いや、待て。まだ、まだのぞみはある。
「空〜ッ!助けて〜ッ!」
男としての誇り?そんなもん、望んでもいないのにおっさんに貞操奪われりゃ終わりだろう!
全国のゲイさんたちには申し訳ないが!俺は女性が好きなんです!君たちのことは否定しないから俺のことも否定しないでね!
ということで助けて空!
………来ない。どれだけ待っても来ない。
そして、一応待ってくれていたらしき義元が動き出す。
やばいやばいやばいぞこれは!
空〜!君の蹴りがないと俺死んじゃうよ〜!あ、Mではないので誤解しないでね!あっぶないないな今の発言。もうちょっとでこっちが変態として殺られるところだった。
とか現実逃避はこれくらいだ。もはや逃げ場は…うん?
あれ、これ俺がやればいいんじゃね?
結構鍛えてるから、本気出したら殺っちゃうけど、軽くなら。軽くなら。
――できるか?俺。恨み込めちゃわないか?いや、きっと大丈夫だ。というかそうしないと貞操がガチでやばい。
「ごめんなさい!」
バッチーン。頬を思いっきり叩くと、義元が吹っ飛んでいった。いや、比喩でもなんでもなく吹っ飛んだ。
あれ?やばくね?生きてる?
「大丈夫、生きてます。力加減バッチリですね、瀬名様!」
いつの間に来たのか、空がグッジョブ!みたいな感じでこちらを見てくる。
いや、あのね。俺からしたら早く来いや!なんですよ。
そう言おうと思ったが、
「空ぁぁぁぁ〜。なんでもっと早く来ないんだよぉぉぉぉ〜」
…俺は泣いてしまった。いや、涙は流れていない。が、誰が聞いても泣いていると思われる声を出してしまった。
流れに任せて空の胸に飛び込む。これはしないとガチで泣いちゃうからな。
ん?胸?この膨らみは、胸ですか?…わかりづれえな!ミニマムめ!
「ごめん、取り乱しちゃった」
「大丈夫ですよ。怖かったですね。よしよし」
その日はなんだか、空が優しかった。
そして、それから今川館には行かず、翌日。
「瀬名様、井伊の姫が来られるそうです」
「い、井伊の姫?それって、井伊直盛さんの娘?」
「ええ」
…なんとびっくり、井伊直虎とご対面だ。
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