第141話 少年期 海へ

「わあ!!! シオンお兄さま見てください! 海ですよ!」

「すごい綺麗だね」


 リアが目を輝かせながら馬車の窓から見える海に釘付けになっていた。天真爛漫なその姿に馬車内にほのぼのとした空気が流れる。


「ここってミヒャエル兄さんが観光地化したんですよね?」

「大げさだよ、砂浜も海も綺麗なのに使われていなかったからちょっと手を入れただけだよ」


 ティアナの問いにミヒャエルはさして大したことなどしていないという様に答える。


 ノッテムダムに到着して2日目。シオンたち一行は予定していた海に向かっていた。日に照らされてキラキラと輝く水面はまるで宝石のように見える。


「でもノッテムダムにはちゃんと整備された海水浴場はなかったんでしょ?」

「そうなんですか?」


 ティアナの問いにシオンが口を挟む。折角海があるなら観光客を取り入るために合っても不思議ではない気がするけど。


「そうだね、もともとノッテムダムは観光地というよりは貿易拠点の側面が強かったから、観光客を呼び込もうと考えるよりは港を大きくしてより貿易をって考えの方が強かったからね」

「なるほど……」

 

 確かに、貿易で利益を上げているのであれば、そちらに力を注ぐというのも頷ける。


「じゃあ、なんでミヒャエル兄さんは海水浴場を作ったんですか?」


 その話でいくなら港をさらに拡大した方が利益的にもいい気がしてしまう。


「そうだね、利益を上げられる方法を1つに絞ってしまうとそれが駄目になったときの影響が大きくなるからだね」


 ミヒャエルはそう言ってシオンの顔を見る。


「それに貿易は相手国の情勢によって急にできなくなることもあるからね。そうなったときでもある程度利益を上げられるようにしておくのが為政者の役割でもあるから。そうは言ってもこの街で一番重要なのが貿易なのは間違いないけどね」

「なるほど」

「ほら、それよりもそろそろ付きそうだよ」


 ミヒャエルがそう告げてほどなく、馬車がゆっくりと止まり、御者がドアを開ける。


 馬車から降りた僕たちの眼前には美しい景色があった。先ほどよりも近くで見る海水は透明で泳いでいる魚たちまでしっかりと見える。その前には白い砂が一面に広がっており、青い海と白い砂とでコントラストを描いていた。


 シオンたちはミヒャエルに続いて、砂浜近くにある建物に入る。


「ここはプライベートビーチについてるゲストハウスだから着替えとかはここで」

「素敵です」

「ほんとね……」

「……はい」


 ゲストハウスと言われた建物は最近建てられたもののようで新しく、中もシンプルながらおしゃれな感じだ。ミヒャエルは見慣れているからか変わらないが、リアは興味津々で建物内を見て回りたそうにうずうずしているし、ティアナは感心したように頷き、フェリは驚きながらもしっぽをぶんぶんと振っていた。


「じゃあ、僕とシオンは1階奥の部屋で着替えて奥からティアナたちは2階を使って。海で合流する形でいいよね?」

「わかった、じゃあリア、フェリ、行きましょう」

「はい」

「わかりました」


 楽しそうに2階に上がっていくティアナたちを見送ってからシオンとミヒャエルは1階奥の部屋に向かった。


「そう言えば、シオンは刀を貰ったんだって?」

「はい、港近くの露店の店員さんにもらいました」

「そっか、確かにシオンはあの馬鹿と違ってパワーよりもスピードとか技術タイプだし、刀の方が向いてるかもしれないね」


 相変わらずブルーノ兄さんの扱いが酷い。思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「まあ、一長一短で覚えられるものなんてないから、焦らずに少しずつ身に着けていけばいいよ」

「はい、ちなみに刀に関する本とかも探せば見つかりますかね?」

「んー、そうだね、船で運んできている以上、他にもその国からの荷物はあるはずだからあると思うよ。戻ったら少し調べてみるよ~」

「いや、そこまでしてもらわなくても……」


 遠慮しようとするシオンの頭をミヒャエルが優しく撫でる。


「気にしないでいいんだよ~ 大事な弟が頑張ろうとしてるんだからそれぐらいはさせてね」

「ミヒャエル兄さん……ありがとうございます!」

「うん、それじゃあ、一足先に海に向かおうか」

「はい!」

 

 ミヒャエルに促されながらシオンはゲストハウスを後にして海に向かう。


「砂浜が熱くなりすぎてないみたいで良かった」

「そうですね」


 適当な場所まで移動したシオンたちはシートを敷き、パラソルを立てる。


「ふう、疲れたから僕はゆっくりしてるからシオンは先に海に入っててもいいよ~」


 ミヒャエルは準備を終えると、デッキチェアに腰かけながらのんびりし始める。どうしようか?


 そう思って居ると、後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 


 


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伯爵家の養子はこの世界を生きていく 森川 朔 @tuzuri246

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