壁の包丁

高黄森哉

公園


 公園は妙に明るかった。人工的な明るさだ。こう、硬質なような。そんでもって、この季節にしては、そこまで寒くなかった。だからといって、生温かな風が皮膚を撫でたりはしなかった。ほどほどに寒いといったところか。


 公園から出ると高架があって、高架下にはトンネルがある。トンネルは珍妙な落書きが沢山あって、おそらくクソガキが描いたと思われるお下劣な内容だ。ね死、や、ロエキ、スロコ、テケスタ、などがここでの流儀なのか、逆さまで書かれている。


 等身大の人型だ。


 クレヨンで作られた、輪郭が何重にもぶれた幼稚な絵。その子は、血で染まるお腹を押さえていて、なぜかというと包丁が刺さっているからだ。私は、『作者、考えたな』、と思った。その絵には、実際に、包丁が刺さっているのだ。


 私は吹き出した。だって、柄が刺さっているじゃないか。包丁の柄が中途半端に壁に埋まっていて、刃がこちらに向かって突き出している。まるで、壁にかかれた文字のように、あべこべだ。


 危ないな、とも思った。これが、人に刺さったらどうしてくれる。私は、途中まで露出した包丁の柄を、掴み取ろうとする。すると、スポン、と抜けた。うかつだった。私は馬鹿だ。だって、私のお腹に包丁が刺さっているではないか。


 霞む景色。こんなことで死ぬなんて信じられない気分だった。それに包丁まで腕が伸びていた。それも、壁の中から。信じられない。どうやら、私の腹に包丁が刺さった理由は、それを引っこ抜いた勢いだけでは、なかったらしい。

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壁の包丁 高黄森哉 @kamikawa2001

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