ツバサの翼
家猫のノラ
第1話 空を飛ぶ
『宿題…忘れちゃいました。すみません先生』
『教科書…なくしました。すみません先生』
『上履き…捨てました。すみません先生』
『僕…死ぬかもしれないです。ありがとうございました先生』
「夢…」
ツバサは先週死んだ。
ツバサは病気の関係で、ぶつかったり、強い磁力に近づけないようにと母親から頼まれた。クラスメイトも知っておいた方がいいだろうと思い、教えた。
間違いだった。
ツバサはいじめられた。ぶつかるフリをしたり、黒板の磁石を投げつけられたりした。
1年の終わり、学年集会を開き、叱った。
2年生、僕はツバサの担任じゃなかった。物理を教えていたから接点はあった。ツバサはよく質問する生徒だった。熱心で、教えるのが楽しかった。
夏休みが明けた頃からツバサは喋らなくなった。忘れ物、なくし物が多くなった。僕は思った。またいじめられてるんじゃないかって。
なんで止めなかったんだろう。
『僕…空を飛びたい』
ツバサが授業中つぶやいた。みんな笑った。
『じゃあ飛ばせてやるよ笑』
スーツを着る。今日は全校集会がある。
「皆さんの大切な友人が若くして命を落としたのです。これ以上に胸が痛い出来事はあるでしょうか?心に深く傷を受けた方も多いはず、これから私は医者として保健室にいます。気軽に相談しにきてください。痛ましい事故を乗り越えていきましょう…」
ギグィィィィィーン
うるさい。うるさい。うるさい。
ひったくったマイクで反響した音も、心の医者とかいうやつの声も、ざわざわした体育館も。
うるさい。
肝心な時はみんな黙ってるくせによ。
「これは事故なんかじゃない。事件だ。犯人がいる。それはお前らだ。ツバサは脳に機械を入れてた。生きるための機械だ。その機械が止まった時、ツバサの脳、やがては命も止まる。昨年話したが、強い衝撃や磁力近づけたりするとその機械は壊れる。ツバサはこの学校でいじめられていた。知らないとは言わせない。ツバサは無理やり近所の制限の緩い『スカイスケート』に連れていかれ、乗らされた。『ほら空飛びたいんだろ?』とボードに足をくくりつけられ、上から落とされた。ツバサは止まれないまま一番高くジャンプ出来るポイント、一番磁力の強いポイントについた。ツバサは空を飛んだ。ツバサの脳は止まった」
「分かるか?これは殺人だ。お前らは人殺しだ。何被害者ヅラしてセラピー受けてる?ふざけんな」
体育館は静まり返った。
1人の女子生徒が立ち上がった。
「何でそんなこと私たちに言うんですか、何を求めてるんですか。なんて答えてほしいんですか。それとも泣いてほしいんですか。先生は可愛がってたみたいだけど、私は正直今初めて名前聞いたぐらい関わってなかった。死んだのを知った時、『怖いな』『かわいそうだな』ぐらいの感想しか出てこなかった。これが人殺しだって言うなら、日本中全員逮捕してくださいよ。たまたま近くにいただけなのに、私たちはそのツバサくんのこと一生引きずらなくちゃいけないんですか?忘れちゃいけないんですか」
1人の男子生徒が立ち上がった。
「俺たちは別に被害者ズラなんてしてねぇよ。俺たちはただ黙ってた。何もしてねぇんだ。なのにテレビとか新聞とか学校が勝手に騒いで、終わらせてくれねぇんだよ。セラピーなんていらねぇからほっといてくれよ。ツバサ?が死んでも世界に問題はねぇじゃん。普通に生きちゃダメなのかよ」
僕は体育館のステージから飛び降りた。後のことはよく憶えていない。
気がつくと2年間の免許停止命令が出されていた。
僕はクズだ。
生徒に罪をなすりつけてどうする。
人殺しは僕だ。止めることができたのは僕だ。
死ぬ前に、話そう。
ピンポーン
「はい。どちら様…ああ、先生」
「いきなり押しかけてすみません」
僕はツバサの母親に話さなくてはならない。
ツバサの翼 家猫のノラ @ienekononora0116
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ツバサの翼の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます